オフィス移転の手順とスケジュールを徹底解説 やることリスト付き

オフィス移転の手順とスケジュール、やることリスト付きで徹底解説

オフィス移転は、単に働く場所を変えるだけの作業ではありません。企業の成長戦略、従業員の働きがい、そして企業文化の醸成に直結する、極めて重要な経営プロジェクトです。事業拡大に伴う人員増加、コスト最適化、生産性向上、ブランディング強化など、その目的は多岐にわたります。

しかし、オフィス移転は多くのタスクが複雑に絡み合う長期的なプロジェクトであり、計画的に進めなければ思わぬトラブルや追加コストに見舞われる可能性があります。「何から手をつければいいのかわからない」「全体の流れや必要な手続きが知りたい」「費用はどれくらいかかるのか不安だ」といった悩みを抱える担当者の方も少なくないでしょう。

この記事では、オフィス移転を検討し始めた段階から、移転完了後の業務開始まで、全てのプロセスを網羅的に解説します。具体的な「やることリスト」やスケジュール、費用の内訳、必要な行政手続き、そして成功のためのポイントまで、この記事を読めばオフィス移転の全体像を把握し、自信を持ってプロジェクトを推進できるようになります。

オフィス移転を検討する前に知っておきたいこと

オフィス移転とは、オフィス移転の主な目的、オフィス移転プロジェクトチームの結成

オフィス移転は、企業にとって大きな転換点となり得る一大イベントです。しかし、その影響の大きさゆえに、事前の理解と準備がプロジェクトの成否を大きく左右します。まずは、オフィス移転の基本的な概念から、その目的、そしてプロジェクトを推進する体制づくりについて深く理解することから始めましょう。

オフィス移転とは

オフィス移転とは、文字通り企業が事業活動を行う拠点を別の場所へ移すことを指します。しかし、その本質は「物理的な場所の移動」に留まりません。オフィス移転は、企業の現状の課題を解決し、将来のビジョンを実現するための戦略的な経営判断と捉えるべきです。

例えば、手狭になったオフィスから広い場所へ移ることは、単なるスペースの確保以上の意味を持ちます。それは、今後の事業拡大や人員増加を見据えた先行投資であり、従業員がより快適に、そして創造的に働ける環境を構築する機会でもあります。また、リモートワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークの導入に合わせてオフィスの役割を見直し、コミュニケーションのハブとして再定義することも、現代におけるオフィス移転の重要な側面です。

このように、オフィス移転は企業の成長フェーズや働き方の変化、経営戦略と密接に連動しています。したがって、移転を検討する際は「なぜ移転するのか」という根本的な目的を明確にすることが、プロジェクト成功の第一歩となります。

オフィス移転の主な目的

企業がオフィス移転を決断する背景には、様々な目的が存在します。ここでは、代表的な4つの目的について、その背景や期待される効果を詳しく見ていきましょう。

事業拡大・人員増加への対応

企業の成長に伴い、最も直接的で分かりやすい移転理由が「事業拡大・人員増加」です。従業員が増え、既存のオフィスが手狭になると、物理的なスペース不足から様々な問題が生じます。

  • 執務スペースの不足: 一人当たりのワークスペースが狭くなり、圧迫感から集中力の低下やストレスの増加につながる可能性があります。
  • 会議室の不足: 予約が常に埋まってしまい、必要な時にミーティングができない、あるいはオープンスペースで話さざるを得なくなり、情報漏洩のリスクや周囲への騒音問題が発生します。
  • リフレッシュスペースの不足: 休憩や雑談の場が失われ、従業員同士の偶発的なコミュニケーションが減少し、組織の一体感が損なわれる恐れがあります。

これらの課題を解決するために、将来の事業計画や採用計画から必要なオフィス面積を算出し、適切な規模の物件へ移転します。これにより、従業員が快適に働ける環境を確保し、組織全体の生産性維持・向上を図ることが可能になります。

コストの削減

一見すると多額の費用がかかるオフィス移転ですが、中長期的な視点で見れば「コスト削減」を目的として実施されるケースも少なくありません。特に、賃料は企業の固定費の中で大きな割合を占めるため、この見直しは経営改善に直結します。

  • 賃料の最適化: 現在のオフィスの賃料が周辺相場より割高になっている場合や、企業の規模に対して過剰なスペースを借りている場合に、より賃料の安いエリアや適切な面積の物件へ移転することで、ランニングコストを大幅に削減できます。
  • ハイブリッドワークへの移行: リモートワークを本格的に導入し、従業員の出社率が低下した場合、従来の全員分の座席を確保するオフィスは非効率です。出社率に合わせてオフィスを縮小し、フリーアドレス制を導入する「縮小移転」は、賃料だけでなく光熱費などの関連コストも削減する効果的な手法です。

ただし、コスト削減を追求するあまり、立地が悪化して通勤時間が長くなったり、設備が不十分で業務に支障が出たりすると、従業員の満足度低下や生産性悪化を招く本末転倒な結果になりかねません。コストと働く環境の質のバランスを慎重に検討することが重要です。

従業員の満足度や生産性の向上

従業員にとって働きやすい環境は、仕事へのモチベーションやエンゲージメントを高め、ひいては組織全体の生産性向上に繋がります。オフィス移転は、働く環境を抜本的に改善する絶好の機会です。

  • 通勤の利便性向上: 従業員の居住地データを分析し、多くの従業員がアクセスしやすいターミナル駅の近くや、主要路線の沿線にオフィスを移転することで、通勤負担を軽減し、従業員満足度を高めます。
  • オフィス環境の刷新: 最新の設備や、集中ブース、コラボレーションエリア、リフレッシュスペースなどを備えたオフィスを設計することで、業務内容に応じた最適な働き方を従業員が選択できるようになります。これにより、個々の生産性や創造性の向上が期待できます。
  • コミュニケーションの活性化: 部門間の垣根を取り払うオープンなレイアウトや、偶発的な出会いを生む「マグネットスペース(カフェスペースやライブラリなど)」を設けることで、組織内のコミュニケーションを促進し、新たなアイデアやイノベーションが生まれやすい土壌を育みます。

