店舗やオフィスの開業を考える際、物件選びは成功を左右する極めて重要なステップです。その中でも、物件の状態を表す「居抜き」と「スケルトン」という言葉は、初期費用から開業までのスピード、さらには事業の将来性にまで大きな影響を与えます。しかし、この二つの違いを正確に理解し、自身のビジネスプランに最適な選択ができている人は意外と少ないのではないでしょうか。
「初期費用を抑えたい」「内装には徹底的にこだわりたい」「できるだけ早くオープンしたい」など、開業にあたっての希望は人それぞれです。居抜き物件とスケルトン物件は、それぞれに明確なメリットとデメリットがあり、どちらか一方が絶対的に優れているというものではありません。重要なのは、それぞれの特性を深く理解し、自身の事業計画、資金計画、そしてブランド戦略に照らし合わせて、最適な選択をすることです。
この記事では、店舗開業を目指すすべての方に向けて、居抜き物件とスケルトン物件の基本的な定義から、費用、期間、設計の自由度といった具体的な違い、さらにはそれぞれのメリット・デメリットまでを徹底的に比較・解説します。また、業種別・ケース別の選び方のポイントや、契約前に必ず確認すべき注意点についても詳しく掘り下げ、後悔しない物件選びをサポートします。
この記事を読み終える頃には、あなたは居抜きとスケルトンの違いを明確に理解し、自身のビジネスにどちらがふさわしいかを自信を持って判断できるようになっているでしょう。
目次
居抜き物件とは
居抜き物件とは、前のテナント(借主)が使用していた内装、設備、什器(じゅうき)などがそのまま残された状態で貸し出される物件のことです。具体的には、飲食店であれば厨房設備やカウンター、テーブル、椅子、空調設備、内装などが、美容室であればシャンプー台やセット面の椅子、鏡などが残っている状態を指します。
この「居抜き」という形態が成立する背景には、退去するテナントと新たに入居するテナント、そして物件のオーナー(貸主)の三者それぞれにメリットがあるからです。退去する側は、本来であれば物件を借りた当初の何もない状態(スケルトン状態)に戻す「原状回復義務」を負いますが、これには高額な解体費用がかかります。しかし、次の入居者が内装や設備をそのまま引き継いでくれれば、この原状回復費用を大幅に削減、あるいはゼロにできます。さらに、まだ使える設備や価値のある内装を次の入居者に売却することで、「造作譲渡料(ぞうさくじょうとりょう)」として収入を得ることも可能です。
一方、新たに入居する側にとっては、内装工事や設備導入にかかる初期費用を大幅に削減できる点が最大の魅力です。ゼロから店舗を作り上げる場合に比べて、数百万円から、場合によっては一千万円以上のコストダウンが期待できます。また、大掛かりな工事が不要なため、契約から開業までの期間を劇的に短縮できるのも大きなメリットです。
物件オーナーにとっても、居抜き物件はメリットがあります。退去から次の入居までの空室期間を短くできるため、家賃収入が途絶えるリスクを最小限に抑えられます。また、同業種のテナントが続けて入居することで、その場所が「〇〇の店がある場所」として地域に認知されやすくなり、物件そのものの価値向上にも繋がります。
居抜き物件が特に多く見られるのは、厨房設備に多額の投資が必要となる飲食店です。レストラン、カフェ、バー、ラーメン店など、あらゆる飲食業態で居抜き物件の取引が活発に行われています。その他にも、専門的な設備が不可欠な美容室、サロン、クリニック、あるいは什器の多い物販店などでも、居抜き物件は有効な選択肢となります。
ただし、居抜き物件にはメリットばかりではありません。残された設備が老朽化していてすぐに故障するリスクや、前の店のレイアウトが自分の理想とする動線と合わないといった「設計の自由度の低さ」、さらには前の店の評判が悪かった場合にその「負のイメージ」を引き継いでしまう可能性など、考慮すべきデメリットも存在します。
居抜き物件を選ぶということは、初期投資と時間を節約する代わりに、ある程度の制約を受け入れるというトレードオフの関係にあることを理解することが、成功への第一歩と言えるでしょう。
スケルトン物件とは
スケルトン物件とは、その名の通り、建物の構造体(骨格)がむき出しになった状態の物件を指します。具体的には、床・壁・天井がコンクリート打ちっぱなし、あるいは下地材のままで、内装や設備が一切ない状態です。テナント物件としては最も基本的な形態であり、「コンクリート打ちっぱなし物件」や「内装なし物件」などと呼ばれることもあります。
このスケルトン状態は、賃貸借契約における「原状回復義務」と密接に関連しています。多くの事業用物件の賃貸借契約では、テナントは退去時に、自らが設置した内装や設備をすべて撤去し、借りた当初の状態、つまりスケルトン状態に戻して返還することが定められています。このため、新築ビルだけでなく、前のテナントが退去した後の物件もスケルトン状態で募集されることが一般的です。
入居するテナントにとって、スケルトン物件を選ぶ最大のメリットは、圧倒的な設計・レイアウトの自由度の高さです。何もない空間だからこそ、床材や壁紙、照明、天井のデザインといった内装はもちろん、厨房や客席の配置、スタッフルームやトイレの位置まで、自社のブランドコンセプトや事業内容に合わせてゼロから理想の空間を創造できます。独自のこだわりや世界観を表現したい、他店との差別化を明確に打ち出したいと考える事業者にとっては、この上ない魅力と言えるでしょう。
また、すべての設備を新品で導入できる点も大きなメリットです。厨房機器や空調、給排水設備などを最新のものにすることで、高いエネルギー効率や優れた機能性を享受できます。中古設備にありがちな故障のリスクや、メンテナンスの煩わしさからも解放され、長期的に見れば安定した店舗運営に繋がります。衛生管理が特に重要視される飲食店やクリニックにとっては、すべての設備が新品であるという安心感は計り知れません。
しかし、これらのメリットは、相応のデメリットと表裏一体の関係にあります。最大のデメリットは、高額な初期費用です。内装工事はもちろん、電気・ガス・水道・空調・換気といったインフラ設備工事もすべてゼロから行う必要があるため、居抜き物件に比べて費用は格段に跳ね上がります。物件の規模や業種、内装のグレードにもよりますが、数百万円から数千万円の投資が必要になることも珍しくありません。
さらに、開業までの期間が長くなることも覚悟しなければなりません。店舗コンセプトの策定から始まり、設計デザイナーとの打ち合わせ、施工業者の選定、そして実際の工事と、多くのステップを踏む必要があります。設計に数ヶ月、工事に数ヶ月かかることもあり、その間の家賃(空家賃)も発生するため、資金計画には十分な余裕を持たせる必要があります。
スケルトン物件は、独自のブランドを確立したい高級レストランやデザイナーズカフェ、コンセプトを重視するアパレルショップ、専門的なレイアウトが求められるクリニックなど、初期投資をかけてでも理想の空間を実現したいと考える事業者に特に選ばれる傾向があります。
スケルトン物件を選ぶということは、時間とコストを投資する代わりに、理想の空間とブランディングの自由度を手に入れるという選択であり、長期的な視点での事業戦略が求められます。
一目でわかる!居抜きとスケルトンの違い比較表
