福岡のオフィスビル市場を解説!主要エリアの賃料相場と空室率

福岡のオフィスビル市場を解説!、主要エリアの賃料相場と空室率

近年、多くの企業から熱い視線が注がれている福岡市。スタートアップの聖地として、またアジアへの玄関口として、そのビジネス拠点としての価値は高まり続けています。特に「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」といった大規模な再開発プロジェクトが進行中であり、オフィス環境は劇的な変化の渦中にあります。

しかし、その一方で「実際のところ、福岡のオフィス賃料はいくらくらい?」「空室はまだあるの?」「どのエリアを選べばいいのかわからない」といった疑問や不安を抱える企業担当者の方も少なくないでしょう。

この記事では、福岡のオフィスビル市場について、最新のデータに基づいた空室率や賃料相場の動向から、主要エリアごとの特徴、オフィス拠点としての具体的なメリット、さらには物件探しのステップや市の支援制度まで、網羅的に解説します。福岡でのオフィス開設や移転を検討している方はもちろん、今後のビジネスの可能性を探るすべての方にとって、必見の情報が満載です。


データで見る福岡のオフィスビル市場の現状

空室率の推移、賃料相場の推移、オフィスビルの供給動向

福岡のオフィス市場の動向を正確に把握するためには、客観的なデータを読み解くことが不可欠です。ここでは、オフィス仲介大手が公表している最新のデータに基づき、「空室率」「賃料相場」「供給動向」の3つの側面から、福岡のオフィス市場のリアルな姿を明らかにします。

空室率の推移

オフィス市場の健全性を示す重要な指標が「空室率」です。空室率が低いほど需要が高く、市場が活況であると判断できます。

福岡市全体のオフィスビル空室率は、長らく全国の主要都市の中でも極めて低い水準で推移してきました。特に2019年頃には1%台という、テナント企業にとっては物件探しが非常に困難な状況が続いていました。

その後、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き方の変化(リモートワークの普及など)や景気の先行き不透明感から、一時的に解約の動きが広がり、空室率は上昇傾向に転じました。しかし、他の大都市圏と比較するとその上昇幅は限定的であり、福岡のオフィス需要の底堅さを示しています。

2024年に入ってからのデータを見ると、大規模な再開発プロジェクトによって新しいオフィスビルが次々と供給されているにもかかわらず、空室率は再び低下傾向、あるいは安定した水準で推移しています。例えば、大手不動産サービス会社の調査によると、2024年第1四半期の福岡ビジネス地区(天神・博多)の空室率は3%台前半で推移しており、これは市場の需給が均衡しているとされる5%を大きく下回る数値です。(参照:CBRE Japan、三幸エステート株式会社などの各社市況データ)

この背景には、以下の要因が考えられます。

  • 旺盛な拡張・移転ニーズ: DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展や事業拡大に伴い、より広く、より質の高いオフィス環境を求める企業の需要が根強く存在します。特に、最新の設備や優れた耐震性、感染症対策が施された新築ビルへの移転ニーズは非常に高いです。
  • 市外からの企業進出: 後述する福岡の持つ魅力に惹かれ、東京や大阪などから本社機能の一部や支社、開発拠点を移す企業の動きが活発です。
  • スタートアップの増加: 福岡市が推進する創業支援策の効果もあり、新たなオフィス需要を生み出すスタートアップ企業が継続的に生まれています。

今後の見通しとしては、天神・博多エリアでの大型ビル竣工が続くため、一時的に空室率が上昇する局面も考えられますが、旺盛な需要がそれを吸収し、長期的には低い水準で安定する可能性が高いと見られています。

賃料相場の推移

賃料相場は、空室率と密接な関係にあります。一般的に、空室率が下がれば需要が供給を上回っていることを意味し、賃料は上昇します。

福岡市のオフィス賃料(坪単価)は、空室率の低下と歩調を合わせるように、過去10年以上にわたって上昇トレンドが続いています。特に、築年数が浅く、設備の整ったグレードの高いビルが市場全体の賃料を牽引してきました。

最新のデータによれば、福岡市全体の平均募集賃料は、1坪あたり月額18,000円〜20,000円前後に達しており、エリアやビルのグレードによっては25,000円を超えるケースも珍しくありません。(参照:三鬼商事株式会社、三幸エステート株式会社などの各社市況データ)

この賃料上昇の主な要因は以下の通りです。

  1. 新築ビルの高水準な賃料設定: 「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」によって誕生する新しいオフィスビルは、最新鋭の設備、高い環境性能(ZEB認証など)、優れたBCP(事業継続計画)対応といった付加価値を備えています。これらのビルは、従来のビルよりも高い賃料で募集が開始され、市場全体の平均値を押し上げています。
  2. 既存ビルの賃料改定: 新築ビルの高い賃料水準に引っ張られる形で、既存のビルでも賃料の改定(値上げ)が行われるケースが増えています。特に、大規模なリノベーションを実施して競争力を高めたビルは、強気の賃料設定となる傾向があります。
  3. 強いテナント需要: 前述の通り、空室率が低い状態が続いているため、貸主側が優位な市場(貸手市場)となっています。これにより、賃料交渉の余地が少なくなり、相場全体が上昇しやすくなっています。

ただし、東京の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均賃料と比較すれば、福岡の賃料水準はまだ割安感があります。東京と同等かそれ以上の質の高いオフィス環境を、よりリーズナブルなコストで確保できる点が、多くの企業にとって福岡が魅力的に映る大きな理由の一つです。今後も再開発による供給は続きますが、それを上回る需要が見込まれるため、賃料相場は当面、高止まりか緩やかな上昇を続けると予測されています。

オフィスビルの供給動向

福岡のオフィス市場を語る上で欠かせないのが、大規模な再開発に伴う新規供給の動向です。特に「天神ビッグバン」と「博多コネクティッド」という2つのプロジェクトが、市場に大きなインパクトを与えています。

  • 天神ビッグバン:
    • 2015年から2026年末までの期間で、天神地区の約30棟の民間ビルを建て替えることを誘導するプロジェクトです。
    • 国家戦略特区による航空法高さ制限の緩和や、市独自の容積率緩和インセンティブなどが適用されます。
    • 目標として、建て替え後の延床面積は約1.7倍の約85万平方メートル、雇用者数は約2.4倍の9万7千人を見込んでいます。(参照:福岡市 天神ビッグバン公式サイト)
    • 既に「天神ビジネスセンター」(2021年竣工)や「福岡大名ガーデンシティ」(2023年竣工)といったランドマークとなるビルが誕生し、多くの企業が入居しています。
  • 博多コネクティッド:
    • 博多駅周辺地区において、耐震性の高い先進的なビルへの建て替えを促進し、新たなにぎわいと回遊性を生み出すプロジェクトです。
    • こちらも容積率の緩和などのボーナスが付与されます。
    • 目標として、2028年までに20棟のビル建て替えを誘導し、延床面積を約1.5倍に拡大することを目指しています。(参照:福岡市 博多コネクティッド公式サイト)
    • 「博多コネクタ」(2022年竣工)などが既に稼働しており、今後も博多駅周辺の景観は大きく変わっていく見込みです。

