オフィスビル賃貸の探し方ガイド 契約の流れや費用相場も解説

オフィスビル賃貸の探し方ガイド、契約の流れや費用相場も解説

企業の成長や事業戦略の変化に伴い、オフィスの移転や新規開設は多くの経営者や担当者が直面する重要なプロジェクトです。しかし、オフィスビル賃貸のプロセスは複雑で、住居用の物件探しとは異なる専門的な知識が求められます。どこから手をつければ良いのか、どのような手順で進めれば良いのか、費用はどれくらいかかるのか、といった疑問や不安を抱えている方も少なくないでしょう。

適切なオフィスは、従業員の満足度や生産性の向上、さらには企業ブランドのイメージアップにも直結する重要な経営資源です。理想のワークプレイスを実現するためには、計画段階から契約、入居に至るまで、各ステップで正しい判断を下していく必要があります。

本記事では、オフィスビル賃貸を検討している企業の担当者や経営者の方々に向けて、オフィス探しの基本から契約・入居までの具体的な流れ、情報収集の方法、費用相場、そして契約前に必ず確認すべき注意点まで、網羅的に解説します。このガイドを参考に、自社に最適なオフィス移転プロジェクトを成功させましょう。

オフィスビル賃貸とは

オフィスビル賃貸とは

まずはじめに、「オフィスビル賃貸」の基本的な概念と、多くの人が馴染みのある「住居用の賃貸物件」との違いについて深く掘り下げていきましょう。この違いを理解することが、オフィス探しの第一歩となります。

事業目的で利用する建物を借りること

オフィスビル賃貸とは、法人が事業活動を行う拠点として、ビルや建物の一部または全部を期間を定めて借りる契約(賃貸借契約)を結ぶことを指します。単に「働く場所を確保する」という物理的な意味合いだけでなく、企業の成長戦略や経営課題を解決するための重要な手段として位置づけられます。

例えば、以下のような目的でオフィスビル賃貸が活用されます。

  • 事業拡大に伴う人員増加への対応: 従業員が増え、既存のオフィスが手狭になった場合に、より広いスペースを確保するために移転します。
  • コスト最適化: 賃料の安いエリアへの移転による固定費の削減や、逆に賃料は高くとも交通費などの変動費を抑えられる戦略的な立地への移転を目指します。
  • ブランディングと人材採用の強化: デザイン性の高いビルや都心の一等地に移転することで、企業のブランドイメージを向上させ、優秀な人材の獲得につなげます。
  • 多様な働き方への対応: リモートワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドワークに対応するため、サテライトオフィスを開設したり、コミュニケーションを活性化させるレイアウトのオフィスに移転したりします。
  • 事業継続計画(BCP)対策: 耐震性やセキュリティレベルの高いビルに移転し、自然災害や不測の事態に備えます。

このように、オフィス移転の背景には、それぞれの企業が抱える多様な経営課題が存在します。したがって、オフィスビル賃貸は、これらの課題を解決し、事業の成長を加速させるための戦略的な投資と捉えることが重要です。

オフィスを借りることは、自社ビルを建設・購入する場合と比較して、多額の初期投資を抑えられるという大きなメリットがあります。事業環境の変化に柔軟に対応しやすく、企業の成長フェーズに合わせてオフィスの規模や場所を変動させられるため、多くの企業にとって現実的で合理的な選択肢となっています。

住居用の賃貸物件との違い

オフィスビル賃貸と住居用の賃貸物件は、同じ「不動産を借りる」行為でありながら、その目的、法律、契約慣行、費用構造など、多くの点で根本的に異なります。この違いを理解していないと、思わぬトラブルや想定外のコストが発生する可能性があります。

以下に、主な違いをまとめました。

項目 オフィスビル賃貸(事業用) 住居用賃貸(居住用)
利用目的 事業活動(執務、会議、来客対応など) 生活・居住
適用される法律 主に借地借家法(ただし、特約が優先されることが多い) 借地借家法、消費者契約法
契約者 法人(または個人事業主) 個人
賃料・共益費 消費税が課税される 原則として非課税
敷金・保証金 賃料の6ヶ月〜12ヶ月分が一般的。償却される場合もある。 賃料の1ヶ月〜2ヶ月分が一般的。
礼金 賃料の0ヶ月〜2ヶ月分。無い場合も多い。 賃料の0ヶ月〜2ヶ月分。
契約形態 定期借家契約が多い傾向。普通借家契約もある。 普通借家契約が一般的。
原状回復義務 入居時の状態に戻す義務(特約で範囲が広がることも) 経年劣化・通常損耗は貸主負担が原則。
インフラ設備 OAフロア、大容量の電源、高速インターネット回線など キッチン、バス、トイレなど生活設備
セキュリティ 機械警備、警備員常駐、入退館管理システムなど高レベル オートロック、モニター付きインターホンなど

最も注意すべきは、費用の考え方です。オフィス賃貸では、賃料や共益費、仲介手数料などに消費税が課税されます。また、初期費用として預け入れる敷金(保証金)は、住居用に比べて非常に高額になる傾向があります。賃料の10ヶ月分といったケースも珍しくなく、多額の初期投資が必要になることを覚悟しなければなりません。

さらに、契約形態も大きな違いです。住居用では、借主が希望すれば更新が原則となる「普通借家契約」が主流ですが、オフィス賃貸では、契約期間の満了とともに契約が確定的に終了する「定期借家契約」も多く見られます。定期借家契約の場合、事業を継続したくても再契約できなければ退去しなければならないリスクがあるため、契約前に必ず確認が必要です。

原状回復義務の範囲もトラブルになりやすいポイントです。住居用では、国土交通省のガイドラインにより、経年劣化や通常の使用による損耗は貸主の負担とすることが一般的です。しかし、オフィス賃貸では、特約によって借主の負担範囲が広く設定されているケースが多く、内装をすべて解体してスケルトン状態(建物の骨格だけの状態)に戻すことを求められることもあります。