ここまで、居抜き物件とスケルトン物件それぞれの基本的な特徴について解説してきました。両者の違いをより直感的に理解するために、主要な比較項目を表にまとめました。この表を見れば、どちらの物件タイプがご自身の事業計画や資金状況に適しているか、大まかな方向性を掴むことができるはずです。
比較項目 | 居抜き物件 | スケルトン物件 |
---|---|---|
初期費用 | 安い(内装・設備費を大幅に削減可能) | 高い(内装・設備工事に多額の費用が必要) |
開業までの期間 | 短い(数週間〜2ヶ月程度) | 長い(数ヶ月〜半年以上かかることも) |
設計・レイアウト | 自由度が低い(既存のレイアウトが基本) | 自由度が非常に高い(ゼロから自由に設計可能) |
設備の状態 | 中古(老朽化・故障のリスクあり) | 新品(最新設備を導入可能、故障リスク低い) |
撤退時の費用 | 安い傾向(次の居抜きを探せば原状回復免除も) | 高い(スケルトンに戻すための解体費用が発生) |
集客効果 | 前の店の顧客や認知度を引き継げる可能性がある | ゼロからのスタート(自力での集客が必須) |
おすすめな人 | 初期費用を抑えたい人、早く開業したい人 | こだわりの空間を作りたい人、ブランドを確立したい人 |
この表はあくまで一般的な傾向を示すものです。個別の物件の条件や契約内容によって状況は大きく異なるため、一つの判断材料としてご活用ください。次の章では、この表で挙げた各項目について、さらに詳しく、具体的な視点から掘り下げて解説していきます。
【項目別】居抜きとスケルトンの違いを詳しく解説
前の章の比較表で、居抜き物件とスケルトン物件の全体像を掴んでいただけたかと思います。ここでは、それぞれの比較項目について、より深く、具体的な内容に踏み込んで解説します。ご自身の事業計画と照らし合わせながら、どちらの選択がより現実的で、かつ理想に近いかを判断する材料にしてください。
初期費用
開業時に最も気になるのが初期費用でしょう。この点で、居抜きとスケルトンは対照的な特徴を持っています。
- 居抜き物件: 最大のメリットは初期費用を大幅に抑えられることです。通常、店舗開業費用の中で最も大きなウェイトを占めるのが、内装工事費と設備購入費です。スケルトンから飲食店を開業する場合、内装工事費だけで坪単価30万円〜60万円、厨房設備一式で数百万円かかることも珍しくありません。居抜き物件では、これらの費用がほとんどかからないか、部分的な改修費用で済むため、総額で数百万円から一千万円以上のコスト削減に繋がる可能性があります。ただし、「造作譲渡料」が発生する点には注意が必要です。これは前のテナントが残した内装や設備を買い取るための費用で、無償の場合もあれば、数百万円にのぼることもあります。それでも、ゼロからすべてを揃えるよりは安価なケースがほとんどです。
- スケルトン物件: 初期費用は高額になります。内装・外装工事、電気・ガス・水道・空調・換気といったインフラ設備工事、厨房機器や什器の購入・設置費など、すべてをゼロから負担する必要があります。費用の目安として、飲食店の内装工事費は坪単価30万円〜、デザイン性の高い店舗では坪単価100万円を超えることもあります。20坪の店舗であれば、内装工事だけで600万円以上、そこに設備費や設計費が上乗せされます。十分な自己資金や融資の確保が絶対条件となります。
開業までの期間
開業までのスピードは、事業の滑り出しを左右する重要な要素です。
- 居抜き物件: 短期間での開業が可能です。物件契約後、大掛かりな工事が不要なため、清掃や部分的な手直し、備品の搬入、行政手続き(営業許可申請など)が済めば、すぐにでも営業を開始できます。早ければ数週間、長くても1〜2ヶ月程度でオープンできるでしょう。この期間の短さは、オープンまでの空家賃を最小限に抑え、一日でも早く収益を上げ始められるという大きなメリットに繋がります。
- スケルトン物件: 開業までに長い期間を要します。コンセプト決定後、設計者や施工業者を選定し、詳細な設計図を作成、その後ようやく工事に着手します。設計に1〜2ヶ月、工事に2〜3ヶ月かかるのが一般的で、物件探しから含めると半年から1年以上かかるケースも少なくありません。この間、事業収益はゼロであるにもかかわらず、家賃(空家賃)を支払い続ける必要があるため、運転資金にも大きな影響を与えます。
設計・レイアウトの自由度
店舗の使い勝手やブランドイメージを決定づけるのが、設計とレイアウトです。
- 居抜き物件: 設計やレイアウトの自由度は低いと言わざるを得ません。厨房の位置、壁の位置、トイレの場所など、基本的な構造は前の店のものを引き継ぐことになります。動線を改善するために壁を一部撤去したり、内装のテイストを変えたりする程度の改修は可能ですが、抜本的な変更は困難であり、もし行う場合は高額な追加費用が発生します。自分の理想とするレイアウトと、既存のレイアウトがどれだけ近いかが、物件選びの重要なポイントになります。
- スケルトン物件: 設計・レイアウトの自由度は非常に高いのが最大の魅力です。何もない空間だからこそ、お客様の動線、スタッフの作業効率、ブランドコンセプトの表現など、あらゆる要素を考慮した完全オリジナルの空間をゼロから創造できます。壁の素材から照明の位置、コンセントの数に至るまで、細部にまでこだわることが可能です。独自の世界観を強く打ち出したい事業者にとっては、この上ないメリットです。
設備の状況
店舗運営の心臓部とも言える設備は、日々のオペレーションに直結します。
- 居抜き物件: 設備はすべて中古品です。まだ新しいものもあれば、長年使われて老朽化が進んでいるものもあります。引き渡し前に専門業者による点検を行うことが推奨されますが、それでも隠れた不具合や、すぐに故障してしまうリスクは常に付きまといます。修理費用や買い替え費用が予期せず発生する可能性を、あらかじめ事業計画に織り込んでおく必要があります。また、リース契約の設備が残っている場合、その契約を引き継ぐ必要があるかどうかも重要な確認事項です。
- スケルトン物件: すべての設備を新品で導入できます。最新の省エネ性能が高い機器を選べば、長期的なランニングコストを削減できます。また、メーカー保証が付いているため、当面は故障のリスクを心配する必要がありません。安定した店舗運営と、高い作業効率を求めるのであれば、新品設備を導入できるスケルトン物件は非常に魅力的です。
撤退時の原状回復費用
万が一、事業がうまくいかず撤退することになった場合の出口戦略も考えておく必要があります。
- 居抜き物件: 撤退時の費用を抑えられる可能性があります。入居時と同様に、次のテナントを居抜きで募集し、内装や設備を引き継いでもらえれば、スケルトンに戻すための原状回復費用が免除されるケースが多くあります。これを「居抜き売却」と呼び、造作譲渡料を得られる可能性もあります。ただし、次の借り手が見つからなければ、契約通りに原状回復義務を負うことになるリスクも忘れてはなりません。
- スケルトン物件: 原則として、高額な原状回復費用が発生します。自ら時間と費用をかけて作り上げた内装や設備を、すべて自らの費用で解体・撤去し、借りた当初のスケルトン状態に戻さなければなりません。この費用は数百万円にのぼることもあり、撤退時の大きな負担となります。
集客効果
開業当初の集客は、事業を軌道に乗せるための重要な課題です。