これらの再開発により、2021年から2025年にかけて、福岡市では過去に例のない規模のオフィス供給が行われます。この大量供給は、これまで慢性的な供給不足に悩まされていた福岡のオフィス市場にとって、企業の選択肢を広げる好機となります。一方で、短期的には供給過多による空室率の上昇や、ビル間の競争激化といった懸念も指摘されています。

しかし、多くの専門家は、福岡の持つポテンシャルの高さから、新規供給は旺盛な需要によって着実に吸収されていくと見ています。重要なのは、これらの新しいビルが単なる「箱」ではなく、ワーカーの創造性を刺激し、企業の成長をサポートする高付加価値な空間として提供されている点です。結果として、福岡全体のビジネス環境が底上げされ、さらなる企業誘致に繋がるという好循環が期待されています。


福岡の主要オフィスエリア別賃料相場

福岡でオフィスを探す際には、まず主要なビジネスエリアの特徴と賃料相場を理解することが第一歩です。ここでは、「博多」「天神」「薬院・渡辺通」という3つの代表的なエリアについて、その魅力と賃料の目安を解説します。

エリア名 特徴 賃料相場(坪単価・共益費込) 主なターゲット企業
博多エリア ・陸・空の玄関口で交通至便
・大手企業や支店が多い
・再開発「博多コネクティッド」が進行中
18,000円~28,000円 大手企業、全国展開する企業の支社・支店、営業拠点
天神エリア ・商業・行政の中心地
・スタートアップやIT企業が集積
・再開発「天神ビッグバン」が進行中
19,000円~30,000円以上 スタートアップ、IT・Web系企業、クリエイティブ系、本社機能
薬院・渡辺通エリア ・天神・博多へのアクセス良好
・比較的賃料がリーズナブル
・落ち着いた環境
14,000円~20,000円 コストを重視する企業、デザイン事務所、サテライトオフィス

※賃料相場はビルの築年数、規模、グレード、立地(駅からの距離など)によって大きく変動します。上記はあくまで目安として参考にしてください。

博多エリア

博多エリアは、福岡の、そして九州の玄関口として機能する交通のハブです。JR各線(新幹線含む)、市営地下鉄、バスターミナルが集結する博多駅を中心に、オフィスビルが林立しています。福岡空港まで地下鉄でわずか2駅(約5分)という圧倒的なアクセスの良さは、出張が多い企業や全国・海外と頻繁にやり取りする企業にとって、何物にも代えがたいメリットです。

エリアの特徴:

  • 交通利便性の高さ: 新幹線、在来線、地下鉄、バス、空港へのアクセスが全て揃っており、ビジネスの機動力を最大限に高めます。
  • 大手企業の集積: 金融機関や大手メーカー、商社などの支店・支社が古くから拠点を構える、信頼感のあるビジネス街です。
  • 「博多コネクティッド」による進化: 再開発により、耐震性に優れた最新鋭のオフィスビルが増加中です。歩行者ネットワークも整備され、街全体の回遊性と魅力が向上しています。

賃料相場:
博多駅直結や駅前の新しい大規模ビルでは、坪単価が25,000円を超えることも珍しくありません。駅から少し離れたり、築年数が経過したビルであれば、20,000円前後から探すことも可能です。利便性を最優先する企業に適したエリアと言えるでしょう。

こんな企業におすすめ:

  • 東京や大阪など、他拠点との連携が頻繁な企業
  • 出張が多い営業部門を持つ企業
  • 企業の信頼性やステータスを重視する企業

天神エリア

天神は、福岡における商業・ファッション・文化の中心地です。百貨店やファッションビルが立ち並び、平日・休日を問わず多くの人で賑わっています。近年は「天神ビッグバン」によってビジネス街としての顔も急速に強化されており、特にIT企業やスタートアップの集積地として注目を集めています。

エリアの特徴:

  • 商業・行政の中心: 市役所や金融機関、主要な商業施設が集中しており、ビジネスと生活の両面で利便性が高いです。
  • スタートアップ・エコシステムのハブ: 「Fukuoka Growth Next」などのインキュベーション施設があり、新しいビジネスが生まれやすい土壌があります。クリエイティブな雰囲気も魅力です。
  • 「天神ビッグバン」による街の刷新: 最新のオフィスビルが次々と誕生し、働く場所の選択肢が豊富です。緑豊かな公開空地なども整備され、ワーカーにとって快適な環境が創出されています。

賃料相場:
「天神ビッグバン」によって供給された新築ビルは、博多エリアのハイグレードビルと同等か、それ以上の賃料水準(坪単価30,000円前後)で募集されることもあります。一方で、少し路地に入った中小規模のビルや、築年数の古いビルには比較的リーズナブルな物件も存在し、選択肢の幅が広いのが特徴です。企業のブランドイメージや、従業員の働きやすさを重視する企業に人気があります。

こんな企業におすすめ:

  • IT・Webサービス、クリエイティブ系の企業
  • 優秀な若手人材の採用を強化したい企業
  • 企業の先進性やブランドイメージをアピールしたいスタートアップ

薬院・渡辺通エリア

薬院・渡辺通エリアは、天神の南側に隣接するエリアです。天神までは徒歩圏内、もしくは地下鉄やバスで1〜2駅とアクセスしやすく、博多駅へもバス路線が充実しています。都心の喧騒から一歩離れた、落ち着いた住環境とオフィス環境が共存しているのが特徴です。

エリアの特徴:

  • コストパフォーマンスの良さ: 天神・博多エリアと比較して、賃料相場が一段階リーズナブルになります。同じ予算でより広い面積を確保できる可能性があります。
  • 落ち着いた環境: 大通りから一本入ると閑静な住宅街が広がっており、静かな環境で業務に集中したい企業に適しています。おしゃれなカフェや飲食店も点在しており、ランチ環境も良好です。
  • 交通の利便性: 西鉄天神大牟田線「薬院」駅や、地下鉄七隈線「薬院」駅・「渡辺通」駅が利用でき、天神・博多へのアクセスもスムーズです。

賃料相場:
坪単価14,000円〜20,000円が中心的な価格帯となります。築浅のデザイナーズオフィスなども増えており、コストを抑えつつも、クリエイティブな空間を求める企業からの需要が高まっています。