このように、オフィスビル賃貸は住居用とは全く異なるルールと慣行の上で成り立っています。これらの違いを正しく認識し、専門家である不動産仲介会社と連携しながら、慎重にプロセスを進めていくことが成功の鍵となります。

賃貸オフィス契約・入居までの10ステップ

理想のオフィスを見つけ、スムーズに入居するためには、計画的かつ段階的にプロセスを進めることが不可欠です。オフィス移転は、一般的に移転を決定してから入居完了まで、少なくとも6ヶ月から1年程度の期間を要する長期的なプロジェクトです。ここでは、契約・入居までの流れを10のステップに分けて、各段階でやるべきことや注意点を詳しく解説します。

① 移転目的の明確化と計画立案

すべての始まりは「なぜ移転するのか」という目的を明確にすることです。目的が曖昧なままでは、物件探しの軸がぶれてしまい、最適なオフィスを選ぶことはできません。

  • 目的の明確化: 人員増加、コスト削減、ブランディング向上、生産性向上、事業継続計画(BCP)対策など、移転によって達成したい目標を具体的に言語化します。経営層だけでなく、各部署の責任者などからもヒアリングを行い、全社的な課題を洗い出すことが重要です。
  • プロジェクトチームの結成: 移転プロジェクトを推進するための専任チームを立ち上げます。総務、人事、経理、情報システム、経営企画など、関連部署からメンバーを選出し、それぞれの役割と責任を明確にします。
  • コンセプトの設定: 「コミュニケーションが活性化するオフィス」「集中とリラックスを両立できるオフィス」など、新しいオフィスのコンセプトを定めます。このコンセプトが、後のレイアウト設計やデザインの指針となります。
  • 予算の策定: 後述する初期費用、移転関連費用、ランニングコストなどを概算し、移転プロジェクト全体の大まかな予算を確保します。特に、見落としがちな内装工事費や原状回復費用も考慮に入れることが肝心です。
  • スケジュールの策定: 現在のオフィスの解約予告期間を確認し、それを基点として全体のスケジュールを逆算して作成します。各ステップに要する期間を現実的に見積もり、余裕を持った計画を立てましょう。

この初期段階での計画の質が、プロジェクト全体の成否を左右すると言っても過言ではありません。

② 希望条件の整理

移転目的が明確になったら、それを実現するための具体的な物件の希望条件を整理します。すべての条件を満たす完璧な物件は存在しないため、条件に優先順位をつけることが極めて重要です。

  • MUST条件(必須条件): これが満たされなければ候補にならない、絶対に譲れない条件です。
    • 例:従業員50名が収容できる面積(例:100坪以上)、月額賃料(共益費込)300万円以内、最寄り駅から徒歩5分以内、2025年3月末までに入居可能など。
  • WANT条件(希望条件): 必須ではないが、満たされていれば評価が高まる条件です。
    • 例:会議室が3つ以上設置可能、リフレッシュスペースを確保できる、個別空調、24時間利用可能、新耐震基準を満たしているなど。
  • NICE TO HAVE条件(あれば嬉しい条件): あれば尚良いが、なくても問題ない付加価値的な条件です。
    • 例:眺望が良い、ビルのグレードが高い、1階にコンビニがある、ジムが併設されているなど。

これらの条件をリストアップし、プロジェクトチーム内で合意形成を図ります。特に面積の算出は重要です。一般的に、従業員1人あたりに必要な面積は3坪(約10㎡)程度が目安とされますが、これには執務スペースのほか、会議室、役員室、リフレッシュスペースなどの共用部も含まれます。企業の業種や働き方によって適切な面積は異なるため、慎重に検討しましょう。

③ 物件の情報収集

希望条件が固まったら、いよいよ物件の情報収集を開始します。主な方法は後述する「オフィス専門の不動産ポータルサイト」と「不動産仲介会社への相談」の2つです。

この段階では、できるだけ多くの情報を集め、市場の相場感を掴むことが目的です。ポータルサイトで大まかなエリアの賃料相場を把握しつつ、仲介会社には非公開物件を含めたプロの視点での提案を依頼するなど、両者をうまく使い分けるのがおすすめです。

④ 物件の絞り込みと比較検討

収集した多数の物件情報の中から、②で整理した希望条件(特にMUST条件)を基に、候補となる物件を5〜10件程度に絞り込みます。

絞り込んだ物件については、比較検討シートを作成して客観的に評価しましょう。シートには、物件名、所在地、面積、賃料、敷金、最寄り駅からの距離、築年数、設備(空調、セキュリティ、エレベーター数など)といった項目を並べ、各物件のスペックを一覧できるようにします。これにより、各物件の長所・短所が可視化され、内覧する物件の優先順位をつけやすくなります。

⑤ 物件の内覧(内見)

書類上では魅力的に見えても、実際の雰囲気や使い勝手は現地に行かなければ分かりません。絞り込んだ物件は必ず内覧しましょう。

内覧は、単に部屋の広さや形を見るだけではありません。後述する「内覧時チェックリスト」を用意し、複数の視点で細かく確認することが重要です。

  • 専有部分: 天井高、柱の位置と数、窓の大きさ・方角、コンセントの位置・数、床の耐荷重、携帯電話の電波状況など。
  • 共用部分: エントランスの雰囲気、エレベーターの数・速度・混雑具合、トイレの清潔さ・数(男女別か)、給湯室の設備など。
  • 建物全体: セキュリティシステム、空調方式(個別空調かセントラル空調か)、駐車場・駐輪場の有無、管理状態(清掃が行き届いているか)。
  • 周辺環境: 最寄り駅からの実際の道のり(坂道や信号の有無)、昼食を取れる飲食店の数、銀行・郵便局・コンビニの場所、周辺の騒音や雰囲気。

できれば、時間帯(朝の通勤時間帯、昼休み、夜間)や曜日を変えて複数回訪れると、よりリアルな状況を把握できます。

⑥ 入居の申し込みと審査

内覧を経て、入居したい物件が決まったら、貸主(オーナー)に対して「入居申込書(または賃貸借申込書)」を提出します。これは、「この条件でこの物件を借りたい」という意思表示であり、契約そのものではありません。