「どのようなオフィスなら従業員が活き活きと働けるか」という視点で移転を計画することが、人材の定着や企業の持続的な成長に不可欠です。

企業ブランディングの強化

オフィスは、単なる仕事場であると同時に、社外に対する「企業の顔」でもあります。オフィスの立地やデザインは、企業ブランドのイメージを大きく左右する要素です。

  • 採用ブランディング: 魅力的なオフィスは、求職者にとってその企業で働くことの魅力を高める重要な要素です。特に優秀な人材の獲得競争が激化する中で、「こんなオフィスで働いてみたい」と思わせることは、採用活動において強力な武器となります。デザイン性の高いオフィスや、働きやすさを追求したオフィスは、企業の先進性や従業員を大切にする姿勢をアピールすることに繋がります。
  • 顧客・取引先への信頼性向上: 都心の一等地や、有名ランドマークビルにオフィスを構えることは、企業の信頼性や安定性を対外的に示す効果があります。また、来客エリアのデザインにこだわることで、企業の理念や世界観を伝え、良好な関係構築に貢献します。

オフィス移転を通じて、企業が目指す姿や価値観を社内外に明確に発信することが、ブランディング強化の鍵となります。

オフィス移転プロジェクトチームの結成

オフィス移転は、総務部だけで完結するタスクではありません。経営層の意思決定から、各部門の要望の吸い上げ、ITインフラの構築、法的な手続きまで、関わる部署や専門領域は多岐にわたります。そのため、プロジェクトを円滑に推進するためには、部門横断的な「オフィス移転プロジェクトチーム」の結成が不可欠です。

理想的なチームのメンバー構成は以下の通りです。

  • プロジェクトマネージャー(PM): 全体の進捗管理、意思決定、関係各所との調整役を担う責任者。総務部長や経営企画担当者が務めることが多いです。
  • 経営層: 移転の目的やコンセプト、予算などの最終的な意思決定を行います。
  • 総務・人事部門: 物件選定、契約、各種業者との折衝、行政手続き、従業員への告知など、実務の中心を担います。
  • 情報システム部門: ネットワーク環境の構築、サーバー移設、セキュリティ対策など、ITインフラ全般を担当します。
  • 各事業部門の代表者: 現場の意見を吸い上げ、新しいオフィスのレイアウトや機能に対する要望をフィードバックします。これにより、移転後に「使いにくい」といった不満が出るのを防ぎます。
  • 経理部門: 予算管理、支払い業務などを担当します。

プロジェクトの初期段階でチームを結成し、それぞれの役割と責任範囲を明確にすることで、その後のプロセスをスムーズに進めることができます。定期的なミーティングで進捗と課題を共有し、一丸となってプロジェクトに取り組む体制を整えましょう。

オフィス移転の全手順とスケジュール【やることリスト】

オフィス移転は、一般的に移転日の12ヶ月〜6ヶ月前から準備を開始する長期的なプロジェクトです。全体の流れをフェーズごとに把握し、各段階で「何を」「いつまでに」やるべきかを明確にした「やることリスト」を作成することが、計画を滞りなく進めるための鍵となります。ここでは、移転計画の策定から旧オフィスの明け渡しまで、全てのプロセスを時系列で詳しく解説します。

【12〜6ヶ月前】移転計画の策定フェーズ

プロジェクトの土台を作る最も重要なフェーズです。ここでの計画の精度が、移転全体の成否を左右すると言っても過言ではありません。

やることリスト(12〜6ヶ月前) 主な内容
移転目的・コンセプトの明確化 なぜ移転するのか、新しいオフィスで何を実現したいのかを言語化する。
移転プロジェクトチームの発足 経営層、総務、情シスなど関係部署からメンバーを選出し、役割を分担する。
現状オフィスの課題洗い出し 従業員アンケートなどを実施し、スペース、設備、立地などの課題を具体化する。
移転スケジュールの策定 移転希望日から逆算し、各フェーズのデッドラインを設定した全体像を作成する。
移転全体の予算策定 過去の事例や概算見積もりを基に、総額の予算を確保する。
現オフィスの賃貸借契約書の確認 解約予告期間、原状回復の範囲と条件などを正確に把握する。
移転コンサルティング会社の選定 必要に応じて、専門家のサポートを得るためにパートナー企業を選定する。

移転目的・コンセプトの明確化

まず最初に、「なぜ移転するのか?」という根本的な問いに答える必要があります。「事業拡大」「コスト削減」「ブランディング強化」など、前述した目的を自社の状況に当てはめて具体化します。そして、その目的を達成するために「どのようなオフィスにしたいのか」というコンセプトを定義します。例えば、「部門を超えたコラボレーションが生まれるオフィス」「集中とリラックスを両立できるオフィス」といった具合です。このコンセプトが、後の物件選定やレイアウト設計のブレない指針となります。

移転プロジェクトチームの発足

前述の通り、関係各所からメンバーを集めてプロジェクトチームを結成します。キックオフミーティングを開催し、明確化した移転目的とコンセプト、スケジュール、各メンバーの役割を全員で共有し、プロジェクト始動の意思統一を図ります。

現状オフィスの課題洗い出し

新しいオフィスで失敗しないためには、まず現状のオフィスの何が問題なのかを徹底的に洗い出すことが重要です。従業員全員を対象としたアンケートや、各部門へのヒアリングを実施し、「会議室が足りない」「執務スペースが狭い」「駅から遠い」「空調が効きすぎる」といった具体的な課題をリストアップします。このリストが、新オフィスの要件定義の基礎となります。

移転スケジュールの策定

移転希望日から逆算して、大まかなマイルストーンを設定します。例えば、「X月までに物件決定」「Y月までに内装業者決定」「Z月までに引越し」といった形で、現実的かつ余裕を持ったスケジュールを引くことが肝心です。予期せぬトラブル(例:希望物件が見つからない、工事が遅れる)が発生することも想定し、バッファを設けておくと安心です。

移転全体の予算策定

オフィス移転には、物件取得費、内装工事費、引越し費用、IT関連費用など、多額のコストがかかります。この段階ではまだ正確な金額は出せませんが、コンサルティング会社や過去の移転事例などを参考に、大まかな概算予算を立て、経営層の承認を得ておく必要があります。予算が確保できなければ、プロジェクトは進められません。