こんな企業におすすめ:

  • 創業期のスタートアップなど、初期費用やランニングコストを抑えたい企業
  • デザイン事務所や設計事務所など、静かでクリエイティブな環境を求める企業
  • 従業員の職住近接を重視する企業

坪単価の正しい見方

オフィスの賃料を比較検討する際に最も重要な指標が「坪単価」ですが、この数字を見る際にはいくつかの注意点があります。正しく理解しないと、想定外のコストが発生する可能性があるため、以下のポイントを必ず確認しましょう。

  • 共益費(管理費)は含まれているか?
    • 物件情報には「賃料」と「共益費」が別々に記載されている場合と、「賃料(共益費込)」と記載されている場合があります。比較する際は、必ず賃料と共益費を合計した「総額」を坪数で割って、総額での坪単価を算出しましょう。共益費は、共用部分の清掃、光熱費、警備、エレベーターのメンテナンスなどに充てられる費用です。
  • 消費税は含まれているか?
    • 事業用の賃貸物件の賃料・共益費には消費税が課されます。提示されている単価が「税抜」なのか「税込」なのかを必ず確認してください。資金計画を立てる上では、常に税込価格で考えることが重要です。
  • 契約面積は「ネット面積」か「グロス面積」か?
    • ネット面積(有効面積): 実際にオフィスとして専有して使用できるスペースの面積です。
    • グロス面積(貸室面積): 専有部分に加えて、廊下、トイレ、給湯室といった共用部分の一部を面積に含めて計算する方法です。「グロス契約(壁心計算)」などと表記されます。
    • 同じ「50坪」の物件でも、ネット契約かグロス契約かで、実際に使える広さが大きく異なります。グロス契約の場合、ネット面積は表示されている面積の80%〜90%程度になることが一般的です。内覧時には、図面と実際の広さの感覚をしっかりと確認し、契約形態についても仲介会社に詳しく説明を求めることが不可欠です。

これらの点を踏まえ、複数の物件を同じ基準で比較することで、自社のニーズと予算に本当に合ったオフィスを見つけることができます。


なぜ福岡はオフィス拠点として人気?4つのメリット

若い人材やスタートアップ企業が集まりやすい環境、空港や主要駅への優れたアクセス、仕事もプライベートも充実する生活環境、アジアへの玄関口としての地理的な強み

福岡市が多くの企業を惹きつけてやまないのには、明確な理由があります。交通の便や生活環境、そして将来性。ここでは、企業が福岡をオフィス拠点として選ぶ際に決め手となる4つの大きなメリットを深掘りします。

① 若い人材やスタートアップ企業が集まりやすい環境

企業の持続的な成長に不可欠なのは「人材」です。その点で、福岡は非常に恵まれた環境にあります。

若年層人口比率の高さ:
福岡市は、政令指定都市の中で若者(10代〜20代)の人口比率がトップクラスに高いことで知られています。市内および近郊には九州大学をはじめとする多くの大学や専門学校が立地しており、毎年多くの優秀な若者が社会に巣立っていきます。これは、新卒採用や若手人材の確保を目指す企業にとって、大きなアドバンテージとなります。若者が多く活気がある街の雰囲気は、企業の創造性やイノベーションを促進する土壌にもなっています。

スタートアップ・エコシステムの醸成:
福岡市は「グローバル創業・雇用創出特区」として、国と連携してスタートアップ支援に非常に力を入れています。

  • 官民共働型の支援施設「Fukuoka Growth Next」: 旧大名小学校の跡地を活用したこの施設には、多くのスタートアップが入居し、日々新たなビジネスが生まれています。メンターからのアドバイスや、投資家とのマッチングイベントなどが頻繁に開催され、起業家同士が刺激し合えるコミュニティが形成されています。
  • 豊富な支援制度: 後述する「スタートアップ法人減税」や各種補助金、専門家による相談窓口など、創業から成長段階まで、企業のステージに合わせた手厚いサポートが用意されています。

このような環境が、「福岡で起業しよう」「福岡の企業で働きたい」と考える意欲的な人材を全国から引き寄せる磁石となっています。企業にとっては、優秀な人材プールにアクセスしやすいだけでなく、異業種のスタートアップとの協業や新たなビジネスチャンスが生まれやすいというメリットもあります。

② 空港や主要駅への優れたアクセス

ビジネスのスピードがますます重要になる現代において、交通アクセスの良さはオフィスの立地を決める上で極めて重要な要素です。福岡のアクセス性は、国内の他の主要都市と比較しても群を抜いています

「日本一便利な空港」とも言われる福岡空港:
福岡の交通利便性を象徴するのが、都心部からの距離が非常に近い福岡空港の存在です。

  • 博多駅から福岡空港まで: 市営地下鉄でわずか2駅、所要時間は約5分
  • 天神駅から福岡空港まで: 同じく市営地下鉄で5駅、所要時間は約11分

ビジネスの中心地からこれほど短時間で空港にアクセスできる都市は、世界的に見ても稀です。これにより、東京や大阪への日帰り出張も容易になり、移動にかかる時間とコストを大幅に削減できます。急な出張や来客対応にも柔軟に対応できるため、ビジネスの機動力が格段に向上します。

コンパクトにまとまった交通網:
博多駅は新幹線の停車駅であり、九州各地や本州への鉄道網の起点です。また、天神には巨大なバスターミナルがあり、市内および近郊へのバス路線が網の目のように張り巡らされています。ビジネスの中心である博多・天神エリアが非常にコンパクトにまとまっており、主要な移動は地下鉄やバス、徒歩で完結できます。この利便性は、従業員の通勤ストレスの軽減にも繋がり、ワークライフバランスの向上にも貢献します。

③ 仕事もプライベートも充実する生活環境

従業員が心身ともに健康で、意欲的に働ける環境を提供することは、企業の生産性向上や離職率低下に直結します。福岡は、この「働く人のQOL(Quality of Life)」を高める要素に満ちています。

「コンパクトシティ」としての利便性:
福岡市は、都心のすぐ近くに海や山といった豊かな自然が広がっています。

  • 職住近接: 都心部にも居住エリアが豊富で、職場の近くに住む「職住近接」のライフスタイルを実現しやすいです。これにより、長い通勤時間から解放され、プライベートな時間を有効に活用できます。
  • 豊かな自然へのアクセス: 天神からバスや電車で30分もかからずに、能古島や糸島といった美しい海辺にアクセスできます。休日に気軽にリフレッシュできる環境は、働く人にとって大きな魅力です。