申し込みと同時に、貸主による入居審査が行われます。審査では、主に企業の信用力や支払い能力がチェックされます。一般的に以下の書類の提出を求められます。

  • 会社登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
  • 会社概要・パンフレット
  • 決算報告書(通常2〜3期分)
  • 代表者の身分証明書・連帯保証人の関連書類(必要な場合)

特に設立間もないスタートアップやベンチャー企業の場合、財務的な信用力が低く見られがちで、審査が厳しくなることがあります。事業計画書や代表者の経歴書などを追加で提出し、事業の将来性をアピールすることが有効な場合もあります。審査期間は通常1〜2週間程度です。

⑦ 契約条件の交渉

審査に通過すると、いよいよ具体的な契約条件の交渉に入ります。貸主から提示された条件をそのまま受け入れるのではなく、自社にとってより有利な条件になるよう交渉を試みることが重要です。交渉は、申し込みと並行して行うこともあります。

交渉の余地がある主な項目は以下の通りです。

  • 賃料: 大幅な減額は難しい場合が多いですが、端数のカットや若干の減額に応じてくれる可能性はあります。
  • フリーレント: 入居後、一定期間(例:1〜3ヶ月)の賃料が無料になる特典です。内装工事期間中の賃料負担を軽減できるため、積極的に交渉したい項目です。
  • 敷金・保証金: 賃料の減額が難しい場合でも、敷金の減額(例:10ヶ月分→8ヶ月分)には応じてもらえるケースがあります。
  • その他: 契約開始日の調整、更新料の有無、看板設置の許可など。

交渉は、不動産仲介会社を通じて行うのが一般的です。市場の動向や周辺の類似物件の条件などを引き合いに出し、論理的な根拠をもって交渉することが成功のポイントです。

⑧ 重要事項説明と賃貸借契約の締結

交渉がまとまり、双方が条件に合意したら、契約手続きに進みます。契約締結の前に、宅地建物取引業法に基づき、不動産仲介会社の宅地建物取引士から「重要事項説明」を受けます。

これは、物件の権利関係、法令上の制限、契約内容など、契約に関する重要な事柄を書面(重要事項説明書)で説明するものです。専門用語が多く難しい内容ですが、後のトラブルを防ぐために非常に重要です。不明な点があれば、その場で納得できるまで質問しましょう。

重要事項説明の内容に問題がなければ、「建物賃貸借契約書」に署名・捺印し、契約を締結します。同時に、敷金や前家賃、仲介手数料などの初期費用を支払います。

⑨ 入居準備(内装工事・インフラ整備など)

契約締結から実際の入居日までの期間は、オフィスを稼働させるための準備期間です。やるべきことが多岐にわたるため、計画的に進める必要があります。

  • 内装・レイアウト設計: オフィスのコンセプトに基づき、執務スペース、会議室、リフレッシュスペースなどのレイアウトを決定し、内装工事の設計・施工を業者に発注します。
  • インフラ整備: 電話回線、インターネット回線、社内LANなどの敷設工事を手配します。回線の引き込みには時間がかかる場合があるため、早めに申し込みましょう。
  • オフィス家具・OA機器の手配: デスク、椅子、キャビネット、複合機、PCなどの選定・発注を行います。納期を確認し、引っ越し日に間に合うように手配します。
  • 引っ越し業者の選定: 複数の業者から見積もりを取り、サービス内容とコストを比較して依頼先を決定します。

特に内装工事は、貸主側が行う「B工事」と借主側が行う「C工事」の区分があり、費用負担や業者選定のルールが複雑です。事前に貸主やビル管理会社と十分に協議する必要があります。

⑩ 各種届出とオフィス移転

最後に、行政手続きと実際の引っ越し作業を行います。

  • 各種届出:
    • 法務局:本店移転登記(管轄が変更になる場合は手続きが複雑になります)
    • 税務署、都道府県税事務所、市町村役場:異動届の提出
    • 年金事務所、労働基準監督署、ハローワーク:社会保険・労働保険に関する所在地変更の届出
    • その他:警察署(許認可事業の場合)、消防署、郵便局(転居届)など
  • オフィス移転(引っ越し): 事前に作成したスケジュールに基づき、荷物の梱包・搬出・搬入を行います。従業員への周知や取引先への移転案内も忘れずに行いましょう。

これらのステップをすべて完了し、新しいオフィスでの業務がスタートします。

オフィスビル賃貸の情報収集方法

理想のオフィスを見つけるためには、まず質の高い情報を効率的に収集することが不可欠です。主な情報収集の方法として、「不動産ポータルサイト」の活用と「不動産仲介会社」への相談が挙げられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、両者を組み合わせることで、より網羅的で効果的な物件探しが可能になります。

オフィス専門の不動産ポータルサイトで探す

インターネット上には、事業用不動産に特化したポータルサイトが数多く存在します。これらのサイトは、オフィス探しを始める際の第一歩として非常に有効です。

メリット

  • 手軽さと網羅性: 24時間いつでも、PCやスマートフォンから膨大な数の物件情報を閲覧できます。エリアや面積、賃料などの条件で絞り込み検索ができるため、希望条件に合う物件を効率的にリストアップできます。
  • 相場感の把握: 多くの物件情報に触れることで、「このエリアでこの広さなら、賃料は大体このくらい」という市場の相場感を養うことができます。これは、後の仲介会社とのやり取りや賃料交渉において重要な判断基準となります。
  • 匿名性: 自分のペースで、誰にも気兼ねなく情報を集められます。まだ移転が確定していない初期段階で、とりあえず市場調査をしたい場合に便利です。