現オフィスの賃貸借契約書の確認

非常に重要なタスクです。現オフィスの賃貸借契約書を隅々まで読み込み、特に「解約予告期間」と「原状回復義務の範囲」を正確に把握します。解約予告は一般的に6ヶ月前ですが、物件によっては3ヶ月や12ヶ月の場合もあります。この期間を間違えると、新旧オフィスの二重家賃が発生する可能性があるため、注意が必要です。原状回復の範囲も、どこまで元に戻す必要があるのか(例:経年劣化は含まれるか、特約はあるか)を確認しておきましょう。

移転コンサルティング会社の選定

自社だけで移転プロジェクトを遂行するのが難しい場合は、この段階でオフィス移転の専門知識を持つコンサルティング会社やプロジェクトマネジメント(PM)会社をパートナーとして選定することを検討します。専門家の知見を活用することで、適切な物件選定やコスト管理、スケジュール進行が可能になり、担当者の負担を大幅に軽減できます。

【10〜5ヶ月前】新オフィスの選定・契約フェーズ

策定した計画に基づき、いよいよ新しいオフィスの候補地を探し、決定するフェーズです。

物件の条件設定

洗い出した現状の課題と、新しいオフィスのコンセプトに基づき、物件に求める条件を具体的に設定します。

  • エリア: どの沿線、どの駅周辺か。取引先へのアクセスや従業員の通勤利便性を考慮します。
  • 面積: 現在の従業員数と将来の増員計画から、必要な坪数を算出します(一般的に一人あたり2〜3坪が目安)。
  • 賃料: 策定した予算内で収まるか。
  • ビルグレード: 耐震性、セキュリティ、管理体制などを確認します。
  • 設備: 空調(個別空調かセントラル空調か)、電気容量、トイレの仕様(男女別か、個数)などをチェックします。

これらの条件に優先順位をつけ、「絶対に譲れない条件」と「妥協できる条件」を明確にしておくと、物件探しがスムーズに進みます。

物件探しと内覧

設定した条件を基に、オフィス専門の不動産仲介会社に依頼して物件を探します。候補物件がリストアップされたら、必ず内覧(内見)に行きましょう。内覧では、図面だけでは分からない現地の雰囲気、日当たり、窓からの眺望、騒音、共用部(エントランス、エレベーター、トイレなど)の状態を自分の目で確認します。また、スマートフォンの電波状況や、周辺のランチ環境などもチェックしておくと良いでしょう。

新オフィスの決定と入居申し込み

複数の候補物件を比較検討し、プロジェクトチーム内で議論を重ね、移転先を1つに絞り込みます。決定したら、貸主(オーナー)に対して入居申込書を提出します。この際、入居審査のために会社案内や決算書の提出を求められることが一般的です。

賃貸借契約の締結

入居審査が通ったら、貸主との間で賃貸借契約を締結します。契約書の内容は非常に重要ですので、契約前に必ず弁護士や専門家にリーガルチェックを依頼することを強く推奨します。特に、敷金の償却条件、更新料、中途解約条項、そして原状回復の特約などは、後々のトラブルを避けるために細部まで確認が必要です。契約締結と同時に、敷金や礼金、前家賃、仲介手数料などの初期費用を支払います。

【6〜3ヶ月前】設計・業者選定フェーズ

物件が決まったら、次は新しいオフィスの空間を作り上げ、移転作業を担うパートナー業者を選定するフェーズに入ります。

旧オフィスの解約予告

新オフィスの賃貸借契約が無事に締結できたら、定められた予告期間に従って、現オフィスの貸主に対して「解約予告通知書」を提出します。このタイミングを逃すと、余計な賃料を支払うことになるため、スケジュール管理を徹底しましょう。

新オフィスのレイアウト・デザイン設計

移転のコンセプトに基づき、新オフィスの具体的なレイアウトとデザインを設計していきます。執務エリア、会議室、リフレッシュスペースなどのゾーニングを決め、詳細な動線計画や什器の配置を検討します。このプロセスは、従業員の働きやすさやコミュニケーションの質に直結するため、非常に重要です。内装デザイン会社や設計事務所と協力し、従業員の意見も取り入れながら進めていきましょう。CGパースやVRなどで完成イメージを可視化すると、関係者間の認識のズレを防げます。

内装工事業者の選定

設計図面が固まったら、それに基づいて内装工事を行ってくれる業者を選定します。複数の業者から見積もり(相見積もり)を取得し、価格だけでなく、実績、提案内容、担当者の対応などを総合的に比較検討します。工事の品質はオフィスの完成度を大きく左右するため、信頼できる業者を選ぶことが肝心です。

引越し業者の選定

オフィスの引越しは、家庭の引越しとは異なり、大量の書類や精密機器(PC、サーバーなど)、大型什器の運搬が必要となるため、オフィス移転専門の引越し業者に依頼するのが一般的です。ここでも相見積もりを取り、運搬能力、養生の丁寧さ、作業員の経験、スケジュール遵守の実績などを評価して選定します。

電話・ネットワーク工事業者の選定

新しいオフィスで業務をスムーズに開始するためには、電話回線やインターネット(LAN)環境の構築が不可欠です。情報システム部門が中心となり、必要な回線速度や電話番号の移転(番号ポータビリティ)の可否、配線のレイアウトなどを検討し、対応してくれる専門業者を選定します。

オフィス家具・OA機器の選定

新しいレイアウトに合わせて、デスク、チェア、キャビネットなどのオフィス家具や、複合機、プロジェクターなどのOA機器を選定します。既存のものを流用するのか、新規に購入・リースするのかを判断し、必要な場合はメーカーや販売代理店に発注します。従業員の健康や生産性に直結するチェアなどは、実際に試座できるショールームに足を運ぶことをおすすめします。

【3〜1ヶ月前】各種工事・手続きフェーズ

いよいよ移転に向けた物理的な準備と、法的な手続きが本格化するフェーズです。

内装・インフラ工事の開始

選定した業者による内装工事や、電話・LANなどのインフラ工事が始まります。プロジェクトマネージャーは、定期的に現場に足を運び、設計図通りに工事が進んでいるか、スケジュールに遅れはないかを進捗管理します。

各種行政手続きの準備・申請

オフィス移転に伴い、法務局、税務署、年金事務所など、様々な官公庁への届出が必要になります。後述する「オフィス移転で必要な行政手続き一覧」を参考に、必要な書類を準備し、定められた期限内に申請します。手続きによっては時間がかかるものもあるため、早めに着手しましょう。