世界的に評価される食文化と物価:
福岡は、ラーメン、もつ鍋、水炊きといった名物料理から新鮮な魚介類まで、安くて美味しい「食」の宝庫として知られています。都心部には屋台から高級レストランまで多様な飲食店が軒を連ね、日々のランチから会食まで、食の楽しみには事欠きません。
また、東京や大阪といった大都市圏と比較して、家賃や食費などの生活コストが比較的安いことも大きなメリットです。同じ給与水準でも可処分所得が増え、生活にゆとりが生まれるため、従業員の満足度向上に繋がります。

充実した都市機能:
ショッピング施設、美術館、コンサートホール、プロスポーツの拠点(福岡PayPayドーム、ベスト電器スタジアムなど)といった文化・娯楽施設も充実しており、仕事終わりの時間や休日を豊かに過ごせます。

仕事(ON)の利便性とプライベート(OFF)の充実が両立できる環境は、優秀な人材を惹きつけ、定着させるための強力な武器となります。

④ アジアへの玄関口としての地理的な強み

福岡は、地理的に東京よりも韓国のソウルや中国の上海に近い位置にあります。この「アジアへの近さ」は、グローバル展開を目指す企業にとって大きな戦略的アドバンテージとなります。

アジア主要都市へのアクセス:
福岡国際空港からは、ソウル、釜山、台北、上海、香港といった東アジアの主要ビジネス都市へ、多数の直行便が就航しています。

  • 福岡からソウルまで: 約1時間30分
  • 福岡から上海まで: 約1時間40分
  • 福岡から台北まで: 約2時間30分

これは、東京から札幌や沖縄へ行くのと変わらない、あるいはそれよりも短い所要時間です。このため、アジア市場をターゲットとする企業は、福岡をヘッドクォーターや統括拠点とすることで、効率的な事業展開が可能になります。

歴史的な繋がりと国際性:
福岡は古くから大陸との交流拠点として栄えてきた歴史があり、街には国際的な雰囲気が漂っています。博多港は国際コンテナ航路のハブ港であり、物流の拠点としても重要です。また、市内には多くの留学生が学んでおり、グローバル人材の採用という点でも可能性が広がります。

アジアの成長を取り込む:
今後ますます経済的な重要性が高まるアジア市場。そのダイナミズムを肌で感じながら、スピーディーにビジネスを展開できる立地は、特にIT企業や貿易関連企業、インバウンド需要を狙う企業にとって、計り知れない価値を持つでしょう。福岡に拠点を置くことは、国内市場だけでなく、成長著しいアジア市場への扉を開く鍵となり得ます。


福岡でオフィスを借りる前に知っておきたい注意点

多くのメリットを持つ福岡のオフィス市場ですが、良い面ばかりではありません。移転や開設を成功させるためには、事前に注意すべき点を理解し、対策を講じておくことが重要です。ここでは、特に留意すべき2つのポイントを解説します。

オフィスが都心部に集中している

福岡のビジネス機能は、博多駅周辺と天神エリアという2つの核に極めて強く集中しています。交通の利便性が高く、商業施設や飲食店も豊富なこれらのエリアにオフィスを構えたいと考える企業が多いのは当然です。しかし、この一極集中がいくつかの課題を生んでいます。

課題1:賃料の高騰と物件の奪い合い
需要が特定のエリアに集中するため、当然ながら博多・天神エリアの賃料は高騰します。特に、駅近のハイグレードビルや新築ビルは、高い賃料にもかかわらず空室が出るとすぐに次のテナントが決まってしまう「奪い合い」の状態が続いています。予算に限りがある企業や、広い面積を必要とする企業にとっては、希望条件に合う物件を見つけるのが困難な場合があります。

課題2:郊外エリアの選択肢の少なさ
コストを抑えるために都心部から少し離れたエリアを検討しようとしても、今度はオフィスビル自体の数が限られてくるという問題に直面します。西新、大橋、香椎といった副都心エリアにもオフィスビルは存在しますが、その数や規模は都心部に比べて圧倒的に少ないのが現状です。そのため、「都心部は賃料が高い、でも郊外には適当な物件がない」というジレンマに陥る可能性があります。

対策と視点:

  • 早めの情報収集と行動: 希望のエリアに空き物件が出るのを待つのではなく、数ヶ月から1年以上先を見越して、積極的に情報収集を開始することが重要です。信頼できるオフィス仲介会社と連携し、非公開物件や空室予定の情報をいち早くキャッチできる体制を整えましょう。
  • エリアの再検討: 本当に博多・天神でなければならないのか、自社の事業内容や働き方を改めて見直してみましょう。例えば、内勤中心で来客が少ない業種であれば、薬院・渡辺通エリアや、地下鉄空港線沿いの赤坂・大濠公園エリアなども視野に入れることで、コストパフォーマンスの高い物件に出会える可能性があります。
  • フレキシブルオフィスの活用: 本格的なオフィスを構える前段階として、まずはサービスオフィスやコワーキングスペースを短期的に利用するのも一つの手です。都心の一等地に少人数から拠点を構えられ、市場の感触を掴みながら、じっくりと長期的なオフィス探しを進めることができます。

自然災害への備えも必要

福岡は比較的災害が少ないというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、他の日本の都市と同様に、自然災害のリスクは存在します。特に、地震と水害(洪水・高潮)への備えは、BCP(事業継続計画)の観点から非常に重要です。

地震リスク:
福岡市は、市の直下を走る警固断層帯(北西部・南東部)の存在が知られています。この断層帯が活動した場合、市内広域で大きな揺れに見舞われる可能性があります。

  • 対策1:建物の耐震性の確認: オフィスビルを選ぶ際には、建築基準法が大きく改正された1981年6月1日以降の「新耐震基準」を満たしているかを必ず確認しましょう。理想を言えば、より厳しい基準で設計された2000年以降の建物や、免震・制振構造を採用した最新のビルを選ぶのが望ましいです。古いビルに入居する場合は、耐震補強工事が実施されているかを確認することが不可欠です。
  • 対策2:オフィス家具の固定と避難経路の確保: 地震の揺れによるオフィス家具の転倒や移動は、従業員の負傷や避難の妨げに繋がります。キャビネットや書棚は壁に固定し、デスク周りや通路には物を置かないなど、日頃からの対策が重要です。

水害リスク:
福岡市は博多湾に面しており、市内を那珂川や御笠川といった河川が流れています。そのため、台風や集中豪雨による高潮や河川の氾濫、内水氾濫のリスクがあります。