デメリット

  • 情報の鮮度: 人気物件はすぐに申し込みが入ってしまうため、サイト上の情報が最新でない場合があります。「募集中」と表示されていても、実際にはすでに契約済みというケースも少なくありません。
  • 非公開物件の不在: 市場に出回るオフィス物件の中には、貸主の意向などにより、一般のポータルサイトには掲載されない「非公開物件」が存在します。 ポータルサイトだけでは、こうした希少価値の高い物件に出会うことはできません。
  • 情報の質: 掲載されている情報が限定的で、物件の真の魅力や注意点が分かりにくいことがあります。例えば、写真の見栄えは良くても、実際の内覧で判明する問題点(騒音、悪臭、設備の老朽化など)はサイトからは読み取れません。
  • 自己判断の難しさ: 膨大な選択肢の中から、自社の複雑な要件に本当にマッチする物件を自力で見つけ出すのは困難な作業です。専門的な知見がないと、重要な判断を見誤るリスクがあります。

ポータルサイトは、あくまでも初期の情報収集と市場の相場感を掴むためのツールと位置づけ、本格的な物件選定は次のステップである仲介会社との連携を視野に入れるのが賢明です。

不動産仲介会社に相談する

オフィス専門の不動産仲介会社は、物件探しから契約、入居までをトータルでサポートしてくれる心強いパートナーです。特に、移転プロジェクトに多くのリソースを割けない企業にとっては、不可欠な存在と言えるでしょう。

メリット

  • 非公開物件へのアクセス: 仲介会社は、独自のネットワークを通じて、ポータルサイトには掲載されていない「非公開物件」や「未公開物件(これから募集が開始される予定の物件)」の情報を多数保有しています。これらの物件は、条件が良いことが多く、理想のオフィスに出会える確率が格段に高まります。
  • 専門的な提案力: 経験豊富なエージェントが、企業の移転目的や事業戦略、働き方のビジョンなどをヒアリングした上で、プロの視点から最適な物件を提案してくれます。自社では気づかなかったような新しいエリアや物件の選択肢を示してくれることもあります。
  • 交渉の代行: 賃料やフリーレント、その他の契約条件に関する貸主との面倒な交渉をすべて代行してくれます。市場のデータを基に論理的な交渉を進めるため、個人で交渉するよりも有利な条件を引き出せる可能性が高まります。
  • 時間と手間の削減: 物件情報の収集、候補物件のリストアップ、内覧の手配、契約書類の確認など、煩雑な業務をすべて任せられるため、担当者は本来の業務に集中できます。
  • 関連業者との連携: 内装工事業者、引っ越し業者、通信インフラ業者など、移転に伴い必要となる様々な専門業者を紹介してもらえることもあり、ワンストップでのサポートが期待できます。

デメリット

  • 担当者との相性: 仲介会社のサービス品質は、担当するエージェントのスキルや経験、人柄に大きく左右されます。レスポンスが遅い、提案が的外れなど、相性が合わない場合は、担当者の変更を依頼するか、別の会社を探す必要があります。
  • 物件の偏り: 仲介会社によっては、自社が貸主側から依頼を受けている物件(管理物件)を優先的に紹介してくる場合があります。常に客観的な立場で、借主の利益を最優先に考えてくれる会社を選ぶことが重要です。

ポータルサイトと仲介会社の比較

比較項目 オフィス専門の不動産ポータルサイト 不動産仲介会社
情報の種類 公開物件のみ 公開物件 + 非公開・未公開物件
提案の質 なし(自己判断) 専門家による個別提案
交渉力 なし(自己交渉) プロによる交渉代行
手間・時間 かかる 大幅に削減できる
サポート範囲 物件情報の提供のみ 物件探しから入居までトータルサポート
おすすめの利用シーン 移転の初期検討、市場の相場感把握 本格的な物件探し、有利な条件での契約

結論として、まずはポータルサイトで大まかな方向性を定め、その後、信頼できる不動産仲介会社に相談して具体的な物件選定を進めるというハイブリッドなアプローチが、最も効率的かつ成功確率の高い情報収集方法と言えるでしょう。

おすすめのオフィス専門不動産ポータルサイト3選

オフィス探しを始めるにあたり、どのポータルサイトを使えば良いか迷う方も多いでしょう。ここでは、それぞれに特徴のある代表的なオフィス専門不動産ポータルサイトを3つご紹介します。これらのサイトは、ファクト情報に基づき、多くの企業に利用されている実績があります。

① officee(オフィシー)

officee(オフィシー)は、47株式会社が運営する、オフィス仲介に特化したポータルサイトです。特にスタートアップから中堅企業まで、幅広い層に支持されています。

  • 最大の特徴:「仲介手数料無料」
    officeeの最も際立った特徴は、原則として借主(テナント)側の仲介手数料が無料である点です。通常、賃料の1ヶ月分(+消費税)が必要となる仲介手数料が不要になるため、初期費用を大幅に削減できます。これは、貸主(オーナー)側から手数料を得るビジネスモデルによって実現されています。
    参照:officee公式サイト
  • 豊富な物件情報と検索機能
    全国の主要都市を中心に、常時数万件以上の豊富な物件情報を掲載しています。サイトのUI/UXも洗練されており、「フリーレント付き」「居抜き」「新築」といったこだわり条件での検索や、地図からの直感的な検索が可能です。各物件ページには、写真や詳細なスペックだけでなく、360°パノラマビューが用意されている場合もあり、オンライン上でもある程度の内覧体験ができます。
  • 専門家によるサポート
    サイトからの問い合わせ後、経験豊富な専門のコンサルタントが物件探しをサポートしてくれます。単なる物件紹介だけでなく、希望条件のヒアリングから内覧の手配、条件交渉、契約まで、一貫したサポートを受けられます。手数料無料でありながら、手厚い仲介サービスが受けられる点が大きな魅力です。
  • こんな企業におすすめ
    • 初期費用を少しでも抑えたいスタートアップやベンチャー企業
    • 初めてオフィス移転を行うため、手厚いサポートを希望する企業
    • Webサイトで効率的に情報収集しつつ、プロの意見も聞きたい企業