社内への移転の正式告知

このタイミングで、全従業員に対してオフィス移転の正式な告知を行います。移転日、新オフィスの住所、移転に伴うスケジュール(荷造りのお願いなど)、新しいオフィスの使い方ルールなどを明確に伝えます。移転への期待感を醸成し、従業員の協力を得るための重要なコミュニケーションです。

取引先・関係各所への案内状の準備

顧客や取引先、協力会社など、関係各所へ移転を知らせるための案内状(挨拶状)のデザインや文面を作成し、印刷を手配します。送付先のリストアップもこの時期に行います。

不用品のリストアップと廃棄業者の手配

移転を機に、不要になった古い家具や書類、OA機器などを整理します。これらは産業廃棄物として適切に処理する必要があるため、専門の廃棄物処理業者に依頼し、回収日などを調整します。

【1ヶ月前〜当日】引越し準備・実行フェーズ

移転日が目前に迫り、最終準備に追われる慌ただしいフェーズです。

引越しの荷造り(パッキング)

引越し業者の指示に従い、荷造りを開始します。一般的には、個人のデスク周りは各自で、共有の書類や備品は部門ごとに担当を決めて行います。箱には「新オフィスのどこに運ぶか」が分かるように、配置図と連動した番号や色分けでラベリングすることが、移転後の荷解きをスムーズにするコツです。

最終的な行政手続きの実施

移転日が確定したら、消防署や警察署など、移転日を起点に届け出る必要のある手続きを進めます。

挨拶状の送付

準備しておいた移転案内状を、移転の2〜3週間前を目安に取引先などへ送付します。

電話・インターネット回線の切り替え手配

工事業者と最終調整を行い、旧オフィスでの回線停止日と、新オフィスでの開通日を確定させます。業務に支障が出ないよう、切り替えがスムーズに行われるかを入念に確認します。

引越し作業の実施

一般的には、業務への影響を最小限にするため、金曜日の業務終了後から土日にかけて引越し作業を行います。当日は、プロジェクトチームのメンバーが旧オフィスと新オフィスの両方に常駐し、引越し業者の作業指示やトラブル対応にあたります。

【移転後】原状回復・業務開始フェーズ

移転作業が完了しても、プロジェクトはまだ終わりではありません。最後の締めくくりが重要です。

新オフィスでの業務開始

週明けの月曜日など、定められた日から新オフィスでの業務をスタートします。PCの接続確認やネットワークの疎通確認など、従業員がスムーズに業務を始められるよう、情報システム部門や総務部門がサポート体制を敷きます

荷解きと最終的なレイアウト調整

各部署で荷解きを進め、最終的な備品の配置などを行います。実際に業務を始めてみて発覚した不便な点などを微調整します。

旧オフィスの原状回復工事

引越しが完了し、空になった旧オフィスで、賃貸借契約書に基づいた原状回復工事を行います。工事完了後、貸主(オーナー)または管理会社の立ち会いのもとで最終チェックを受けます。

旧オフィスの明け渡し

立ち会い検査で問題がなければ、鍵を返却し、旧オフィスの明け渡しが完了です。後日、敷金から原状回復工事費や償却費が差し引かれた額が返還されます。

各種届出の完了確認

申請した行政手続きが全て受理され、問題なく完了しているかを確認します。特に、登記や税務関連の変更が正しく反映されているかは重要です。これら全てのタスクが完了して、ようやく長かったオフィス移転プロジェクトは終結となります。

オフィス移転にかかる費用の内訳と相場

オフィス移転は多額の投資を伴うプロジェクトです。予算を正確に把握し、適切に管理することは、経営上非常に重要です。費用は大きく「旧オフィスで発生する費用」「新オフィスで発生する費用」「引越し関連の費用」の3つに分類されます。ここでは、それぞれの内訳と一般的な相場について解説します。

費用の種類 主な内訳 費用の目安
旧オフィス関連費用 原状回復工事費 坪単価 3万円〜15万円
産業廃棄物処理費 2tトラック1台あたり 5万円〜10万円
新オフィス関連費用 物件取得費 賃料の6〜12ヶ月分
内装デザイン・工事費 坪単価 10万円〜50万円以上
オフィス家具・OA機器購入費 従業員1名あたり 10万円〜30万円
インフラ整備費 従業員1名あたり 3万円〜7万円
引越し・その他費用 引越し作業費 従業員1名あたり 2万円〜5万円
移転案内状の作成・郵送費 1通あたり 100円〜300円

※上記の費用はあくまで一般的な目安であり、物件の規模やグレード、工事の内容、選択する業者によって大きく変動します。

旧オフィスで発生する費用

退去するオフィスに関連して発生する費用です。見落としがちですが、想定外の出費とならないよう事前にしっかり確認しておく必要があります。

原状回復工事費

旧オフィスを借りる前の状態に戻すための工事費用で、多くの場合、オフィス移転のコストの中で大きなウェイトを占めます。賃貸借契約書で定められた範囲に基づいて、壁紙や床材の張り替え、パーティションの撤去、クリーニングなどを行います。

  • 相場: 費用の相場は、ビルのグレードや物件の状態によって大きく異なりますが、一般的に坪単価で3万円〜15万円程度が目安です。小規模なビルであれば坪3〜5万円、グレードの高い大規模ビルになると坪10万円を超えることも珍しくありません。
  • 注意点: 契約書に「貸主指定の業者で工事を行うこと」と定められている場合が多く、相見積もりが取れずに高額になりがちです。契約内容を事前にしっかり確認し、交渉の余地がないか検討することも重要です。

産業廃棄物処理費

移転に伴い不要になったデスク、チェア、キャビネット、PC、書類などを処分するための費用です。これらは家庭ごみとして捨てることはできず、法律に基づき産業廃棄物として適切に処理しなければなりません

  • 相場: 廃棄物の量によって決まりますが、2tトラック1台分で5万円〜10万円程度が目安です。機密書類の溶解処理や、PCのデータ消去などを依頼する場合は、別途追加費用がかかります。

新オフィスで発生する費用

新しい拠点を構えるために必要な、最も大きなコストがかかる部分です。

物件取得費(敷金・礼金・仲介手数料など)