  • 対策1:ハザードマップの確認: オフィスを検討している地域の「洪水ハザードマップ」や「高潮ハザードマップ」を、福岡市の公式サイトなどで必ず確認しましょう。どの程度の浸水が想定されているエリアなのかを事前に把握することが、リスク評価の第一歩です。浸水想定区域にある場合は、1階ではなく2階以上にオフィスを構える、重要書類やサーバーは高い場所に保管するなどの対策が求められます。
  • 対策2:データのバックアップとリモートワーク体制の構築: 災害時にオフィスが出社不能になった場合でも事業を継続できるよう、重要なデータはクラウド上にバックアップしておくことが必須です。また、従業員が自宅などからでも業務を行えるリモートワーク環境を整備しておくことも、有効なBCP対策となります。

災害への備えは、従業員の安全を守るという企業の責務であると同時に、万が一の際に事業をいち早く復旧させ、顧客や取引先からの信頼を維持するためにも不可欠です。オフィスの物理的な安全性と、事業継続のための仕組みの両面から、十分な対策を講じておきましょう。


今後の市場を左右する2大再開発プロジェクト

現在の、そして未来の福岡オフィス市場を理解する上で、鍵となるのが「天神ビッグバン」と「博多コネクティッド」です。この2つの大規模再開発プロジェクトは、単に古いビルを新しくするだけでなく、福岡の都市構造やビジネス環境そのものを大きく変革するポテンシャルを秘めています。

① 天神ビッグバン

「天神ビッグバン」は、アジアの拠点都市としての役割・機能を高め、新たな空間と雇用を創出することを目的に、福岡市が主導して進める都心再開発プロジェクトです。航空法の高さ制限緩和や容積率緩和といった大胆なインセンティブを設けることで、老朽化した民間ビルの建て替えを促進しています。

プロジェクトの概要:

  • 対象エリア: 天神交差点から半径約500mの約80ヘクタール。
  • 期間: 2015年〜2026年末まで。
  • 主な規制緩和:
    • 航空法高さ制限の緩和: 国家戦略特区の制度を活用し、最大で115m(通常は約67m)までの高さの建築が可能に。
    • 容積率の緩和: 市独自の制度「天神ビッグバンボーナス」により、デザイン性に優れ、公開空地を確保するなどの条件を満たしたビルに対して、最大で容積率を上乗せ。
  • 目標:
    • 2026年末までに約70棟のビルの建て替えを誘導。
    • 建て替えによる延床面積の増加: 約1.7倍
    • 建て替えによる雇用者数の増加: 約2.4倍

市場へのインパクト:
天神ビッグバンは、福岡のオフィス市場に質・量ともに大きな変化をもたらしています。

  • 質の向上: 建て替えられるビルは、最新のBCP対策(免震・制振構造、非常用発電機など)、高い環境性能(ZEB認証など)、感染症対策を施した、国際基準のハイグレードオフィスです。これにより、福岡全体のオフィス環境のレベルが底上げされています。
  • 量の拡大: これまで供給不足が課題だった天神エリアに、大量のオフィススペースが新たに生まれます。これにより、企業の選択肢が広がり、新規進出や拡張移転のニーズを吸収する受け皿となっています。
  • 「働く場」から「集う場」へ: 天神ビッグバンで生まれるビルは、単なるオフィス機能だけでなく、商業施設、ホテル、ホール、そして緑豊かな広場(公開空地)などを併設しているのが特徴です。これにより、ワーカーだけでなく、市民や観光客も集う魅力的な空間が創出され、天神エリア全体の回遊性とブランド価値を高めています

既に完成した「天神ビジネスセンター」や「福岡大名ガーデンシティ」は、その象徴的な存在です。これらのビルには、国内外の有力企業が次々と入居しており、プロジェクトの成功を裏付けています。今後も複数のビルが竣工を控えており、天神はビジネス拠点として、ますますその魅力を高めていくでしょう。
(参照:福岡市 天神ビッグバン公式サイト)

② 博多コネクティッド

「博多コネクティッド」は、九州の陸の玄関口である博多駅の活力と賑わいを周辺につなげ、広げていくことを目的とした再開発プロジェクトです。こちらも容積率緩和などのインセンティブにより、耐震性の高い先進的なビルへの建て替えを誘導しています。

プロジェクトの概要:

  • 対象エリア: 博多駅から半径約500mの約80ヘクタール(筑紫口、博多口駅前広場を含む)。
  • 期間: 2019年〜2028年末まで。
  • 主な規制緩和:
    • 容積率の緩和: 「博多コネクティッドボーナス」として、賑わい創出や歩行者ネットワークへの貢献度などに応じて、最大50%の容積率を上乗せ。
  • 目標:
    • 2028年末までに20棟のビルの建て替えを誘導。
    • 建て替えによる延床面積の増加: 約1.5倍

市場へのインパクト:
博多コネクティッドは、交通結節点としての博多のポテンシャルを最大限に引き出すことを目指しています。

  • 歩行者中心のまちづくり: このプロジェクトの大きな特徴は、「歩いて楽しいまち」の実現です。ビルの建て替えに合わせて、地下や地上2階レベルでの歩行者デッキを整備し、駅から周辺のビルや街区へ雨に濡れずに快適に移動できるネットワークを構築します。これにより、街の回遊性が飛躍的に向上し、新たな人の流れと賑わいが生まれることが期待されます。
  • 交通ハブ機能の強化: 博多駅では、地下鉄七隈線の延伸開業(2023年)により、天神エリアとのアクセスがさらに向上しました。再開発によって駅前広場も再編され、交通結節点としての機能がより一層強化されます。
  • ビジネス・商業機能の高度化: 天神ビッグバン同様、建て替えられるビルは高機能なオフィスが中心ですが、同時に商業施設やMICE(国際会議や展示会)施設、ホテルなどの機能も導入されます。これにより、ビジネス客から観光客まで、多様な人々を受け入れることができる、より魅力的な駅前空間へと生まれ変わります。

博多コネクティッドによって、博多駅周辺は単なる通過点ではなく、人々が滞在し、交流する目的地へと進化を遂げます。この変革は、オフィスワーカーにとっても、より快適で刺激的なビジネス環境をもたらすことになるでしょう。
(参照:福岡市 博多コネクティッド公式サイト)

これら2つの巨大プロジェクトは、互いに連携・競争しながら、福岡を次のステージへと引き上げる両輪となっています。企業がオフィスを選ぶ際には、これらの再開発がもたらす将来の街の姿をイメージすることが、より良い選択に繋がります。


福岡の代表的なオフィスビル

福岡のオフィス市場を具体的にイメージするために、主要エリアを代表するランドマーク的なオフィスビルをいくつかご紹介します。これらのビルは、福岡のビジネスシーンを象徴する存在であり、その多くが再開発プロジェクトによって誕生した最新鋭の建物です。