② CBRE(シービーアールイー)

CBRE(シービーアールイー)は、米国に本拠を置く世界最大級の事業用不動産サービス会社です。その日本法人が運営するポータルサイトは、特に大規模オフィスや専門的な知見を求める企業に適しています。

  • 最大の特徴:グローバルな知見とデータ分析力
    CBREは、事業用不動産に関する世界中の膨大なデータを保有しており、市場動向分析やリサーチレポートの質が非常に高いことで知られています。サイト上でも、空室率や賃料相場の推移といった詳細なマーケットデータが公開されており、データに基づいた戦略的な意思決定をサポートします。
    参照:CBRE公式サイト
  • 大規模・ハイグレード物件に強み
    世界的なネットワークを活かし、国内外の大企業や外資系企業を主なクライアントとしています。そのため、都心部の大型ビルやハイグレードなオフィスビルの情報に強みを持っています。数百坪以上の大規模な移転や、企業のブランドイメージを左右するような旗艦となるオフィスの選定において、その真価を発揮します。
  • 総合的な不動産ソリューション
    単なる物件仲介にとどまらず、オフィス戦略のコンサルティング、プロジェクトマネジメント(内装工事の管理など)、不動産価値の評価、プロパティマネジメント(ビル管理)など、企業不動産に関するあらゆるサービスをワンストップで提供しています。
  • こんな企業におすすめ
    • 数百坪以上の大規模なオフィス移転を計画している大企業
    • 外資系企業や、グローバル基準のオフィスを求める企業
    • 詳細な市場データや分析に基づいた、戦略的な移転を行いたい企業

③ アットホーム

アットホームは、住居用不動産ポータルサイトとして非常に高い知名度を誇りますが、事業用不動産の専門サイトも運営しています。全国の不動産会社が加盟するネットワークが最大の強みです。

  • 最大の特徴:全国を網羅する圧倒的な情報ネットワーク
    アットホームの強みは、なんといっても全国6万店以上(2024年4月1日時点)の加盟店が形成する広範な不動産情報ネットワークです。これにより、都心部だけでなく、地方都市や郊外の物件情報も豊富に掲載されています。
    参照:アットホーム株式会社 会社案内
  • 中小規模の物件も多数掲載
    大手専門サイトでは見つけにくい、中小規模のビルや雑居ビル、ロードサイドの店舗兼事務所など、多様な種類の物件情報がカバーされています。地域に密着した不動産会社ならではの、掘り出し物物件が見つかる可能性もあります。
  • 使い慣れたインターフェース
    多くの人が住居探しで利用した経験があるため、サイトの操作性に馴染みやすく、直感的に物件を探しやすいというメリットがあります。検索機能も充実しており、細かい条件設定が可能です。
  • こんな企業におすすめ
    • 地方都市や郊外でオフィスを探している企業
    • 小規模なオフィスや、店舗兼事務所などを探している企業
    • 幅広い選択肢の中から、多様なタイプの物件を比較検討したい企業

3サイトの比較まとめ

サイト名 特徴 強み おすすめの企業
officee 仲介手数料が原則無料 初期コスト削減、手厚いサポート スタートアップ、ベンチャー企業、初めての移転
CBRE グローバルなデータと分析力 大規模・ハイグレード物件、戦略的コンサルティング 大企業、外資系企業、データ重視の企業
アットホーム 全国の不動産加盟店ネットワーク 地方・郊外物件、多様な物件タイプ 地方でのオフィス探し、小規模オフィス探し

これらのサイトを目的や自社の状況に応じて使い分けることで、情報収集の質と効率を大きく向上させることができます。

理想のオフィスビルを見つけるための4つのポイント

スケジュールには余裕を持つ、希望条件に優先順位をつける、信頼できる不動産仲介会社を選ぶ、内覧時にはチェックリストを用意する

オフィス探しは、情報収集や内覧をただ闇雲に行うだけでは成功しません。限られた時間とリソースの中で、自社にとって本当に価値のある「理想のオフィス」を見つけ出すためには、いくつかの重要な心構えと戦略が必要です。ここでは、そのための4つのポイントを解説します。

① スケジュールには余裕を持つ

オフィス移転において、最も陥りやすい失敗の一つがスケジュールの遅延です。多くの担当者が、住居用の引っ越しの感覚でスケジュールを立ててしまいがちですが、前述の通り、オフィス移転は遥かに多くのステップと時間を要する複雑なプロジェクトです。

  • なぜ余裕が必要か?
    • 物件探しの長期化: 希望条件に100%合致する物件は稀です。複数の物件を比較検討し、意思決定するのには時間がかかります。
    • 交渉期間: 賃料やフリーレントなどの条件交渉は、貸主との間で複数回のやり取りが発生し、数週間かかることもあります。
    • 内装工事期間: 契約後、レイアウト設計から工事完了までには、規模にもよりますが2〜4ヶ月以上かかるのが一般的です。特にB工事(貸主指定の業者で行う工事)が含まれる場合は、調整に時間がかかる傾向があります。
    • インフラ手配: インターネット回線の引き込み工事は、申し込みから開通まで1ヶ月以上かかるケースもあります。
    • 既存オフィスの解約予告: 現在のオフィスの解約予告期間(多くは6ヶ月前)を考慮する必要があります。この期間内に次の移転先を決め、準備を完了させなければ、二重家賃が発生したり、最悪の場合、行き場を失う「オフィス難民」になったりするリスクがあります。
  • 理想的なスケジュール感
    一般的に、オフィス移転を考え始めたら、希望入居日の最低でも6ヶ月前、できれば1年前から準備を開始するのが理想です。
フェーズ 期間の目安
① 計画立案・条件整理 移転の12ヶ月~8ヶ月前
② 情報収集・物件選定 移転の8ヶ月~6ヶ月前
③ 申込・交渉・契約締結 移転の6ヶ月~5ヶ月前
④ 内装設計・工事・インフラ手配 移転の5ヶ月~1ヶ月前
⑤ 各種届出・引っ越し 移転の1ヶ月前~当日