新しいオフィスを借りるための初期費用です。

  • 敷金(保証金): 賃料の滞納や退去時の原状回復費に充てられる担保金です。賃料の6ヶ月〜12ヶ月分が相場とされています。退去時に一部が償却(返還されない費用)される契約もあるため、契約内容の確認が必須です。
  • 礼金: 貸主に対して支払う謝礼金で、返還されません。賃料の1〜2ヶ月分が相場ですが、近年は礼金なしの物件も増えています。
  • 仲介手数料: 物件を紹介してくれた不動産会社に支払う手数料です。法律で上限が定められており、賃料の1ヶ月分+消費税が一般的です。
  • 前払賃料: 入居する月の賃料を前払いで支払います。月の途中で入居する場合は、日割り計算されます。
  • 火災保険料: 万が一の火災などに備える保険で、加入が義務付けられていることがほとんどです。

これらを合計すると、物件取得費だけで賃料の1年分近くのまとまった資金が必要になることを認識しておく必要があります。

内装デザイン・工事費

新しいオフィスのレイアウトやデザインを実現するための費用です。エントランス、会議室、執務スペース、リフレッシュエリアなどの設計と施工にかかるコストが含まれます。

  • 相場: デザインの凝り具合や使用する素材によって価格は青天井ですが、一般的なオフィスであれば坪単価10万円〜50万円程度が目安です。シンプルな内装であれば坪10万円前後、デザイン性を高めると坪30万円以上になることもあります。

オフィス家具・OA機器購入費

新しいオフィスで使用するデスク、チェア、収納家具や、複合機、PC、モニターなどを新たに購入またはリースするための費用です。

  • 相場: 従業員数や選ぶ製品のグレードによって大きく変動しますが、従業員1名あたり10万円〜30万円程度を見込んでおくと良いでしょう。特に、従業員の健康に直結するオフィスチェアは高価なものが多いため、予算配分を慎重に検討する必要があります。

インフラ整備費(電話・LANなど)

業務に不可欠な電話やインターネット環境を整えるための費用です。電話機の購入・設置、PBX(電話交換機)の導入、LANケーブルの配線工事、Wi-Fi環境の構築、サーバーの移設・設定などが含まれます。

  • 相場: オフィスの規模やネットワークの複雑さによりますが、従業員1名あたり3万円〜7万円程度が目安です。セキュリティ対策を強化する場合は、さらに費用がかかります。

引越し関連の費用

物理的な移動や、それに伴う雑多な費用です。

引越し作業費

旧オフィスから新オフィスへ、什器や書類、PCなどを運搬するための費用です。

  • 相場: 運搬する物量や移動距離、作業を行う時間帯(休日・夜間は割高)によって決まります。従業員1名あたり2万円〜5万円程度が目安です。PCなどの精密機器の梱包や輸送には、専門的なノウハウが必要なため、オフィス専門の引越し業者に依頼するのが安心です。

移転案内状の作成・郵送費

取引先や顧客に移転を知らせるための挨拶状にかかる費用です。デザイン費、印刷費、郵送費が含まれます。

  • 相場: 送付する枚数や紙質、デザインによって異なりますが、1通あたり100円〜300円程度が目安です。

費用を抑えるための3つのポイント

多額の費用がかかるオフィス移転ですが、工夫次第でコストを削減することも可能です。

① 居抜き物件を検討する

居抜き物件とは、前のテナントが使用していた内装や設備、什器などが残された状態で借りられる物件のことです。内装工事費や家具購入費を大幅に削減できるため、初期費用を抑えたい場合に非常に有効な選択肢です。ただし、レイアウトの自由度が低く、自社のコンセプトに合わない可能性もあるため、メリット・デメリットを慎重に比較検討する必要があります。

② 複数の業者から相見積もりを取る

内装工事業者や引越し業者などを選定する際は、必ず2〜3社以上の業者から見積もり(相見積もり)を取得しましょう。これにより、適正な価格を把握できるだけでなく、各社の提案内容やサービスを比較して、自社に最適なパートナーを見つけることができます。単に価格が安いだけでなく、品質や実績、担当者の対応なども含めて総合的に判断することが重要です。

③ 補助金や助成金を活用する

国や地方自治体によっては、企業のオフィス移転や設備投資を支援するための補助金・助成金制度を設けている場合があります。例えば、特定の地域への移転を促進するための「サテライトオフィス設置補助金」や、雇用創出を目的とした助成金、省エネ設備導入に対する補助金などが考えられます。自社が対象となる制度がないか、移転先の自治体のウェブサイトなどで情報を収集してみる価値はあります。

オフィス移転で必要な行政手続き一覧

オフィス移転(特に本店・主たる事務所の移転)を行う際には、法務局や税務署をはじめとする様々な官公庁への届出が法律で義務付けられています。手続きにはそれぞれ期限があり、怠ると過料(罰金)が科される場合もあるため、漏れなく確実に行う必要があります。ここでは、主要な行政手続きを一覧でご紹介します。

提出先 主な届出書類 提出期限の目安
法務局 本店移転登記申請書 移転日から2週間以内
税務署 異動届出書 移転後、速やかに
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 移転日から1ヶ月以内
都道府県税事務所・市町村役場 事業開始(廃止)等申告書(異動届) 移転後、速やかに(自治体による)
年金事務所 健康保険・厚生年金保険 適用事業所所在地・名称変更(訂正)届 移転日から5日以内
労働基準監督署 労働保険 名称、所在地等変更届 移転日の翌日から10日以内
労働保険関係成立届(※管轄変更時) 移転日の翌日から10日以内
ハローワーク 雇用保険 事業主事業所各種変更届 移転日の翌日から10日以内
雇用保険 適用事業所設置届(※管轄変更時) 移転日の翌日から10日以内
消防署 防火対象物使用開始届出書 使用開始日の7日前まで
防火・防災管理者選任(解任)届出書 選任後、速やかに
警察署 自動車保管場所証明申請書(車庫証明)
郵便局 転居届 移転日が決まり次第

法務局への届出

法人の住所変更を公的に登録する、最も重要な手続きです。

  • 届出書類: 本店移転登記申請書
  • 提出期限: 本店移転日から2週間以内
  • 注意点: 提出先は、移転前と移転後の所在地を管轄する法務局です。管轄外への移転の場合は、旧所在地と新所在地の両方の法務局へ申請が必要です。登記には登録免許税(管轄内移転は3万円、管轄外移転は6万円)がかかります。