- 居抜き物件: 前の店の顧客や認知度を引き継げる可能性があります。特に、同業種で評判の良い店だった場合、「以前のお店の跡地に新しい店ができた」というだけで、一定の注目を集めることができます。立地の良さや「ここには飲食店がある」という地域住民の認識は、ゼロから始めるスケルトン物件にはない大きなアドバンテージです。ただし、逆に前の店の評判が悪かった場合は、そのマイナスイメージを払拭するための努力が必要になります。
- スケルトン物件: 集客は完全にゼロからのスタートです。店舗の存在を地域に知ってもらうための、積極的な広告宣伝活動が不可欠です。しかし、裏を返せば、まっさらな状態から自社のブランドイメージを純粋な形で構築できるというメリットでもあります。他店のイメージに左右されることなく、独自の力でファンを獲得していく醍醐味があります。
居抜き物件のメリット
居抜き物件は、特に開業時のハードルを下げてくれる多くのメリットを持っています。資金や時間に制約がある場合や、初めての開業でリスクを抑えたい場合に、非常に強力な選択肢となります。ここでは、その具体的なメリットを3つの側面に分けて詳しく解説します。
開業費用を安く抑えられる
居抜き物件が持つ最大の魅力は、何と言っても開業にかかる初期費用を劇的に削減できることです。店舗を開業する際には、物件取得費(敷金、礼金、保証金など)の他に、内装・外装工事費、設備購入費、什器購入費など、多岐にわたる費用が発生します。この中でも特に高額になりがちなのが、内装工事費と設備購入費です。
例えば、20坪のスケルトン物件で飲食店を開業するケースを考えてみましょう。
内装工事費は、坪単価30万円〜60万円が相場とされており、仮に坪40万円とすると、20坪で800万円。厨房設備(業務用冷蔵庫、コールドテーブル、製氷機、フライヤー、コンロ、シンク、食洗機など)を一式新品で揃えると、300万円〜500万円程度はかかります。さらに空調設備や排気ダクト工事なども加えると、内装と設備だけで1,500万円を超えても不思議ではありません。
一方、居抜き物件であれば、これらの内装や設備がすでに備わっています。もちろん、壁紙の張り替えや看板の設置、一部設備の入れ替えなど、多少の改修費用は必要になるかもしれませんが、ゼロから作り上げるのに比べて費用負担は格段に軽くなります。
「造作譲渡料」として前のテナントに支払う費用が発生することもありますが、これは残置物の価値に応じて設定されるもので、相場は数十万円から数百万円程度です。仮に300万円の造作譲渡料を支払ったとしても、スケルトンから1,500万円かけて開業するのに比べれば、1,000万円以上の資金を節約できたことになります。
この節約できた資金を、運転資金や広告宣伝費、質の高い食材の仕入れ費用などに回すことができるため、より安定した事業のスタートダッシュを切ることが可能になります。特に、融資額が限られる場合や、自己資金で開業を目指す方にとって、このコストメリットは計り知れない価値を持ちます。
短期間でスピーディーに開業できる
ビジネスにおいて「時間」は「お金」と同等、あるいはそれ以上に重要な資源です。居抜き物件は、この「時間」という資源を大幅に節約してくれます。
スケルトン物件の場合、開業までのプロセスは長く複雑です。
- 店舗コンセプトの策定
- 設計デザイナーの選定・契約
- 詳細な図面の作成・打ち合わせ(1〜2ヶ月)
- 施工業者の選定・見積もり・契約
- 各種行政への申請(保健所、消防署など)
- 内装・設備工事(2〜3ヶ月)
- 什器・備品の搬入、スタッフ研修
- オープン
このように、物件を契約してから実際にオープンするまでに、早くても4〜5ヶ月、長いと半年以上かかることもあります。この期間中、収益は一切上がりませんが、家賃は発生し続けます。これを「空家賃(からやちん)」と呼び、開業資金を圧迫する大きな要因となります。例えば、家賃30万円の物件で開業準備に5ヶ月かかった場合、150万円が空家賃として消えていく計算です。
一方、居抜き物件の場合は、大掛かりな設計や工事の工程が不要です。物件契約後は、清掃、必要な部分の改修、看板の付け替え、そして行政手続きを行えば、すぐにでも営業を開始できます。早ければ契約から1ヶ月程度でオープンすることも可能です。
この開業までのスピードは、空家賃の削減に直結するだけでなく、事業機会の損失を防ぐという点でも重要です。例えば、地域のイベントや季節の繁忙期に合わせてオープンしたい場合、スケルトンでは間に合わないかもしれませんが、居抜きなら実現可能です。ビジネスの勢いを逃さず、計画通りに事業をスタートできることは、精神的な安定にも繋がります。
前の店の顧客を引き継げる可能性がある
居抜き物件には、目に見える内装や設備だけでなく、「認知度」という目に見えない資産が備わっている場合があります。特に、前の店が長年営業していて地域に親しまれていた場合や、立地が良く多くの人の目に触れる場所だった場合、その場所にはすでに「〇〇を食べるならここ」「この角にはお店がある」という認識が人々の間に根付いています。
これは、ゼロから宣伝広告を打って店の存在を知ってもらうスケルトン物件に比べて、非常に大きなアドバンテージです。前の店の常連客が、「新しい店はどうなったんだろう?」と興味を持って訪れてくれる可能性があります。もちろん、すべての顧客がそのまま新しい店のファンになってくれるわけではありませんが、開業当初の集客のきっかけとしては非常に有効です。
このメリットを最大限に活かすためには、前の店と同じ業種、あるいは親和性の高い業種で開業することがポイントです。例えば、イタリアンレストランの跡地にフレンチレストランを開業すれば、客層が近いため、顧客を引き継ぎやすいでしょう。逆に、ラーメン店の跡地に高級フレンチを開業するような場合は、顧客層が大きく異なるため、このメリットはあまり期待できません。
また、前の店の評判を事前にリサーチすることも重要です。もし良い評判の店だったのであれば、そのイメージをうまく活用する戦略を立てられます。看板やチラシで「〇〇(前の店名)跡地に、新しいお店がオープン!」といった告知をするのも一つの手です。
このように、居抜き物件は物理的な資産だけでなく、前の店が築き上げた立地の認知度や顧客基盤という無形の資産を引き継げる可能性を秘めており、これが開業初期の経営を大きく助けてくれることがあります。
居抜き物件のデメリット
多くのメリットを持つ居抜き物件ですが、その裏側には見過ごすことのできないデメリットも存在します。これらのリスクを事前に理解し、対策を講じなければ、せっかく抑えた初期費用以上の損失を被ってしまう可能性もあります。ここでは、居抜き物件が抱える主なデメリットを3つの観点から詳しく解説します。
設計やレイアウトの自由度が低い
居抜き物件を選ぶ上で最も覚悟しなければならないのが、設計・レイアウトの自由度が著しく低いという点です。すでに完成された空間を引き継ぐため、自分の理想とする店舗像を100%実現することは困難です。
具体的には、以下のような制約が発生します。
- 動線の制約: 厨房から客席へのルート、お客様が入口から席へ、そしてトイレやレジへ移動するルートなど、店舗運営の効率性や顧客満足度に直結する「動線」が、すでに固定化されています。もし、この動線に非効率な点や不便な点があったとしても、根本的な改善は難しいでしょう。「スタッフの作業効率が悪い」「お客様同士がすれ違いにくい」といった問題が、日々の運営でストレスになる可能性があります。