「まだ半年以上あるから大丈夫」と油断せず、常に前倒しで行動することが、予期せぬトラブルを回避し、プロジェクトを円滑に進めるための鍵となります。

② 希望条件に優先順位をつける

オフィス探しを進めていくと、「立地は最高だが賃料が高い」「広さは十分だが建物が古い」といった、一長一短のある物件に必ず直面します。すべての希望を叶える完璧な物件は存在しないという現実を受け入れ、何を取り、何を諦めるのかを冷静に判断するために、希望条件の優先順位付けが不可欠です。

  • 合意形成の重要性
    優先順位は、プロジェクト担当者だけでなく、経営層や各部門の責任者を含めた関係者全員で共有し、合意形成を図る必要があります。後になって「なぜこの物件にしたのか」と異論が出ないよう、意思決定のプロセスを明確にしておくことが重要です。
  • 優先順位付けのフレームワーク
    「賃貸オフィス契約・入居までの10ステップ」の章で触れた「MUST/WANT/NICE TO HAVE」の分類は非常に有効です。

    • MUST(絶対条件): 事業継続に不可欠な要素(例:予算上限、最低必要面積、入居時期)
    • WANT(重要条件): 企業の成長や従業員満足度に大きく貢献する要素(例:特定の駅からのアクセス、会議室の数、ハイグレードなビル)
    • NICE TO HAVE(付加価値条件): あれば嬉しいが、なくても代替案がある要素(例:眺望、リフレッシュスペースのデザイン性)

このフレームワークに沿って条件を整理することで、物件を比較評価する際の客観的な基準ができます。例えば、「WANT条件を2つ満たしていても、MUST条件の予算をオーバーしている物件は候補から外す」といった合理的な判断が可能になります。トレードオフを恐れず、戦略的な取捨選択を行う勇気が、最終的に満足度の高いオフィス選びにつながります。

③ 信頼できる不動産仲介会社を選ぶ

オフィス移転の成否は、パートナーとなる不動産仲介会社の実力に大きく左右されます。良い仲介会社は、単なる物件紹介屋ではなく、企業の経営課題にまで踏み込み、最適なソリューションを提案してくれる戦略的パートナーとなり得ます。

  • 良い仲介会社・担当者の見極め方
    • レスポンスの速さと正確さ: 問い合わせや質問への対応が迅速かつ丁寧か。
    • ヒアリング能力: 企業の事業内容や移転の背景、将来のビジョンまで深く理解しようと努めてくれるか。
    • 提案の質: 希望条件を鵜呑みにするだけでなく、プロの視点から別の選択肢や潜在的なリスクも提示してくれるか。
    • 専門知識: オフィス市場の動向、法規制、契約実務に関する深い知識を持っているか。
    • 誠実さ: 物件のメリットだけでなく、デメリットや注意点についても正直に伝えてくれるか
    • 交渉力: 貸主との交渉において、論理的かつ粘り強く、借主の利益を最大化しようと努力してくれるか。
  • 複数の会社とコンタクトを取る
    最初から1社に絞らず、2〜3社の仲介会社にコンタクトを取り、それぞれの提案内容や担当者の対応を比較検討することをお勧めします。これにより、各社の強みや特徴が分かり、自社と最も相性の良いパートナーを見つけやすくなります。ただし、最終的に依頼する会社を決めたら、正直にその旨を伝え、1社に絞って誠実な関係を築くことが、より良いサポートを引き出すためのマナーです。

④ 内覧時にはチェックリストを用意する

内覧は、物件を五感で評価する唯一の機会です。限られた時間の中で効率的かつ網羅的にチェックするために、事前にチェックリストを作成し、持参しましょう。舞い上がってしまい、重要な点を見落とすのを防ぐことができます。

  • チェックリストの項目例
    • 【基本情報】: メジャー、方位磁石、カメラ(スマートフォンの機能で可)を持参。
    • 【専有部】
      • 広さ・形状: 想定レイアウトが実現可能か?デッドスペースは多くないか?
      • 天井高: 圧迫感はないか?(一般的に2.6m以上が快適とされる)
      • : 柱の位置や太さは執務スペースの妨げにならないか?
      • 窓・採光: 窓の数、大きさ、方角は?自然光は十分に入るか?
      • コンセント・電源: 位置と数は十分か?電源容量は足りるか?
      • 空調: 個別空調かセントラル空調か?効き具合や調整の自由度は?
      • : OAフロアか?床の耐荷重は?(サーバールームなどを置く場合に重要)
      • 電波状況: 各キャリアの携帯電話の電波は問題なく入るか?
    • 【共用部】
      • エントランス: 清潔で明るいか?企業の顔としてふさわしいか?
      • エレベーター: 台数、待ち時間、サイズは十分か?(朝の混雑時を想定)
      • トイレ: 清潔か?個室の数は十分か?男女別になっているか?
      • 給湯室: 設備は整っているか?
      • セキュリティ: 入退館管理システムは?夜間や休日のセキュリティは?
    • 【周辺環境】
      • 駅からのアクセス: 実際の徒歩時間は?坂道や信号の多さは?
      • ランチ環境: 周辺に飲食店やコンビニは充実しているか?
      • 利便施設: 銀行、郵便局、役所などは近くにあるか?
      • 周辺の雰囲気: 騒音、振動、匂いなどはないか?治安は良いか?