税務署への届出

国税(法人税、消費税、源泉所得税)に関する住所変更の手続きです。

  • 届出書類:
    • 異動届出書: 法人税や消費税に関する届出です。
    • 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書: 従業員に給与を支払っている場合に必要です。
  • 提出期限: 異動届出書は「移転後、遅滞なく」、給与支払事務所等の届出書は「移転の事実があった日から1ヶ月以内」とされています。
  • 提出先: 移転前の所在地を管轄する税務署です。

都道府県税事務所・市町村役場への届出

地方税(法人事業税、法人住民税)に関する住所変更の手続きです。

  • 届出書類: 事業開始(廃止)等申告書、法人異動届など(自治体により名称が異なる)。
  • 提出期限: 自治体によって異なりますが、「移転後速やかに」「10日以内」「1ヶ月以内」などと定められていることが多いです。
  • 提出先: 移転前と移転後の両方の都道府県税事務所および市町村役場への提出が必要です。

年金事務所への届出

従業員の健康保険や厚生年金保険に関する手続きです。

  • 届出書類: 健康保険・厚生年金保険 適用事業所所在地・名称変更(訂正)届
  • 提出期限: 移転日から5日以内と非常に短いため、注意が必要です。
  • 提出先: 移転後の所在地を管轄する年金事務所です。

労働基準監督署への届出

労働保険(労災保険)に関する手続きです。

  • 届出書類: 労働保険 名称、所在地等変更届
  • 提出期限: 移転日の翌日から10日以内
  • 注意点: 移転によって管轄の労働基準監督署が変わる場合は、旧管轄の監督署で「労働保険関係成立届」の廃止手続き、新管轄の監督署で新規の成立手続きが必要になることがあります。

ハローワーク(公共職業安定所)への届出

雇用保険に関する手続きです。

  • 届出書類: 雇用保険 事業主事業所各種変更届
  • 提出期限: 移転日の翌日から10日以内
  • 注意点: 労働基準監督署と同様、管轄が変わる場合は別途「雇用保険 適用事業所設置届」などの手続きが必要になる場合があります。

消防署への届出

建物の防火安全に関する重要な手続きです。

  • 届出書類:
    • 防火対象物使用開始届出書: 新しいオフィス(建物やテナント)を使用開始する際に必要です。
    • 防火・防災管理者選任(解任)届出書: オフィスの収容人数が一定数(特定防火対象物で30人、非特定で50人)以上の場合に必要です。
  • 提出期限: 使用開始届出書は使用開始日の7日前まで。防火管理者選任届は選任後、遅滞なく提出します。
  • 提出先: 新オフィスの所在地を管轄する消防署です。

警察署への届出

社用車を保有している場合に必要となる手続きです。

  • 届出書類: 自動車保管場所証明申請書(車庫証明)、自動車検査証(車検証)の記載事項変更など。
  • 提出期限: 移転後、速やかに行う必要があります。
  • 提出先: 新オフィスの所在地を管轄する警察署です。

郵便局への届出

旧住所宛の郵便物を新オフィスへ転送してもらうための手続きです。

  • 届出書類: 転居届
  • 提出期限: 移転日が決まり次第、早めに提出するのがおすすめです。インターネット(e転居)でも手続きが可能です。
  • 注意点: 転送期間は届出日から1年間です。この期間内に、取引先や関係各所に住所変更の連絡を完了させましょう。

これらの手続きは非常に煩雑で、専門的な知識が求められるものもあります。社会保険労務士や司法書士、税理士などの専門家と連携しながら進めることで、手続きの漏れや遅れを防ぐことができます。

オフィス移転を成功させるための3つのポイント

移転の目的を社内で明確に共有する、余裕を持ったスケジュールで計画的に進める、信頼できる専門業者をパートナーに選ぶ

数多くのタスクと手続きを伴うオフィス移転プロジェクト。これを単なる「引越し作業」で終わらせず、企業の成長に繋がる戦略的な一手とするためには、押さえておくべき重要なポイントが3つあります。

① 移転の目的を社内で明確に共有する

オフィス移転を成功させるための最も根源的で重要なポイントは、「なぜ移転するのか」という目的をプロジェクトチームだけでなく、全従業員と共有することです。

目的が曖昧なままプロジェクトを進めると、様々な場面で判断の軸がぶれてしまいます。例えば、物件選定の際に「とにかく賃料が安い物件」に目が行きがちになったり、レイアウト設計で「各部門のバラバラな要望をただ詰め込んだだけ」の非効率なオフィスになってしまったりする恐れがあります。

「今回は、部門間のコミュニケーションを活性化させてイノベーションを創出することが最大の目的だ」という共通認識があれば、物件選びでは「偶発的な出会いが生まれるような共用スペースが充実したビル」が候補になり、レイアウト設計では「フリーアドレスやコラボレーションエリアを積極的に取り入れる」という一貫した判断ができます。

目的を共有することは、従業員のエンゲージメントを高める上でも不可欠です。移転が「会社都合で決められた、面倒な引越し」と捉えられてしまうと、従業員の協力は得られにくくなります。しかし、「自分たちの働き方をより良くし、会社を成長させるためのポジティブなプロジェクト」として目的やビジョンが共有されれば、従業員は当事者意識を持ち、荷造りや新しいルールの遵守にも積極的に協力してくれるでしょう。キックオフミーティングでの説明はもちろん、社内報やイントラネットなどを活用して、移転の進捗や新しいオフィスのコンセプトを継続的に発信していくことが、プロジェクトを円滑に進めるための潤滑油となります。

② 余裕を持ったスケジュールで計画的に進める

オフィス移転は、短くても半年、大規模なものになれば1年以上の期間を要する長期プロジェクトです。このプロジェクトを成功に導くためには、現実的かつ余裕を持ったスケジュールを策定し、計画的に進めることが極めて重要です。

スケジュールがタイトすぎると、様々な弊害が生じます。

  • 意思決定の質の低下: 時間に追われることで、物件選定や業者選定、レイアウト設計などを十分に比較検討する時間がなくなり、妥協や拙速な判断を招きやすくなります。後から「もっと良い物件があったのに」「この業者に頼むべきではなかった」と後悔する事態になりかねません。
  • 予期せぬトラブルへの対応力低下: オフィス移転には、「希望の物件がなかなか見つからない」「内装工事が許認可の関係で遅れる」「ITインフラの構築に問題が発生する」といった予期せぬトラブルがつきものです。スケジュールにバッファがなければ、こうしたトラブルが発生した際に軌道修正ができず、移転日の延期や、旧オフィスとの二重家賃の発生といった金銭的な損失に直結します。
  • 担当者・従業員の疲弊: ギリギリのスケジュールは、プロジェクト担当者や従業員に大きな精神的・肉体的負担を強います。通常業務と並行して移転準備に追われることで、心身ともに疲弊し、通常業務のパフォーマンス低下や、移転プロジェクトへの不満増大に繋がります。