- 客席数や配置の制約: テーブル席やカウンター席の数、配置も基本的には決まっています。想定していた客単価に対して客席数が少なすぎたり、逆に多すぎてオペレーションが回らなかったりする可能性があります。また、グループ客をターゲットにしているのに個室が作れない、お一人様客を重視したいのにカウンター席が使いにくい、といったミスマッチも起こり得ます。
- 厨房レイアウトの制約: 飲食店の場合、厨房のレイアウトは作業効率の生命線です。しかし、居抜き物件ではシンクやコンロ、作業台の位置が固定されており、自分の調理スタイルに合わない場合があります。抜本的な変更には、給排水やガスの配管工事が必要となり、高額な追加費用と時間がかかってしまいます。
- デザインの制約: 壁や床、天井のデザインも、前の店のコンセプトを色濃く反映しています。壁紙の張り替えや塗装である程度の雰囲気は変えられますが、空間全体の構造からくるイメージを完全に払拭するのは難しいかもしれません。自分の店のブランドイメージと、既存の内装デザインがかけ離れている場合、ちぐはぐな印象をお客様に与えてしまうリスクがあります。
これらの制約を受け入れられるか、あるいは許容範囲内で自分の理想に近づける工夫ができるかが、居抜き物件選びの重要な判断基準となります。
設備の老朽化や故障のリスクがある
初期費用を抑えられるのが居抜き物件の魅力ですが、その安さの裏には設備の老朽化という大きなリスクが潜んでいます。引き継いだ設備が、オープン直後に故障してしまったら、どうなるでしょうか。
修理には費用がかかりますし、部品がなければ修理自体ができないかもしれません。新しい設備を急遽購入するとなれば、予定外の大きな出費が発生します。さらに、設備が使えない期間は営業ができず、売上機会の損失にも繋がります。冷蔵庫が壊れれば食材がすべてダメになり、空調が壊れればお客様に快適な空間を提供できません。
特に注意すべきは、見た目ではわからない内部の劣化や、壁や床下に埋設されている給排水管、ガス管、電気配線などのインフラ設備です。これらのトラブルは、発見が遅れるだけでなく、修理も大掛かりになりがちです。
このリスクを回避・軽減するためには、以下の対策が不可欠です。
- 契約前の徹底した確認: 内覧時に、すべての設備の電源を入れて動作確認をさせてもらいましょう。異音や異臭がないか、正常に機能するかを細かくチェックします。
- 専門家によるインスペクション(調査): 可能であれば、厨房設備の専門業者や施工業者に同行してもらい、プロの目で設備の寿命や状態を診断してもらうのが最も確実です。
- 設備リストの作成と保証の確認: 「造作譲渡契約書」に、譲渡される設備の一覧(メーカー、型番、製造年式など)を明記し、それぞれの状態を記載してもらいましょう。引き渡し後の一定期間内に故障した場合の取り扱い(誰が修理費用を負担するのか)についても、契約書で明確にしておくことが重要です。
- 修繕費用の予算化: すべての設備が問題なく動いていたとしても、中古である以上、いつかは壊れるものです。あらかじめ事業計画の中に、設備の修繕費用や買い替え費用を盛り込んでおくことで、不測の事態にも冷静に対処できます。
「安物買いの銭失い」にならないよう、設備のチェックは慎重すぎるくらいに行うべきです。
前の店の悪いイメージが残っている場合がある
居抜き物件は、前の店の良い評判だけでなく、悪い評判やイメージも引き継いでしまうというリスクがあります。もし、前の店が不衛生だった、味が悪かった、接客態度が最悪だった、あるいは食中毒などの事件を起こして閉店した、といったネガティブな理由で退去していた場合、そのマイナスイメージが新しい店にもつきまとう可能性があります。
近隣の住民や以前の常連客は、「あの場所の店は…」という先入観を持っているかもしれません。いくら内装を綺麗にし、美味しい料理や素晴らしいサービスを提供しても、その先入観を覆すのは容易ではありません。オープン当初、客足が伸び悩む原因になることも考えられます。
このリスクを避けるためには、前の店がなぜ閉店したのか、その理由を徹底的に調査することが極めて重要です。
- 不動産会社へのヒアリング: 物件を紹介してくれた不動産会社の担当者に、差し支えない範囲で閉店理由を尋ねてみましょう。
- 近隣店舗や住民への聞き込み: 周辺の商店や近所に住んでいる人に話を聞くと、よりリアルな評判や閉店の経緯がわかることがあります。
- インターネットでの調査: 店名がわかれば、グルメサイトの口コミやSNSなどで過去の評判を検索してみるのも有効です。
もし、悪いイメージが残っていることが判明した場合は、その物件を諦めるという判断も必要です。それでもその立地に魅力を感じるのであれば、前の店とは全く異なる業態にする、外観や店名を大きく変えてリニューアルを強くアピールするなど、マイナスイメージを払拭するための入念な戦略が求められます。
スケルトン物件のメリット
初期費用や準備期間の面でハードルが高いスケルトン物件ですが、それを補って余りある大きなメリットが存在します。特に、独自のブランドを確立し、長期的な視点で事業を成功させたいと考える事業者にとって、スケルトン物件は唯一無二の価値を提供します。ここでは、その代表的なメリットを2つご紹介します。
コンセプトに合わせた自由な内装デザインが可能
スケルトン物件が持つ最大の魅力、それは「何もない」からこそ生まれる「無限の可能性」です。床、壁、天井がむき出しの何もない空間は、事業者にとって真っ白なキャンバスと同じです。このキャンバスに、自らの事業コンセプト、ブランドストーリー、そして理想とする世界観を、何ものにも縛られることなく自由に描き出すことができます。
- ブランドイメージの具現化: あなたが作りたいお店は、どのような雰囲気ですか?温かみのある木材を多用したナチュラルな空間、無機質で洗練されたスタイリッシュな空間、あるいは非日常的な感覚を味わえる個性的な空間でしょうか。スケルトン物件なら、床材の選定から壁の質感、照明の色や配置、天井の高さやデザインに至るまで、細部にわたってブランドイメージを反映させた空間設計が可能です。お客様が扉を開けた瞬間に、その店のコンセプトを感じ取れるような、一貫性のある世界観を創り上げることができます。これは、他店との明確な差別化を図り、顧客の記憶に深く刻まれる強力なブランディング手法となります。
- 最適な動線の設計: 店舗運営において、お客様の快適性とスタッフの作業効率は、売上と顧客満足度に直結します。スケルトン物件では、この「動線」をゼロから最適化できます。お客様がストレスなく店内を移動でき、ゆったりと過ごせる客席レイアウト。スタッフが無駄な動きなく、スムーズに調理やサービスを提供できる厨房・ホール設計。これらを事業内容に合わせて合理的に配置することで、日々のオペレーション効率が向上し、サービスの質も高まります。居抜き物件のように、既存のレイアウトに無理に合わせる必要はありません。
- ターゲット顧客への訴求: デザインは、ターゲットとする顧客層にアピールするための強力なメッセージです。例えば、若い女性をターゲットにするならSNS映えするフォトジェニックな内装を、ビジネス層をターゲットにするなら落ち着いて商談もできるシックな内装を、といった具合に、顧客の嗜好や利用シーンを想定した空間作りができます。内装デザインそのものが、強力な集客ツールとなり得るのです。