プロジェクトメンバー複数名で役割分担しながらチェックすると、より多角的な視点で評価できます。内覧で感じた「何となくの違和感」は、後々大きな問題になる可能性があるため、些細なことでも記録し、仲介会社に確認することが重要です。

オフィスビル賃貸にかかる費用の内訳

オフィス移転は、多額の資金を必要とする一大プロジェクトです。予算計画を正確に立てるためには、どのような費用が、どのタイミングで発生するのかを正確に把握しておく必要があります。ここでは、オフィスビル賃貸にかかる費用を「初期費用」「移転関連費用」「ランニングコスト」「退去時費用」の4つに分けて、その内訳と相場を詳しく解説します。

契約時に必要な初期費用

物件の賃貸借契約を締結する際に、まとめて支払う必要がある費用です。一般的に、月額賃料の6〜12ヶ月分程度が目安となり、高額になるため、十分な資金準備が必要です。

費用項目 内容と相場
敷金・保証金 賃料の6~12ヶ月分。賃料の支払いが滞った際の担保や、退去時の原状回復費用に充当される。
礼金 貸主への謝礼金。賃料の0~2ヶ月分。近年は礼金なしの物件も増えている。
仲介手数料 不動産仲介会社に支払う成功報酬。賃料の1ヶ月分 + 消費税が上限。
前家賃 契約開始月の賃料。月の途中で入居する場合は日割り計算される。賃料の1ヶ月分
火災保険料 火災や水漏れなどの損害に備える保険。加入が義務付けられていることが多い。年額2~5万円程度
保証委託料 保証会社を利用する場合の費用。連帯保証人がいない場合などに必要。月額総賃料の50~100%程度

敷金・保証金

初期費用の中で最も大きな割合を占めるのが敷金・保証金です。 これは、家賃滞納や物件の損傷に備えて貸主に預ける担保金であり、法律上の明確な区別はありませんが、関東では「敷金」、関西では「保証金」と呼ばれることが多いです。相場は月額賃料の6ヶ月分から、都心部のハイグレードビルでは12ヶ月分に達することもあります。退去時に原状回復費用などを差し引いて返還されますが、「償却」という特約が付いている場合、返還されない割合(例:保証金の20%を償却)が定められていることもあるため、契約内容の確認が必須です。

礼金

貸主に対して支払う謝礼金で、返還されることはありません。相場は月額賃料の0〜2ヶ月分で、近年は競争力向上のために礼金を設定しない物件も増えています。

仲介手数料

物件を紹介・仲介してくれた不動産会社に支払う手数料です。宅地建物取引業法により、賃料の1ヶ月分+消費税が上限と定められています。前述の「officee」のように、借主側の仲介手数料を無料にしているサービスもあります。

前家賃(初月賃料)

入居する月の賃料を契約時に前払いで支払います。月の途中から入居する場合は、日割り計算された賃料と、翌月分の賃料を合わせて請求されることが一般的です。

火災保険料

万が一の火災や漏水事故に備えるための損害保険料です。ほとんどの賃貸借契約で加入が義務付けられています。企業の賠償責任をカバーする保険も含まれているか確認しましょう。

保証委託料

連帯保証人の代わりとして、保証会社の利用を義務付けている物件が増えています。その際に支払うのが保証委託料で、初回に月額総賃料(賃料+共益費)の50%〜100%程度、以降は年間の更新料がかかるのが一般的です。

オフィス移転関連の費用

賃貸借契約の初期費用とは別に、オフィスを機能させるために必要となる費用です。これらを見落とすと、全体の予算が大幅に狂う可能性があるため注意が必要です。

内装・レイアウト工事費用

新しいオフィスを自社の働き方に合わせて構築するための費用です。会議室の設置、エントランスのデザイン、電源やLANの配線工事などが含まれます。費用は工事内容によって大きく変動しますが、坪単価10万円〜50万円以上と幅広く、デザインに凝るほど高額になります。また、工事はA・B・Cの3つに区分され、借主が負担するのは主に「C工事」(借主が発注し、全額を負担する工事)です。

オフィス家具・什器の購入費用

デスク、チェア、キャビネット、会議テーブル、パーテーションなどの購入費用です。新品だけでなく、中古品やリースを利用することでコストを抑える選択肢もあります。従業員数やレイアウトによって費用は大きく変わります。

引っ越し費用

旧オフィスから新オフィスへ、荷物を運搬するための費用です。荷物の量、移動距離、引っ越し時期(繁忙期は高くなる)、精密機器の有無などによって変動します。複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」が基本です。

入居後に必要な月額費用(ランニングコスト)

オフィスの運営を継続していく上で、毎月発生する費用です。

賃料

契約書で定められた月々の使用料です。事業用物件の賃料には消費税が課税されることを忘れてはいけません。

共益費(管理費)

エントランス、廊下、エレベーター、トイレといった共用部分の清掃、維持管理、警備などにかかる費用です。賃料とは別に設定されていることが多く、これも消費税の課税対象となります。

水道光熱費・通信費

電気、水道、ガス(給湯室などで使用する場合)の料金です。特に電気代は、ビルの空調が個別空調かセントラル空調かによって大きく異なります。 セントラル空調は基本料金が高く、稼働時間が決められている場合があるため注意が必要です。その他、インターネット回線や電話の利用料金も毎月発生します。

退去時に必要な費用

契約が終了し、オフィスを退去する際にも費用が発生します。

原状回復費用

退去時に最もトラブルになりやすいのが原状回復費用です。 これは、入居後に設置した内装や設備を撤去し、借りた時点の状態に戻すための工事費用を指します。どこまでの回復を求められるかは契約書の「原状回復義務」の条項によって定められており、場合によっては内装をすべて解体する「スケルトン返し」を求められることもあります。相場は坪単価5万円〜15万円程度と高額になる可能性があるため、契約時にその範囲を明確に確認しておくことが極めて重要です。

契約前に確認すべき4つの注意点

契約形態(普通借家契約と定期借家契約)の違い、原状回復義務の範囲、解約予告期間と更新条件、契約書の条項は隅々まで確認する

オフィスビルの賃貸借契約は、長期間にわたり企業の財務や事業活動に影響を与える重要な法的行為です。契約書に安易に署名・捺印してしまうと、後から「知らなかった」では済まされない事態に陥る可能性があります。ここでは、契約締結前に必ず確認すべき4つの重要な注意点を解説します。