これを防ぐためには、記事の前半で解説した「やることリスト」を参考に、各タスクに必要な期間を洗い出し、それぞれの間に適切なバッファ(予備期間)を設けた全体スケジュールを作成しましょう。プロジェクト管理ツールなどを活用して進捗を可視化し、遅延が発生した場合は早期に原因を特定して対策を講じる体制を整えることが、計画通りの移転を実現する鍵となります。

③ 信頼できる専門業者をパートナーに選ぶ

オフィス移転には、不動産、設計、内装工事、IT、法務、税務など、多岐にわたる専門知識が必要です。これら全てを自社のリソースだけでカバーするのは、多くの場合、非現実的であり、非効率です。各分野のプロフェッショナルである専門業者を、単なる「外注先」ではなく「成功のためのパートナー」として選び、協働することが、プロジェクトの質を大きく左右します。

信頼できるパートナーを選ぶメリットは計り知れません。

  • 専門知識と経験の活用: 豊富な実績を持つ業者は、過去の経験から得た知見やノウハウを持っています。自社では気づかないような潜在的なリスクを指摘してくれたり、課題に対する最適な解決策を提案してくれたりします。
  • 時間と手間の削減: 物件探しからレイアウト設計、各種工事、行政手続きまでをワンストップでサポートしてくれる会社に依頼すれば、自社担当者は複数の業者と個別にやり取りする手間から解放され、より重要な「目的の達成」や「社内調整」といったコア業務に集中できます。
  • コストの最適化: 専門業者は、コストと品質のバランスに関する知見を持っています。相場感を把握しており、適切な価格で質の高い工事を実現するためのノウハウを持っています。また、業者間のネットワークを活かして、コストパフォーマンスの高い家具や什器を提案してくれることもあります。

良いパートナーを選ぶためには、複数の業者と実際に会い、提案内容を比較するだけでなく、自社のビジョンや課題を深く理解し、親身になって相談に乗ってくれるか、担当者との相性は良いかといった点も見極めることが重要です。長期にわたって協力していく相手だからこそ、信頼関係を築けるかどうかを重視して選定しましょう。

オフィス移転業者の選び方とおすすめ5選

オフィス移転を成功させる鍵の一つが、信頼できるパートナー業者を見つけることです。しかし、数多くの業者が存在する中で、どの会社を選べば良いのか迷ってしまうことも多いでしょう。ここでは、オフィス移転業者を選定する際のポイントと、実績豊富な代表的なサポート会社を5社ご紹介します。

オフィス移転業者の選定ポイント

業者を選定する際には、価格だけでなく、以下の4つのポイントを総合的に評価することが重要です。

対応範囲は広いか(ワンストップ対応か)

オフィス移転には、物件探し、レイアウト設計、内装工事、インフラ整備、引越し、原状回復工事など、非常に多くの工程が存在します。これらの業務を一つの窓口で一貫して依頼できる「ワンストップ対応」の業者を選ぶと、担当者の負担を大幅に軽減できます。各工程で別々の業者に依頼すると、連絡や調整が煩雑になり、責任の所在が曖昧になるリスクがあります。ワンストップ対応であれば、プロジェクト全体の進捗管理を任せることができ、スムーズな連携が期待できます。

実績は豊富か

自社の企業規模(従業員数)や業種、あるいは目指すオフィスのコンセプト(例:デザイン性の高いオフィス、スタートアップ向けのオフィスなど)と類似した案件の実績が豊富かどうかを確認しましょう。業者のウェブサイトで施工事例を確認したり、直接問い合わせて過去の実績をヒアリングしたりすることが有効です。豊富な実績は、様々な状況に対応できるノウハウと提案力を持っている証と言えます。

担当者との相性や対応は良いか

オフィス移転は数ヶ月にわたる長期のプロジェクトです。そのため、プロジェクトを共に進める担当者との相性やコミュニケーションの取りやすさは非常に重要です。こちらの要望を的確に理解し、専門用語を分かりやすく説明してくれるか。レスポンスは迅速で丁寧か。単なる御用聞きではなく、プロとして付加価値のある提案をしてくれるか。といった点を、打ち合わせの中で見極めましょう。信頼関係を築ける担当者であれば、安心してプロジェクトを任せることができます。

見積もりの内容が明確か

複数の業者から相見積もりを取る際は、総額の安さだけで判断してはいけません。見積書の内訳が詳細に記載されており、何にどれくらいの費用がかかるのかが明確になっているかを確認することが重要です。「工事一式」といった曖昧な記載が多い見積もりは、後から追加費用を請求されるリスクがあります。不明な点があれば、納得がいくまで質問し、誠実に回答してくれる業者を選びましょう。

おすすめのオフィス移転サポート会社5選

ここでは、上記のような選定ポイントを満たす、実績豊富なオフィス移転サポート会社を5社ご紹介します。各社それぞれに強みや特徴があるため、自社の目的やニーズに合った会社を見つけるための参考にしてください。
(※掲載順は順不同です)

① 株式会社ヒトカラメディア

「『働く』の価値を上げる」をミッションに掲げ、特にベンチャー・スタートアップ企業向けのオフィス移転支援に強みを持つ会社です。単なる物件仲介に留まらず、企業の事業戦略や組織課題のヒアリングから入り込み、企業の成長に貢献するオフィス戦略を共に考えるコンサルティング力が特徴です。企業のカルチャーやビジョンを体現するオフィスづくりを得意としています。

  • 特徴: 戦略的なオフィス移転、ベンチャー・スタートアップ支援、カルチャーフィット
  • 対応範囲: コンサルティング、物件仲介、オフィスデザイン、プロジェクトマネジメント
  • 参照:株式会社ヒトカラメディア 公式サイト