博多エリアの主なオフィスビル

交通の要衝である博多駅周辺には、利便性の高い大規模オフィスビルが集まっています。

JRJP博多ビル

  • 特徴: 博多駅に直結しており、雨に濡れることなくアクセスできる抜群の立地を誇ります。低層階には商業施設「KITTE博多(マルイ)」が入り、飲食店の選択肢も豊富です。基準階面積は約870坪と広く、大規模なフロアを必要とする企業にも対応可能です。
  • 概要: 2016年竣工。地上12階、地下3階建て。博多駅前の象徴的なビルの一つであり、利便性とステータスを両立しています。
    (参照:JRJP博多ビル公式サイト)

博多コネクタ

  • 特徴: 「博多コネクティッド」の認定第1号ビルとして2022年に竣工しました。博多駅から地下通路で接続予定であり、今後の歩行者ネットワークの中核を担う存在です。最新の設備を備え、BCP性能も高く、先進的なオフィス環境を提供します。
  • 概要: 地上12階、地下2階建て。洗練された外観デザインも特徴で、博多駅筑紫口エリアの新たなランドマークとなっています。
    (参照:福岡地所株式会社 ニュースリリース等)

博多FDビジネスセンター

  • 特徴: 博多駅から徒歩圏内にありながら、比較的落ち着いたビジネスエリア「博多駅東」に位置します。2020年竣工の新しいビルで、デザイン性の高いエントランスや、効率的なオフィスレイアウトが可能な無柱空間が魅力です。
  • 概要: 地上9階建て。中小規模ながらも、機能性とデザイン性を兼ね備えたビルとして、成長企業などから人気を集めています。
    (参照:福岡地所株式会社 物件情報等)

天神エリアの主なオフィスビル

商業とビジネスが融合する天神エリアでは、「天神ビッグバン」を象徴する革新的なビルが次々と誕生しています。

福岡大名ガーデンシティ

  • 特徴: 「天神ビッグバン」の中核をなす大規模複合開発として、2023年に全面開業しました。約3,000㎡の広大な芝生広場を中央に配し、オフィス棟、商業施設、そして九州初進出の「ザ・リッツ・カールトン福岡」で構成されています。オフィス棟は国内最高レベルの耐震性能を誇り、緑豊かな開放的な環境で働くことができます。
  • 概要: オフィス棟は地上25階、高さ約111m。天神エリアの新たな価値を創造する、まさにランドマークと呼ぶにふさわしい施設です。
    (参照:福岡大名ガーデンシティ公式サイト)

天神ビジネスセンター

  • 特徴: 「天神ビッグバン」の第1号プロジェクトとして2021年に竣工。地下鉄天神駅に直結しており、交通アクセスは抜群です。ビル内の換気システムにウイルス除去効果のあるフィルターを導入するなど、感染症対策にも力を入れています。ピクセル化されたような特徴的な外観デザインも注目を集めています。
  • 概要: 地上19階、地下2階建て。新しい天神の幕開けを象徴するビルとして、多くの先進企業を惹きつけています。
    (参照:天神ビジネスセンター公式サイト)

リクルート天神ビル

  • 特徴: 天神の中心部、渡辺通りに面して建つ視認性の高いオフィスビルです。天神の主要な商業施設や金融機関に囲まれており、ビジネスを行う上での利便性は非常に高いです。築年数は経過していますが、管理が行き届いており、安定した人気を保っています。
  • 概要: 地上10階、地下2階建て。天神のビジネスシーンを長年支えてきた、信頼感のあるビルの一つです。
    (参照:不動産情報サイト等の物件概要)

ここで挙げたビルはほんの一例です。福岡には、この他にも多種多様なオフィスビルが存在します。自社の事業規模や業種、企業文化に合ったビルを見つけることが、オフィス移転を成功させる鍵となります。


失敗しない!福岡でのオフィス探しの3ステップ

目的と事業規模を明確にする、立地や周辺環境を詳しく調べる、複数の物件を内覧して比較する

魅力的な物件が増えている福岡ですが、選択肢が多いからこそ、計画的にオフィス探しを進めなければ失敗に繋がりかねません。ここでは、自社に最適なオフィスを見つけるための、基本的かつ重要な3つのステップをご紹介します。

① 目的と事業規模を明確にする

物件探しを始める前に、まず「なぜオフィスを移転するのか(あるいは新設するのか)」という目的を徹底的に明確にすることが最も重要です。目的が曖昧なままでは、物件選びの軸がぶれてしまい、後から「こんなはずではなかった」という事態に陥りかねません。

明確にすべき項目リスト:

  • 移転・開設の目的:
    • 人員増加への対応: 現在のオフィスが手狭になったため。
    • コスト削減: 現在の賃料を見直し、ランニングコストを抑えたい。
    • 人材採用の強化: より魅力的でアクセスしやすい立地に移転し、採用競争力を高めたい。
    • ブランディング向上: 企業の成長に合わせて、よりグレードの高いビルに移転したい。
    • 事業拠点の分散(BCP対策): 東京一極集中リスクを回避するため。
    • 働き方改革の推進: フリーアドレスやWeb会議に適した、新しい働き方を実現できる環境が欲しい。
  • 事業規模と将来計画:
    • 現在の従業員数: 何人で利用するのか。
    • 将来の人員計画: 3年後、5年後に何人まで増える可能性があるのか。将来の増員を見越して、少し広めの物件を選ぶか、あるいは将来的に増床や分室が可能なビルを選ぶという視点が重要です。
    • 必要な面積: 一般的に、従業員1人あたりに必要なオフィス面積は2〜4坪が目安とされています。集中ブースや会議室、リフレッシュスペースなどをどの程度設けるかによって、必要な総面積は変わってきます。
  • 予算の設定:
    • 月額賃料の上限: 賃料、共益費、消費税をすべて含めた総額で、いくらまで支払えるかを明確にします。
    • 初期費用: 敷金(保証金)、礼金、仲介手数料、前払賃料、内装工事費、什器購入費、引越し費用など、賃料の6ヶ月〜12ヶ月分程度の初期費用がかかることを見越して、資金計画を立てておきましょう。

これらの項目を社内で十分に議論し、優先順位をつけた「要件定義書」を作成することをおすすめします。これが、オフィス探しにおける羅針盤となります。

② 立地や周辺環境を詳しく調べる

要件定義が固まったら、次はその条件に合う立地を探します。物件の住所や最寄り駅だけでなく、その周辺環境が自社のビジネスや従業員にとって本当に適しているかを、多角的な視点で詳しくリサーチすることが失敗を防ぐ鍵です。

チェックすべき周辺環境のポイント:

  • 従業員の通勤利便性:
    • 主要な交通アクセス: 最寄り駅はどこか、複数路線が利用できるか。主要なターミナル駅(博多、天神)へのアクセスはどうか。
    • 従業員の居住エリアからのアクセス: 従業員が現在住んでいる場所から、無理なく通勤できる範囲か。採用ターゲットとなる層が多く住むエリアからのアクセスも考慮に入れると良いでしょう。
  • ビジネス上の利便性:
    • 主要な取引先へのアクセス: 頻繁に訪問する取引先がある場合、その会社へのアクセスも考慮に入れるべきです。
    • 金融機関や郵便局の場所: 銀行の支店や郵便局が近くにあると、日々の業務がスムーズになります。
    • 役所へのアクセス: 官公庁への手続きが多い業種の場合は、市役所や区役所への近さも重要です。
  • ランチ・生活環境:
    • 飲食店の充実度: 従業員の満足度に直結するのがランチ環境です。コンビニ、弁当屋、定食屋、カフェなど、選択肢が豊富にあるか。価格帯も重要です。実際に候補地の周りを歩いて、お店の数や種類を確認してみることを強くおすすめします。
    • 周辺の雰囲気: 繁華街で賑やかすぎる場所は、業種によっては集中しにくいかもしれません。逆に、静かすぎると夜道が不安という声も出るかもしれません。昼と夜、平日と休日で街の雰囲気がどう変わるかも見ておくと良いでしょう。

これらの情報は、地図アプリやWebサイトである程度調べることもできますが、最終的には必ず現地に足を運び、自分の目で見て、肌で感じることが不可欠です。

③ 複数の物件を内覧して比較する

候補となる物件をいくつか絞り込んだら、いよいよ内覧です。図面や写真だけでは決してわからない、リアルな情報を得るための最も重要なプロセスです。

内覧時に必ずチェックすべきポイント:

  • 室内の状況:
    • 広さと形状: 図面で想定していた広さと実際の感覚にギャップはないか。柱の位置や形状は、デスクレイアウトの妨げにならないか。天井高も重要で、高いほど開放感があります
    • 日当たりと眺望: 窓の向きや大きさ、周辺の建物の状況を確認します。日当たりが良いとオフィスが明るくなり、電気代の節約にも繋がります。
    • コンセントの位置と数、空調: OAフロア(床下に配線スペースがあるもの)かどうか。コンセントの数が十分か。空調の効き具合や、個別空調かセントラル空調(ビル一括管理)かも確認しましょう。
  • 共用部分の状況:
    • エントランスと廊下: ビルの「顔」であるエントランスは清潔で高級感があるか。来客に良い印象を与えられるか。
    • トイレと給湯室: 男女別のトイレか、清潔に保たれているか。ウォシュレットの有無など、特に女性従業員はトイレの快適性を重視する傾向があります。
    • エレベーターの数と待ち時間: 従業員数に対してエレベーターの数は十分か。朝の通勤ラッシュ時に、ストレスなく利用できそうか。
  • ビル全体の管理状況:
    • 管理人の常駐: 日中、管理人が常駐しているか。
    • 清掃状況: 共用部が清潔に保たれているか。
    • セキュリティ: オートロックや機械警備の有無、夜間の入退館方法などを確認します。

比較検討のコツ:
内覧する際は、チェックリストを事前に用意し、複数の担当者で手分けして確認すると漏れがありません。また、スマートフォンのカメラで気になった点を写真や動画で撮影しておくと、後で比較検討する際に非常に役立ちます。

最低でも3つ以上の物件を内覧し、それぞれのメリット・デメリットを客観的に比較することで、自社にとっての「ベストな選択」が見えてくるはずです。焦って一つの物件に決めず、時間をかけてじっくりと検討しましょう。


知っておくとお得!福岡市のスタートアップ支援制度

スタートアップ・エコシステム拠点都市、スタートアップ法人減税、福岡市スタートアップ・サポーターズ

福岡市は「スタートアップ都市」を宣言し、起業家や新しいビジネスを強力にバックアップする体制を整えています。特に、これから福岡に拠点を構えようとするスタートアップやベンチャー企業にとって、知っておくだけで大きなメリットとなる支援制度が多数存在します。

スタートアップ・エコシステム拠点都市

福岡市は、内閣府が進める「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の一つとして、2020年に「グローバル拠点都市」に選定されています。これは、東京、中部、関西圏と並ぶ、日本のスタートアップ・エコシステムの中心地として、国からのお墨付きを得たことを意味します。

拠点都市に選定されることのメリット:

  • 国からの集中支援: 国のさまざまな支援施策(補助金、規制緩和など)へのアクセスがしやすくなります。
  • グローバルなネットワーク: 海外のアクセラレーター(起業支援者)やベンチャーキャピタルとの連携が強化され、海外展開を目指す企業にとってのチャンスが広がります。
  • ブランド力の向上: 「国の拠点都市」というブランドは、企業の信用度を高め、資金調達や人材採用の面で有利に働くことがあります。

福岡市は、この認定を追い風に、地域の大学や企業、金融機関と連携し、世界と伍するスタートアップ・エコシステムの形成を加速させています。福岡にオフィスを構えることは、こうした強力なエコシステムの一員になることを意味します。
(参照:内閣府 スタートアップ・エコシステム拠点都市)

スタートアップ法人減税

福岡市で起業する企業にとって、最も直接的でインパクトの大きい支援策が「スタートアップ法人減税」です。これは、国家戦略特区の制度を活用した、福岡市独自の画期的な税制優遇措置です。

制度の概要:

  • 対象: 福岡市内で、特定の知識創造型産業(IT、コンテンツ、医療・福祉、環境・エネルギーなど)や国際競争力強化に資する事業分野で新たに会社を設立した企業。
  • 要件: 設立から5年以内で、いくつかの要件(「福岡市雇用促進奨励金」の認定など)を満たす必要があります。
  • 減税内容: 創業から最大5年間、法人市民税の法人税割額が全額免除されます。さらに、国税である法人税も、課税所得から最大20%が控除されます。
  • インパクト: 創業初期は、売上が安定せず資金繰りが厳しい時期です。この時期に法人税や法人市民税の負担が大幅に軽減されることは、企業の生存率を高め、事業を成長軌道に乗せるための大きな助けとなります。浮いた資金を、研究開発や人材採用、マーケティングといった未来への投資に回すことができます。

この制度は、福岡市が本気でスタートアップを育てようとしている姿勢の表れです。これから福岡市で法人を設立しようと考えている方は、自社の事業が対象になるかどうか、必ず福岡市の公式サイトなどで詳細を確認することをおすすめします。
(参照:福岡市 スタートアップ法人減税(国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」))

福岡市スタートアップ・サポーターズ

「福岡市スタートアップ・サポーターズ」は、地元の企業や専門家が、自社のリソースやノウハウを活かしてスタートアップを支援する、官民連携の取り組みです。

受けられる支援の例:

  • 製品・サービスの割引提供: 地元企業が提供するWebサービスやオフィス什器などを、特別価格で利用できる場合があります。
  • 専門家によるメンタリング: 弁護士、税理士、弁理士といった専門家が、法務・税務・知財などの相談に無料で応じてくれることがあります。
  • コワーキングスペースの利用優待: 提携するコワーキングスペースを割引料金で利用できるなど、オフィスコストの削減に繋がります。
  • ビジネスマッチング: サポーター企業との協業や、新たな販路の紹介など、ビジネスチャンスの拡大に繋がる支援を受けられる可能性があります。

この制度の素晴らしい点は、資金面だけでなく、事業運営に必要なさまざまな「繋がり」や「ノウハウ」を得られることです。特に、福岡に土地勘のない市外からの進出企業にとっては、地域に根ざしたネットワークを迅速に構築するための強力な足がかりとなります。

これらの支援制度をうまく活用することで、福岡での事業立ち上げをよりスムーズに、そして低コストで行うことが可能です。オフィス探しと並行して、自社が利用できる支援制度についても情報収集を進めていきましょう。
(参照:福岡市 スタートアップ・サポーターズ制度)


福岡のオフィス探しにおすすめの仲介会社5選

福岡には数多くの不動産仲介会社が存在しますが、オフィス物件を専門に、あるいは得意とする会社は限られます。ここでは、福岡でのオフィス探しにおいて、豊富な情報量と専門性で力になってくれる代表的な仲介会社を5社ご紹介します。

① 株式会社IPPO

  • 特徴: スタートアップやベンチャー企業に特化したオフィス仲介で知られています。企業の成長フェーズに合わせたオフィス戦略の提案を得意としており、単なる物件紹介に留まらず、資金調達や採用まで見据えたアドバイスを受けられるのが強みです。福岡のスタートアップ・エコシステムにも精通しており、最新の市場動向や支援制度の情報も豊富です。
  • こんな企業におすすめ: 創業期のスタートアップ、急成長中のベンチャー企業、将来の拡張を見据えたオフィス戦略を立てたい企業。
    (参照:株式会社IPPO公式サイト)

② 株式会社スリーエイチ

  • 特徴: 「居抜きオフィス」の仲介に強みを持つ会社です。居抜きオフィスとは、前のテナントが使用していた内装や什器をそのまま引き継いで入居できる物件のこと。内装工事費や什器購入費といった初期費用を大幅に削減できるため、コストを抑えたい企業にとって非常に魅力的です。豊富な居抜き物件情報の中から、自社のイメージに合ったオフィスを見つけられる可能性があります。
  • こんな企業におすすめ: 初期費用をできるだけ抑えたい企業、短期間でスピーディーに移転を完了させたい企業。
    (参照:株式会社スリーエイチ公式サイト)

③ 株式会社ビルプランナー

  • 特徴: 全国主要都市に拠点を構える、オフィス専門の仲介会社大手です。福岡支店も長年の実績があり、大手デベロッパーやビルオーナーとの強いリレーションシップを持っています。そのため、小規模オフィスから大規模なフロアまで、取り扱い物件の幅が広く、非公開物件の情報も期待できます。組織的な対応力と安定感が魅力です。
  • こんな企業におすすめ: 100坪以上の大規模なオフィスを探している企業、信頼と実績を重視する企業。
    (参照:株式会社ビルプランナー公式サイト)

④ オフィスナビ株式会社

  • 特徴: こちらも全国展開するオフィス専門の仲介会社で、Webサイトでの物件検索のしやすさに定評があります。エリアや面積、賃料といった基本的な条件だけでなく、「新築」「駅直結」「1階」といったこだわり条件での絞り込みが容易で、効率的に情報収集ができます。福岡エリアの物件情報も非常に豊富に掲載されています。
  • こんな企業におすすめ: まずはWebで幅広く物件情報を収集したい企業、具体的な希望条件が固まっている企業。
    (参照:オフィスナビ株式会社公式サイト)

⑤ 株式会社オフィルド

  • 特徴: 福岡に本社を構え、地域に密着したきめ細やかなサービスを提供しているオフィス仲介会社です。地元のビルオーナーとの繋がりが深く、大手にはない独自の物件情報を持っている可能性があります。福岡の地理や商習慣を熟知したスタッフから、実践的なアドバイスを受けられるのも強みです。
  • こんな企業におすすめ: 地元ならではの情報を重視する企業、担当者と密にコミュニケーションを取りながらオフィス探しを進めたい企業。
    (参照:株式会社オフィルド公式サイト)

これらの仲介会社はそれぞれに強みや特徴があります。自社の規模や目的、オフィス探しにかけられる時間などを考慮し、複数の会社に相談してみるのも良いでしょう。信頼できるパートナーを見つけることが、満足のいくオフィス移転への近道です。


まとめ

本記事では、データに基づく福岡のオフィス市場の現状から、主要エリアの特徴、福岡が選ばれる理由、そしてオフィス探しの具体的なステップまで、多角的に解説してきました。

最後に、重要なポイントを改めて確認しましょう。

  • 市場の現状: 福岡のオフィス市場は、「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」という2大再開発に牽引され、活況を呈しています。空室率は低い水準で推移し、賃料は上昇傾向にありますが、東京に比べればまだ割安感があります。
  • エリア選定: 交通のハブである「博多」、商業とスタートアップの中心地「天神」、コストと住環境のバランスが良い「薬院・渡辺通」など、エリアごとの特徴を理解し、自社の事業に最適な場所を選ぶことが重要です。
  • 福岡の魅力: 「若い人材の豊富さ」「圧倒的な交通利便性」「高い生活の質(QOL)」「アジアへの近さ」といった数多くのメリットが、企業を惹きつけています。
  • オフィス探しの要点: 成功の鍵は、①目的の明確化、②周辺環境の入念なリサーチ、③複数の物件の内覧と比較、という3つのステップを丁寧に進めることです。
  • 支援制度の活用: 福岡市が提供する「スタートアップ法人減税」などの手厚い支援制度を最大限に活用することで、事業の立ち上げと成長を加速させることができます。

福岡は、今まさに未来に向けて大きく飛躍しようとしている都市です。次々と誕生する最新鋭のオフィスビル、活気あふれるスタートアップ・コミュニティ、そして快適な生活環境。これらが融合することで生まれるエネルギーは、そこで働く人々の創造性を刺激し、企業の成長を力強く後押ししてくれるでしょう。

この記事が、貴社の福岡でのオフィス戦略を考える上で、そして素晴らしいビジネスの未来を築くための一助となれば幸いです。