このように、スケルトン物件は単なる「箱」ではなく、事業の成功を支えるブランド戦略の根幹を築くための舞台となります。初期投資はかかりますが、こだわり抜いて作られた唯一無二の空間は、長期的に見て大きな資産となるでしょう。
すべて新品の設備を導入できる
店舗運営の安定性と品質を支える上で、設備のコンディションは極めて重要です。スケルトン物件では、すべての設備を最新の新品で揃えられるという、非常に大きなメリットがあります。これは、日々のオペレーションだけでなく、長期的なコストや安全性にも関わる重要なポイントです。
- 故障リスクの低減と運営の安定化: 居抜き物件で最も懸念されるのが、引き継いだ中古設備の突然の故障です。営業中に重要な設備が停止すれば、その日の営業はストップし、売上機会を失うだけでなく、お客様からの信頼も損ないかねません。新品の設備であれば、当面の間、故障のリスクは限りなく低いと言えます。万が一、初期不良があったとしても、メーカー保証期間内であれば無償で修理や交換が可能です。この安心感は、特に開業初期の不安定な時期において、精神的な負担を大きく軽減してくれます。
- 性能向上による効率化と品質向上: 技術の進歩により、厨房機器や空調設備は年々高性能化しています。最新の業務用冷蔵庫やオーブンは、旧式に比べてエネルギー効率が格段に高く、月々の電気代やガス代といったランニングコストの削減に繋がります。また、調理時間の短縮や、より精密な温度管理が可能になるなど、作業効率の向上や料理の品質安定にも貢献します。これは人件費の削減や顧客満足度の向上といった形で、経営にプラスの効果をもたらします。
- 衛生管理の徹底: 特に飲食店やクリニックなど、高度な衛生管理が求められる業種において、新品の設備は大きなアドバンテージとなります。中古設備の場合、見えない部分に汚れやカビが蓄積している可能性も否定できません。新品であれば衛生状態は万全であり、保健所の検査などもスムーズにクリアできます。お客様に対して「清潔で安全な環境」を提供しているという自信にも繋がります。
- 最適な設備レイアウト: スケルトン物件では、厨房設計の段階から、導入したい設備に合わせてスペースや配管、電源容量などを計画できます。これにより、作業動線に完全にマッチした、最も効率的な設備レイアウトを実現できます。
初期の設備投資は高額になりますが、それは将来の安定運営と品質、そしてランニングコスト削減への「投資」と考えることができます。長期的な視点で見れば、新品設備の導入は極めて合理的な選択と言えるでしょう。
スケルトン物件のデメリット
圧倒的な自由度と最新の設備という魅力的なメリットを持つスケルトン物件ですが、その裏には事業計画全体を揺るがしかねない、大きなデメリットが存在します。これらのデメリットを正しく認識し、十分な準備ができていなければ、計画が頓挫してしまうリスクさえあります。ここでは、スケルトン物件を選ぶ際に覚悟すべき2つの大きな壁について解説します。
内装工事などで開業費用が高額になる
スケルトン物件を選ぶ上で最大の障壁となるのが、莫大な初期費用です。居抜き物件が「すでにあるものを活用する」のに対し、スケルトン物件は「何もないところにゼロからすべてを創り上げる」ため、当然ながらそのコストは比較になりません。
具体的にどのような費用がかかるのか、その内訳を見てみましょう。
- 設計・デザイン費: こだわりの空間を実現するためには、プロの設計デザイナーへの依頼が不可欠です。費用は設計事務所やデザイナーの実績、工事費の規模によって異なりますが、一般的には総工費の10%〜15%程度が相場とされています。総工費が1,000万円であれば、設計費だけで100万円〜150万円が必要になります。
- 内装工事費: 床、壁、天井の造作、建具の設置、塗装やクロスの仕上げなど、空間を作り上げるための工事です。工事費は、使用する素材のグレードやデザインの複雑さによって大きく変動します。一般的な飲食店の内装工事費の目安は、坪単価で30万円〜60万円程度ですが、高級店やデザイン性を追求する店舗では坪単価100万円を超えることもあります。20坪の店舗なら、最低でも600万円以上は見ておく必要があります。
- インフラ設備工事費: 電気、ガス、水道、空調、換気(給排気)といった、店舗運営に不可欠なライフラインを整備する工事です。特に飲食店では、厨房で大容量の電力やガスを使用するため、幹線工事やガス管の増径工事が必要になる場合があります。また、煙や臭いを排出するための排気ダクト工事は、建物の構造や周辺環境への配慮が必要なため、高額になりがちです。これらのインフラ工事だけで数百万円かかることも珍しくありません。
- 設備購入・設置費: 厨房機器、空調設備、什器(テーブル、椅子)、レジシステムなど、営業に必要なあらゆるものを新品で購入し、設置するための費用です。業種にもよりますが、飲食店であれば一式で300万円〜1,000万円以上かかることもあります。
これらの費用を合計すると、小規模な店舗であっても総額で1,000万円を超えるケースはごく一般的であり、規模やこだわりに比例して2,000万円、3,000万円と膨れ上がっていきます。この莫大な初期投資を賄えるだけの十分な自己資金、あるいは事業計画の信頼性に基づいた高額の融資獲得が、スケルトン物件を選ぶための絶対条件となります。
設計から工事まで開業に時間がかかる
もう一つの大きなデメリットは、開業までに非常に長い時間を要することです。お金の問題をクリアできても、この時間の壁が事業計画に大きな影響を与えます。
スケルトン物件で開業するまでの一般的なタイムラインを見てみましょう。
- コンセプト固め・物件探し: 1〜3ヶ月
- 設計デザイナー選定・契約: 2週間〜1ヶ月
- 基本設計・実施設計・打ち合わせ: 1〜2ヶ月
- 施工業者選定・見積もり取得・契約: 1ヶ月
- 各種申請(建築確認、保健所、消防署など): 1ヶ月
- 内装・設備工事: 2〜3ヶ月
- 引き渡し・備品搬入・スタッフ研修: 2週間〜1ヶ月
これらの工程を合計すると、物件の契約からオープンまで、スムーズに進んでも最低で半年程度、複雑な案件では1年近くかかることもあります。
この長い準備期間は、いくつかの問題を引き起こします。
- 空家賃の発生: 最も直接的なダメージが「空家賃」です。工事期間中は当然ながら売上は一切ありませんが、物件の家賃は毎月発生します。家賃が月額40万円の物件で、準備に6ヶ月かかった場合、オープン前に240万円もの資金が家賃だけで消えてしまうことになります。この空家賃は運転資金を圧迫し、開業後の経営の足かせになりかねません。
- 市場の変化: 半年や1年という期間があれば、市場のトレンドや競合店の状況も変化します。計画当初は画期的だと思っていたコンセプトが、オープンする頃には時代遅れになっている、あるいはすぐ近くに強力なライバル店が出現している、といったリスクも考えられます。
- モチベーションの維持: 長い準備期間は、開業への情熱やモチベーションを維持する上でも挑戦となります。度重なる打ち合わせや予期せぬトラブル、資金繰りのプレッシャーなどで、精神的に疲弊してしまう可能性もあります。
このように、スケルトン物件を選ぶには、資金的な体力だけでなく、長期的な計画を遂行する時間的な余裕と精神的な強さが求められます。
【ケース別】居抜きとスケルトンどちらを選ぶべき?