① 契約形態(普通借家契約と定期借家契約)の違い

オフィス賃貸の契約形態には、主に「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。この違いは、契約の更新に関する権利にあり、事業の継続性に直結するため、契約書を確認する上で最も重要なポイントの一つです。

  • 普通借家契約 (普通建物賃貸借契約)
    • 特徴: 契約期間は通常2年間で設定されますが、期間満了時に借主が更新を希望すれば、貸主は正当な事由がない限り更新を拒絶できません。
    • メリット (借主側): 事業を継続する限り、半永久的にその場所でオフィスを構えることができ、安定した事業運営が可能です。借主の権利が強く保護されています。
    • デメリット (借主側): 貸主側からすると、一度貸すと簡単には立ち退きを求められないため、賃料相場が上昇しても賃料の改定がしにくいなどのデメリットがあり、人気エリアの新規募集では減少傾向にあります。
  • 定期借家契約 (定期建物賃貸借契約)
    • 特徴: 契約であらかじめ定められた期間の満了をもって、更新されることなく確定的に契約が終了します。
    • メリット (借主側): 期間が定められている分、普通借家契約よりも賃料が割安に設定されている場合があります。期間限定のプロジェクトオフィスなど、利用期間が決まっている場合には適しています。
    • デメリット (借主側): 契約期間が満了すれば、原則として退去しなければなりません。 たとえ事業が好調でその場所での継続を希望しても、貸主が再契約に合意しなければ移転を余儀なくされます。再契約が可能であっても、その際の条件(賃料など)は新たに交渉することになります。

どちらの契約形態であるかは、契約書の表題や条項に明記されています。 自社の事業計画と照らし合わせ、長期的な視点でどちらが適しているかを慎重に判断する必要があります。特に、長期的な事業拠点としてオフィスを構えたい場合は、定期借家契約のリスクを十分に理解した上で契約に臨むことが不可欠です。

② 原状回復義務の範囲

原状回復は、オフィス退去時の費用負担に直結し、貸主と借主の間で最もトラブルになりやすい項目です。 契約書に記載されている「原状回復義務」の条項は、一言一句 внимательно(注意深く)確認しなければなりません。

  • 「原状回復」の誤解
    原状回復とは、「入居時と全く同じ新品の状態に戻すこと」ではありません。住居用賃貸の場合、国土交通省のガイドラインでは「借主の故意・過失による損傷は借主負担、経年劣化や通常の使用による損耗(通常損耗)は貸主負担」とされています。
  • オフィス賃貸における特約の重要性
    しかし、オフィスビル賃貸では、このガイドラインは必ずしも適用されません。 契約書の特約によって、「通常損耗も借主の負担とする」といった、借主にとって不利な内容が定められているケースが非常に多いのが実情です。
  • 確認すべきポイント
    • 原状回復の定義: 契約書上の「原状回復」が具体的にどの状態を指すのか(例:「入居時の状態」「スケルトン(建物の躯体のみ)の状態」)。
    • 負担範囲: 通常損耗や経年劣化はどちらの負担になるのか。
    • 工事事業者の指定: 原状回復工事を行う業者が貸主によって指定されているか(B工事扱い)。指定業者の場合、工事費用が相場より高くなる傾向があります。
    • クリーニング費用: 特約として、特定のクリーニング費用が借主負担とされていないか。

契約前に、原状回復の範囲と想定される費用について、不動産仲介会社を通じて貸主側へ具体的に確認し、可能であれば文書で回答を得ておくことが、将来的な紛争を防ぐための最善策です。

③ 解約予告期間と更新条件

事業環境の変化に柔軟に対応するためには、契約の終了に関する条件を正確に把握しておく必要があります。

  • 解約予告期間: 契約期間の途中で解約する場合、何ヶ月前に貸主に通知しなければならないかを定めた期間です。オフィス賃貸では一般的に6ヶ月前と設定されていることが多いです。この期間が長いと、急な事業縮小や移転の際に、移転後も旧オフィスの賃料を払い続けなければならない「二重家賃」のリスクが高まります。
  • 中途解約条項と違約金: 契約期間内に解約すること自体が認められていない契約や、中途解約を認める代わりに違約金(ペナルティ)の支払いを定めている契約があります。違約金は「残存期間の賃料相当額」など高額になる場合があるため、必ず確認しましょう。
  • 更新条件(普通借家契約の場合): 契約を更新する際の条件も重要です。
    • 更新料: 更新時に貸主へ支払う費用。相場は新賃料の1ヶ月分程度ですが、無い場合もあります。
    • 更新事務手数料: 更新手続きの事務費用として不動産会社に支払う費用。
    • 賃料の改定: 更新時に賃料が見直される可能性があるか、その際の協議方法はどうなっているか。

これらの条件は、企業の出口戦略や将来の移転計画の柔軟性に直接影響します。

④ 契約書の条項は隅々まで確認する

賃貸借契約書は、専門用語や細かい規定が多いため、すべてを読み解くのは骨の折れる作業ですが、自社の権利と義務を規定する最も重要な書類です。以下の点にも注意して、隅々まで目を通しましょう。

  • 用途制限: 「事務所(オフィス)」としての利用に限定されているか、店舗や教室など他の用途での利用は可能か。
  • 禁止事項: ビル内での喫煙、看板の設置場所やデザインの制限、共用部の利用ルールなど。
  • 修繕義務の範囲: 物件の設備(空調、給排水設備など)が故障した場合、どちらの責任と費用で修繕するかが定められています。
  • B工事の区分: 内装工事における、貸主と借主の費用負担・業者選定の区分が明確になっているか。
  • 明け渡し猶予: 契約終了後、原状回復工事のために明け渡しまでの猶予期間が設けられているか。

契約書の内容に少しでも疑問や不安な点があれば、決して安易に署名・捺印してはいけません。信頼できる不動産仲介会社に説明を求めるのはもちろん、必要であれば、弁護士などの法律専門家にリーガルチェックを依頼することも検討すべきです。契約前の慎重な確認が、将来にわたる安心なオフィス運営の礎となります。