② 株式会社コスモスモア

リクルートグループの一員として、長年にわたりオフィス構築を手掛けてきた豊富な実績を持つ会社です。オフィス移転の全工程をワンストップでサポートするだけでなく、移転後のオフィス運用やファシリティマネジメントまで見据えた長期的な視点での提案力に定評があります。大規模なオフィス移転から小規模なレイアウト変更まで、幅広いニーズに対応可能です。

  • 特徴: ワンストップ対応、豊富な実績、ファシリティマネジメント
  • 対応範囲: 物件選定サポート、設計・デザイン、内装工事、引越し、原状回復
  • 参照:株式会社コスモスモア 公式サイト

③ 株式会社フロンティアコンサルティング

年間6,000件以上という業界トップクラスのプロジェクト実績を誇り、デザイン性と機能性を両立させたオフィスづくりに強みを持っています。国内外に拠点を持ち、企業の規模や業種を問わず、多様なニーズに応えることができます。コンセプトメイキングから設計、施工までを一貫して手掛け、企業のブランディングや働き方改革に貢献するオフィス空間を提案します。

  • 特徴: 豊富な実績、高いデザイン性、ワンストップサービス
  • 対応範囲: オフィスデザイン、内装設計・施工、プロジェクトマネジメント、家具販売
  • 参照:株式会社フロンティアコンサルティング 公式サイト

④ 株式会社ヴィス

「はたらく人々を幸せに。」というフィロソフィーのもと、企業の理念やビジョンを空間デザインで表現する「デザイナーズオフィス」のパイオニア的存在です。綿密なヒアリングを通じて企業の課題や想いを抽出し、そこで働く人々のエンゲージメントを高めるオリジナリティあふれるオフィス空間を創造します。特に企業のブランディング強化を目的としたオフィス移転で高い評価を得ています。

  • 特徴: デザイナーズオフィス、ブランディング、クリエイティブな空間提案
  • 対応範囲: コンサルティング、オフィスデザイン、プロジェクトマネジメント
  • 参照:株式会社ヴィス 公式サイト

⑤ 株式会社サン・プランナー

オフィス移転・改装に特化した専門企業として40年以上の歴史と実績を持つ老舗です。ワンストップサービスを強みとし、特に実務的なプロジェクトマネジメント能力に定評があります。現実的な予算内で、企業の要望を最大限に実現するための堅実な提案力が魅力です。コストを意識しつつも、質の高いオフィス環境を実現したい企業に適しています。

  • 特徴: 長年の実績、ワンストップサービス、堅実なプロジェクトマネジメント
  • 対応範囲: オフィス移転コンサルティング、設計・施工、引越し、原状回復
  • 参照:株式会社サン・プランナー 公式サイト

これらの会社以外にも、優れたオフィス移転業者は多数存在します。まずは自社の移転目的を明確にした上で、複数の会社に問い合わせてみて、最も信頼できるパートナーを見つけることが成功への近道です。

オフィス移転に関するよくある質問

移転にかかる期間はトータルでどれくらい、居抜きオフィスとスケルトンオフィスの違い、小規模なオフィス移転でも業者に依頼すべき

最後に、オフィス移転を検討している担当者の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

移転にかかる期間はトータルでどれくらい?

A. 一般的には、移転計画の開始から移転完了まで、トータルで6ヶ月〜1年程度を見込んでおくのが標準的です。

企業の規模や移転の内容によって期間は大きく変動します。

  • 小規模オフィス(〜30名程度): 比較的スムーズに進めば、約6ヶ月で完了できるケースもあります。
  • 中〜大規模オフィス(50名以上): 物件選定や内装設計に時間がかかるため、10ヶ月〜12ヶ月以上を見ておくと安心です。
  • フルオーダーの設計・施工を行う場合: デザインや仕様の決定、特注家具の製作などに時間がかかり、1年以上を要することも珍しくありません。

特に、旧オフィスの「解約予告期間(一般的に6ヶ月前)」がスケジュールの起点となることが多いです。この期間内に新オフィスの決定から契約、設計、工事までを完了させる必要があるため、余裕を持った計画が不可欠です。

居抜きオフィスとスケルトンオフィスの違いは?

A. 内装や設備が残っているか、何もない状態かの違いです。 それぞれにメリット・デメリットがあります。

居抜きオフィス スケルトンオフィス
定義 前のテナントの内装・設備・什器などが残っている物件 建物の構造躯体(床・壁・天井)がむき出しの状態の物件
メリット 初期費用を大幅に削減できる(内装工事費、什器購入費)
入居までの期間が短い
レイアウトやデザインの自由度が非常に高い
・自社のブランドやコンセプトを完全に反映できる
デメリット レイアウトやデザインの自由度が低い
・残された設備が老朽化している場合がある
・自社のイメージに合わない可能性がある
初期費用が高額になる(内装工事費、什器購入費)
入居までの期間が長い
・退去時の原状回復費用も高くなる傾向がある

コストとスピードを重視するなら居抜きオリジナリティとブランディングを重視するならスケルトンが適していると言えます。自社の移転目的や予算に合わせて、最適な物件タイプを選択しましょう。

小規模なオフィス移転でも業者に依頼すべき?

A. 結論から言うと、小規模な移転であっても専門業者に依頼することを強くおすすめします。

従業員数が10名以下の小規模なオフィス移転の場合、「自分たちでできるのでは?」と考えるかもしれません。しかし、オフィス移転には、家庭の引越しにはない専門的なタスクが数多く存在します。

  • 煩雑なタスクからの解放: 物件探しから各種契約、行政手続き、インフラ整備、引越し作業、原状回復まで、やるべきことは多岐にわたります。これらを通常業務と並行して行うのは、担当者にとって非常に大きな負担です。
  • 専門知識の活用: 適正な賃料相場の把握、賃貸借契約書のリーガルチェック、効果的なレイアウトの提案、適切な原状回復工事など、専門家でなければ判断が難しい場面が多くあります。専門家の知見を活用することで、後々のトラブルや見えないコストの発生を防ぐことができます。
  • 結果的なコスト削減: 自社で対応した場合、時間的コスト(担当者の人件費)がかさむだけでなく、知識不足から割高な契約を結んでしまったり、不要な工事を行ってしまったりするリスクがあります。専門業者に依頼することで、トータルコストを最適化できる可能性が高いです。

もちろん業者に依頼すれば費用はかかりますが、その費用は「安心と時間と品質を買うための投資」と考えるべきです。小規模オフィス移転を得意とする業者も多いため、まずは相談してみることをおすすめします。