これまで解説してきたメリット・デメリットを踏まえ、具体的にどのような人がどちらの物件タイプを選ぶべきなのかを、具体的なケースに分けて整理します。ご自身の状況や目指すゴールの方向性と照らし合わせ、最適な選択をするための羅針盤としてください。
居抜き物件がおすすめな人・ケース
居抜き物件は、「スピード」と「コスト」を最優先し、ある程度の制約を受け入れることができる場合に最適な選択肢となります。
とにかく費用を抑えて開業したい
開業にあたって、最も大きなハードルは資金面です。「自己資金が限られている」「融資額をできるだけ少なくしたい」「初期投資を抑えて、その分を運転資金や広告費に回したい」と考えている方には、居抜き物件が強く推奨されます。スケルトン物件に比べて数百万円から一千万円以上もの費用を削減できる可能性があり、これは事業の立ち上がりを強力にサポートします。特に、失敗した際のリスクを最小限に抑えたいと考える慎重派の方にとって、低コストで始められる居抜き物件は非常に魅力的です。
できるだけ早くお店をオープンしたい
「退職時期が決まっており、すぐにでも自分の店を始めたい」「季節の繁忙期に合わせてオープンしたい」「ビジネスチャンスを逃したくない」など、開業までのスピードを重視する方にも居抜き物件は最適です。設計や工事にかかる数ヶ月の期間を丸ごと短縮できるため、契約からオープンまでを1〜2ヶ月で実現することも可能です。このスピード感は、空家賃の発生を最小限に抑えるだけでなく、事業計画の遅延リスクを減らし、早期に収益化フェーズへと移行させてくれます。
初めて飲食店などを開業する
「店舗運営の経験がなく、まずは挑戦してみたい」「どのようなレイアウトが最適か、まだ確信が持てない」という、初めて開業する方にとって、居抜き物件は優れた学習の場となり得ます。成功した(あるいは、少なくとも営業が成り立っていた)店舗のレイアウトや設備構成をベースに始めることで、店舗運営の基本を実践的に学ぶことができます。ゼロからすべてを考えるスケルトンに比べて、判断すべき項目が少ないため、開業準備の負担も軽減されます。まずは居抜きで経験を積み、事業が軌道に乗った後、2店舗目以降でスケルトンに挑戦するというステップアップも賢明な戦略です。
スケルトン物件がおすすめな人・ケース
スケルトン物件は、「時間」と「コスト」を投資してでも、「理想」と「ブランド」を追求したい場合に選ぶべき選択肢です。
お店のコンセプトや内装にこだわりたい
「他にはない、唯一無二の空間を創りたい」「自分の世界観を細部に至るまで表現したい」「内装デザインそのものを店の強みにしたい」という強いこだわりを持つ方には、スケルトン物件以外に選択肢はありません。居抜き物件の制約の中では、あなたの創造性は完全に解放されません。真っ白なキャンバスに自由に絵を描くように、床材、壁材、照明、家具、動線設計のすべてをコントロールし、訪れる客が感動するような体験価値の高い空間を創造できます。このこだわりが、熱狂的なファンを生み出す源泉となります。
独自の世界観でブランドを確立したい
「一過性の流行ではなく、長く愛されるブランドを築きたい」「価格競争に巻き込まれない、独自の価値を提供したい」と考える、長期的な視点を持つ事業者にとって、スケルトン物件は最適な投資対象です。店舗の空間は、ブランドの哲学やストーリーを伝える最も強力なメディアです。ゼロから作り上げた空間は、商品やサービスと一体となって、揺るぎないブランドイメージを顧客の心に刻み込みます。この強力なブランディングは、リピート率の向上や客単価の上昇に繋がり、持続可能な事業の基盤を築きます。
最新の設備を導入したい
「最高のパフォーマンスを発揮できる厨房環境が欲しい」「省エネ性能の高い設備で、ランニングコストを抑えたい」「衛生管理を徹底し、顧客に安心と安全を提供したい」など、設備の性能や新しさを重視する方には、スケルトン物件が適しています。最新の設備は、作業効率を高め、料理の品質を安定させ、光熱費を削減するなど、経営に多くのメリットをもたらします。また、中古設備にありがちな故障のリスクから解放されるため、日々の運営に集中できます。特に、高度な調理技術を要するレストランや、衛生基準が厳しいクリニックなどでは、新品設備は必須条件とも言えるでしょう。
【業種別】居抜き・スケルトンの選び方のポイント
物件選びの最適な答えは、開業する業種によっても大きく異なります。それぞれの業種には特有の設備要件や法規制、そして顧客に与えるべき印象があります。ここでは、代表的な4つの業種について、居抜きとスケルトンのどちらが適しているか、その選び方のポイントを解説します。
飲食店
飲食店は、居抜き物件の取引が最も活発な業種です。その理由は、厨房設備への投資が非常に高額になるためです。
- 居抜きが有利なケース:
- 同業種の居抜き: ラーメン店の跡地にラーメン店、カフェの跡地にカフェを開業するなど、前の店と業態が同じか非常に近い場合、居抜きは絶大なメリットを発揮します。高価な厨房設備や、工事費のかかる排気ダクト、グリストラップ(油水分離阻集器)などがそのまま使えるため、初期費用を数百万単位で削減できます。
- 軽飲食: 大掛かりな厨房設備を必要としないカフェやバー、軽食スタンドなどの「軽飲食」であれば、多少業態が違っても既存の設備を流用しやすいです。
- 低価格帯・高回転率の業態: ランチ営業がメインの定食屋や立ち食いそば店など、内装の独自性よりもコストパフォーマンスや立地、提供スピードが重視される業態では、低コスト・短期間で開業できる居抜きが合理的です。
- スケルトンが有利なケース:
- 重飲食で適切な居抜きがない場合: ステーキハウスや中華料理、焼肉店など、火力が強く、大量の煙や油が出る「重飲食」は、強力な排気設備が不可欠です。軽飲食の居抜き物件では排気能力が全く足りず、追加工事も困難な場合が多いため、初めから重飲食を想定して設計できるスケルトンが適しています。
- 高級レストラン・コンセプトダイニング: 独自の世界観や非日常的な体験を提供する高級店では、内装デザインがブランド価値そのものです。既存のレイアウトに妥協せず、理想の空間をゼロから創造できるスケルトンが必須となります。
- 効率を追求した厨房レイアウト: 特定の調理法に特化していたり、独自のオペレーションフローを持っていたりする場合、既存の厨房レイアウトでは効率が著しく落ちることがあります。自らの調理スタイルに合わせて最適化した厨房を設計したいシェフには、スケルトンが向いています。
美容室・サロン
美容室やエステサロン、ネイルサロンなども、専門的な設備が必要となるため、居抜き・スケルトンの選択が重要です。
- 居抜きが有利なケース:
- 同業種の居抜き: 美容室の跡地は、シャンプー台を設置するための給排水設備がすでに床下に配管されていることが多く、これをゼロから工事すると高額になるため、居抜きは非常に魅力的です。セット面や鏡、待合スペースなども流用できれば、大幅なコスト削減になります。
- 個人経営の小規模サロン: とにかく初期費用を抑えて独立したい場合、美容室やエステサロンの居抜き物件は良い選択肢です。内装のテイストが好みと合えば、最小限の改装ですぐに営業を開始できます。
- スケルトンが有利なケース:
- ブランドイメージを重視するサロン: 美容室やサロンにとって、内装デザインは技術と同じくらい重要な「商品」です。顧客に「ここに来ると特別な気分になれる」と感じさせる、洗練された空間やリラックスできる空間を創り上げたいのであれば、スケルトンから設計するのが理想です。
- 保健所の基準への対応: 美容室の開業には、作業場の面積や椅子の数、換気、消毒設備など、保健所が定める厳格な基準(構造設備基準)をクリアする必要があります。古い居抜き物件だと、現在の基準を満たしていない可能性もあります。最新の基準に合わせて確実に設計できるスケルトンの方が、許認可手続きがスムーズに進む場合があります。
- 複合サロン: ヘア、ネイル、エステなど複数のサービスを提供する複合サロンの場合、それぞれの施術スペースの動線やプライバシー確保が重要になります。既存のレイアウトでは対応が難しいため、事業計画に合わせてゼロから最適なレイアウトを組めるスケルトンが適しています。
物販店・アパレル
物販店やアパレルショップは、飲食店や美容室ほど専門的な設備は必要ありませんが、ブランドの世界観を表現する上で内装の重要性が非常に高い業種です。
- 居抜きが有利なケース:
- コストを抑えたいセレクトショップや古着屋: 商品の仕入れに多くの資金が必要な業態では、内装コストを抑えられる居抜きは有効です。特に、什器(棚、ハンガーラック、フィッティングルームなど)が残っている場合はメリットが大きいです。内装の雰囲気が商品のテイストと合っていれば、最小限の投資で開業できます。
- 期間限定のポップアップストア: 短期間の営業が前提であれば、大掛かりな投資は不要です。すぐに営業できる居抜き物件が合理的です。
- スケルトンが有利なケース:
- ブランドの世界観を表現したい: アパレルブランドや高級雑貨店にとって、店舗は単なる販売の場ではなく、ブランドストーリーを伝える空間です。ブランドの世界観を細部まで完璧に表現し、顧客に特別な購買体験を提供するためには、スケルトンから内装を創り上げる必要があります。
- 商品の陳列方法にこだわりたい: 商品の見せ方、照明の当て方、顧客の回遊動線など、戦略的なVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を実践したい場合、既存のレイアウトでは限界があります。商品を最も魅力的に見せるための舞台を自由に設計できるスケルトンが最適です。
- 旗艦店(フラッグシップストア): ブランドの象徴となる旗艦店では、コストよりもブランドイメージの発信が最優先されます。妥協のない空間作りが求められるため、スケルトンが前提となります。
クリニック・オフィス
クリニックやオフィスは、他の商業施設とは異なる要件が求められます。
- 居抜きが有利なケース:
- 同科目のクリニック跡: 内科の跡地に内科、歯科の跡地に歯科を開業する場合、専門的な内装(診察室、処置室、レントゲン室の鉛施工など)や設備が流用できる可能性があり、コストメリットは絶大です。ただし、医療機器の進化は早いため、設備の古さは慎重に確認する必要があります。
- 一般的なオフィス: 特定のレイアウトを必要としない一般的な事務作業が中心のオフィスであれば、パーテーションやOAフロアが残っている居抜き(セットアップオフィスと呼ばれることもあります)は、移転コストと時間を大幅に削減できるため、非常に人気があります。
- スケルトンが有利なケース:
- 専門性の高いクリニック: 美容外科や不妊治療、内視鏡専門クリニックなど、特殊な医療機器の設置やプライバシーに配慮した動線設計が不可欠な場合、既存のレイアウトでは対応不可能です。法規制や患者の快適性を考慮した最適な設計ができるスケルトンが必須です。
- ブランディングを重視する企業オフィス: 企業の理念や文化を体現し、社員のエンゲージメントを高め、採用活動にも活かすような「コンセプトオフィス」を作りたい場合、スケルトンから設計することで、生産性と創造性を最大限に引き出すワークプレイスを実現できます。フリーアドレス制の導入や、集中ブース、リフレッシュエリアの設置など、自由な発想で設計できます。
- セキュリティ要件が高い業種: 金融機関やIT企業など、高度なセキュリティが求められる業種では、サーバールームの設置や入退室管理システムの導入などを、設計段階から組み込めるスケルトンが適しています。
居抜きとスケルトンの費用内訳と相場
物件選びにおいて、最も具体的でシビアな問題が費用です。ここでは、居抜き物件とスケルトン物件、それぞれで発生する費用の内訳と、一般的な相場観について解説します。具体的な金額は物件の立地、規模、業種、工事のグレードによって大きく変動するため、あくまで目安として捉え、詳細な資金計画の参考にしてください。
居抜き物件にかかる費用の内訳
居抜き物件は初期費用を抑えられるのが特徴ですが、それでも複数の費用が発生します。
物件取得費
これは物件を契約する際に、オーナー(貸主)や不動産会社に支払う費用です。スケルトン物件でも同様に発生します。
- 敷金・保証金: 家賃の滞納や物件の損傷に備える担保金。家賃の6ヶ月〜10ヶ月分が相場です。
- 礼金: オーナーへのお礼として支払う費用。家賃の1〜2ヶ月分が相場ですが、ない場合もあります。
- 仲介手数料: 不動産会社に支払う手数料。家賃の1ヶ月分+消費税が上限です。
- 前家賃: 入居する月の家賃を前払いします。
- 火災保険料: 万が一の火災に備える保険。年額2万円〜5万円程度が目安です。
- 保証会社利用料: 連帯保証人がいない場合などに利用する保証会社への費用。家賃の0.5〜1ヶ月分程度です。
【相場】家賃30万円の物件なら、合計で250万円〜400万円程度が物件取得費の目安となります。
造作譲渡料
居抜き物件特有の費用で、前のテナントに対して、残された内装や設備、什器を譲り受ける対価として支払います。
- 価格の決まり方: 明確な算定基準はなく、前のテナントがかけた内装・設備投資の残存価値、設備の年式や状態、立地の人気度などを考慮し、当事者間の交渉で決まります。
- 相場: 無償(0円)から、人気エリアの美装物件では500万円以上になることもあります。一般的には50万円〜300万円程度の物件が多く見られます。価格交渉の余地がある場合も多いので、設備の状況などを細かくチェックした上で交渉に臨むことが重要です。
内装・外装工事費
すべてが揃っているわけではなく、自分の店として営業するために最低限の改修は必要になります。
- 内装工事: 壁紙や床材の張り替え、照明器具の交換、部分的な間仕切りの変更など。
- 外装工事: 看板の設置や変更、ファサード(建物の正面)の塗装やデザイン変更など。
- クリーニング費: 厨房や客席、トイレなどの専門業者によるクリーニング。
- 相場: 50万円〜300万円程度が一般的ですが、どこまで手を入れるかによって大きく変動します。
スケルトン物件にかかる費用の内訳
スケルトン物件は、ゼロから創り上げるため、費用項目が多岐にわたり、総額も高額になります。
物件取得費
居抜き物件と同様に発生します。内容は同じです。
設計・デザイン費
オリジナルの空間を創るための設計図やデザインを、専門家である設計士やデザイナーに依頼するための費用です。
- 価格の決まり方: 「総工費の〇%」という料率方式や、「坪単価〇万円」という坪単価方式、あるいはプロジェクト全体の業務量に応じて決める場合など様々です。
- 相場: 総工費の10%〜15%が目安です。例えば、総工費が1,500万円なら、設計費は150万円〜225万円程度となります。
内装・外装工事費
スケルトン物件で最も費用がかかる部分です。何もない状態から、店舗の骨格と内外装を作り上げていきます。
- 工事内容: 軽量鉄骨(LGS)による壁の骨組み、ボード張り、床・壁・天井の仕上げ、建具(ドア、窓)の設置、外装工事など、工事範囲は非常に広いです。
- 相場: 業種やデザインのグレードで大きく変わります。
- オフィス: 坪10万円〜30万円
- 物販店: 坪20万円〜50万円
- 飲食店・美容室: 坪30万円〜60万円
- デザイン性の高い店舗: 坪80万円〜100万円以上
20坪の飲食店なら、600万円〜1,200万円程度が内装工事費の目安です。
設備購入・設置費
営業に必要なあらゆる設備を新たに購入し、設置するための費用です。
- インフラ設備工事: 電気、ガス、水道の引き込みや増設、空調設備の設置、換気(給排気)ダクトの設置工事など。特に飲食店の排気ダクト工事は、建物の状況により100万円以上かかることもあります。
- 厨房設備(飲食店の場合): 業務用冷蔵庫、コールドテーブル、製氷機、コンロ、シンク、食洗機など一式。新品で揃えると300万円〜800万円程度が目安です。
- 什器・備品: テーブル、椅子、ソファ、レジ、パソコン、電話、食器、調理器具など。
- 相場: インフラ工事と設備購入を合わせると、飲食店の場合で500万円〜1,500万円以上になることも珍しくありません。
物件契約前に必ず確認すべき注意点
理想の物件が見つかったとしても、すぐに契約書にサインしてはいけません。契約後のトラブルを避け、安心して事業をスタートさせるために、契約前に必ず確認・交渉すべき重要なポイントがあります。居抜きとスケルトン、それぞれ特有の注意点を理解し、チェックリストとして活用してください。
居抜き物件の注意点
居抜き物件は、前のテナントとの関係や残置物の状態が複雑に絡むため、特に慎重な確認が必要です。
造作譲渡契約の内容
居抜き物件の契約は、多くの場合「物件の賃貸借契約(オーナーと結ぶ)」と「造作譲渡契約(前のテナントと結ぶ)」の2本立てになります。特に造作譲渡契約はトラブルの元になりやすいため、内容を精査する必要があります。
- 契約の当事者: 誰と誰が契約を結ぶのか(新テナント vs 旧テナント、またはオーナーが仲介する場合も)。
- 所有権の移転時期: 造作譲渡代金を支払った後、いつから内装や設備の所有権が自分に移るのかを明確にします。
- 瑕疵担保責任(契約不適合責任): 引き渡された設備に、契約時にはわからなかった重大な欠陥(隠れた瑕疵)が見つかった場合、誰が責任を負うのか。一定期間、売り主(前のテナント)が修繕義務を負う特約を盛り込めるか交渉しましょう。通常、個人間の取引ではこの責任を免除するケースが多いため、注意が必要です。
譲渡される設備の範囲と状態
「これも使えると思っていたのに、引き渡し時に撤去されていた」といったトラブルを防ぐため、譲渡物の範囲を明確にリスト化することが不可欠です。
- 設備リストの作成: 厨房機器、空調、什器など、譲渡されるものすべてを一覧にし、メーカー名、型番、製造年、状態(傷や不具合の有無)などを細かく記載した「物件残置物確認書」を作成し、双方が署名・捺印して契約書に添付します。
- 動作確認の徹底: 内覧時にすべての設備の電源を入れ、実際に動かしてみることが重要です。冷暖房の効き具合、冷蔵庫の冷え方、厨房機器の点火や動作音などを自分の目と耳で確認しましょう。可能であれば、専門業者にインスペクション(建物・設備調査)を依頼するのが最も安全です。
リース契約の有無と引き継ぎ
譲渡される設備の中には、前のテナントが購入したものではなく、リース会社から借りている「リース品」が含まれていることがあります。
- リース品の確認: 製氷機や食洗機、コピー機などはリース品であることが多いです。設備リスト作成時に、所有権が誰にあるのかを一つひとつ確認しましょう。
- 契約の引き継ぎ: リース品があった場合、そのリース契約を自分が引き継ぐのか、それとも前のテナントが契約を解消して撤去するのかを明確にする必要があります。安易に引き継ぐと、月々のリース料に加えて、残りのリース期間分の支払い義務(残債)も背負うことになり、想定外のコスト増に繋がります。必ずリース契約書の内容を確認し、残債がいくらあるのかを把握した上で判断してください。
前の店の閉店理由や評判
メリットの裏返しとして、前の店のネガティブな要素を引き継いでしまうリスクがあります。
- 閉店理由の調査: 不動産会社やオーナーに尋ねるだけでなく、近隣の店舗や住民に直接聞き込みをしてみましょう。「客足が少なかった」「近隣と騒音トラブルがあった」など、表には出にくい情報を得られることがあります。
- 評判の調査: グルメサイトの口コミやSNS検索で、店の評判を客観的に確認します。あまりに悪い評判が多い場合は、そのイメージを払拭するためのコストと労力を考慮し、契約を見送る勇気も必要です。
スケルトン物件の注意点
自由度が高いスケルトン物件ですが、インフラや規約といった「見えない制約」を見落とすと、計画が根本から覆る可能性があります。
インフラ(電気・ガス・水道)の容量
理想の内装や設備を計画しても、それを動かすためのインフラが貧弱では意味がありません。
- 容量の確認: 物件に引き込まれている電気の容量(A/アンペア)、ガスの口径(号数)、給排水管の太さを必ず確認します。特に、多くの厨房機器を同時に使用する飲食店では、大容量の電力やガスが必要です。
- 増設の可否と費用: もし容量が足りない場合、増設工事が可能かどうか、可能だとしてその費用負担は誰が行うのか(オーナーかテナントか)を契約前に確認・交渉する必要があります。ビル全体の容量に上限があり、増設自体が不可能な場合もあります。増設工事には数百万円かかることもあるため、この確認を怠ると、事業計画が大きく狂ってしまいます。
搬入経路の確認
大型の厨房機器や特注の什器などを導入する予定がある場合、それを店舗内に運び込めるかどうかの確認は必須です。
- 経路の採寸: エレベーターのサイズ(扉の幅・高さ、奥行き)、階段の幅や踊り場のスペース、共用廊下や入口の幅などを、実際にメジャーで計測します。
- 搬入シミュレーション: 最も大きな機材のサイズを元に、搬入ルートを頭の中でシミュレーションしてみましょう。クレーンでの吊り上げ搬入が必要になると、数十万円の追加費用が発生します。最悪の場合、搬入できずに計画していた設備を諦めなければならないケースもあります。
物件の規約や制限事項
建物の管理規約や賃貸借契約書には、店舗運営に関わる様々なルールが定められています。
- 工事に関する制限: 工事可能な曜日や時間帯(例:平日9時〜17時のみ)、使用できる資材、騒音や振動に関する規定などを確認します。工事期間が延びる原因になることがあります。
- 営業に関する制限: 営業可能な時間、看板の設置場所やデザイン・サイズの規定、異臭や騒音に関する規制などをチェックします。特に、深夜営業を考えている場合は注意が必要です。
- 原状回復の範囲: 退去時にどこまでの状態に戻す必要があるのか、その範囲を契約書で明確に定義しておくことが重要です。「スケルトン返し」が原則ですが、その解釈に相違がないように確認しましょう。