「おしゃれな部屋に住みたいけれど、新築は家賃が高い」「自分らしいこだわりの空間で暮らしたい」そんな願いを叶える選択肢として、近年「リノベーション賃貸」が注目を集めています。中古物件を現代のライフスタイルに合わせて大規模に改修したリノベーション賃貸は、デザイン性の高さとコストパフォーマンスの良さから、多くの人々の心を掴んでいます。
しかし、その魅力的な側面の裏には、知っておくべきデメリットや注意点も存在します。外観とのギャップや、目に見えない部分の老朽化など、物件選びで失敗しないためには、正しい知識を持つことが不可欠です。
この記事では、リノベーション賃貸の基礎知識から、具体的なメリット・デメリット、自分に合った物件の上手な探し方、そして後悔しないための内見チェックポイントまで、網羅的に解説します。これからリノベーション賃貸への入居を検討している方はもちろん、新しい住まいの形に興味がある方も、ぜひ最後までご覧ください。この記事を読めば、リノベーション賃貸の全体像を深く理解し、理想の住まいを見つけるための確かな一歩を踏み出せるでしょう。
目次
リノベーション賃貸とは
リノベーション賃貸とは、既存の建物(主に中古マンションやアパート)に大規模な工事を行い、建設当初の状態よりも価値や性能を向上させた賃貸物件のことです。古くなった内装や設備をただ新しくするだけでなく、現代のライフスタイルに合わせて間取りを変更したり、デザイン性を高めたりすることで、全く新しい空間へと生まれ変わらせます。
近年、空き家の増加が社会問題となる中で、既存の建物を有効活用するストック型社会への転換が求められています。その中で、リノベーションは古いものに新たな価値を与える持続可能な手法として、国も推進しており、市場は拡大傾向にあります。
この章では、リノベーションと混同されがちな「リフォーム」や「デザイナーズ物件」との違いを明確にし、なぜ今リノベーション賃貸がこれほどまでに人気を集めているのか、その理由を深掘りしていきます。
リフォームとの違い
「リノベーション」と「リフォーム」は、どちらも建物を改修するという点では共通していますが、その目的と工事の規模に大きな違いがあります。端的に言えば、リフォームは「元に戻す(マイナスをゼロに近づける)」、リノベーションは「新たな価値を創造する(ゼロからプラスを生み出す)」というイメージです。
項目 | リフォーム (Reform) | リノベーション (Renovation) |
---|---|---|
目的 | 老朽化した部分を原状回復し、新築時の状態に近づけること。 | 既存の建物に大規模な改修を加え、新たな付加価値を創造すること。 |
工事内容の例 | ・壁紙の張り替え ・古くなったキッチンやユニットバスの交換 ・外壁の塗り直し |
・間取りの変更(壁の撤去・新設) ・配管や配線の刷新 ・断熱材の追加 ・デザイン性の高い内装への変更 |
工事の規模 | 小規模〜中規模 | 大規模 |
コンセプト | 修繕・回復 | 刷新・価値向上 |
リフォームの主な目的は、老朽化や故障、汚れなどが生じた部分を修繕し、マイナスの状態をゼロ(新築時の状態)に戻すことです。例えば、「汚れた壁紙を張り替える」「壊れた給湯器を新しいものに交換する」といった工事がリフォームにあたります。賃貸物件では、入居者が退去した後に行われる原状回復工事の多くが、このリフォームに該当します。あくまで元の状態に戻すことが主眼であり、建物の基本的な性能や間取りが大きく変わることはありません。
一方、リノベーションは、既存の枠組みにとらわれず、より根本的な部分から改修を行います。その目的は、マイナスをゼロに戻すだけでなく、時代のニーズや住む人のライフスタイルに合わせて、新たな価値(プラスα)を付け加えることです。
例えば、細かく仕切られていた3DKの間取りを、壁を取り払って広々とした1LDKに変更したり、古い和室をフローリングの洋室に変え、デザイン性の高いアイランドキッチンを設置したりする工事がリノベーションです。時には、建物の骨格(スケルトン)だけを残して内装や設備をすべて刷新する「フルリノベーション」が行われることもあります。
このように、リフォームが「修繕」に重点を置くのに対し、リノベーションは「刷新」や「価値の再創造」を目指す、より大規模で創造的なアプローチと言えるでしょう。
デザイナーズ物件との違い
「おしゃれな物件」という文脈で、リノベーション賃貸とよく比較されるのが「デザイナーズ物件」です。どちらもデザイン性が高いという共通点がありますが、その成り立ちや特徴には明確な違いがあります。
項目 | デザイナーズ物件 | リノベーション賃貸 |
---|---|---|
建築のタイミング | 新築時から設計されている。 | 中古物件を後から改修している。 |
設計者 | 建築家やデザイナーがコンセプトを持って設計。 | 設計者や施工会社が既存の制約の中で改修。 |
特徴 | ・建物全体(外観、共用部、内装)に統一されたデザインコンセプトがある。 ・独創的な外観や間取りが多い。 |
・内装は非常にデザイン性が高いが、外観や共用部は古いままのことが多い。 ・既存の建物の良さを活かしたデザインが多い。 |
築年数 | 築浅〜新築が多い。 | 築年数が古い物件が中心(築20年以上など)。 |
家賃 | 周辺相場より高い傾向。 | 新築のデザイナーズ物件よりは割安な傾向。 |
デザイナーズ物件とは、建築家やデザイナーが独自のコンセプトに基づいて、新築の段階から設計した建物を指します。最大の特徴は、外観からエントランス、廊下、そして室内の隅々に至るまで、一貫したデザイン思想が行き渡っている点です。コンクリート打ちっ放しの壁、ガラス張りのバスルーム、らせん階段、メゾネットタイプなど、独創的でアーティスティックな空間が多く見られます。建物そのものが一つの作品として作られているため、外観と内装のイメージが統一されているのが一般的です。
それに対して、リノベーション賃貸は、もともとごく普通の間取りだった中古物件を、後から改修してデザイン性を高めたものです。そのため、室内は驚くほどおしゃれに生まれ変わっていても、一歩外に出ると、外観や廊下、階段といった共用部分は築年数相応の古さを感じさせることが少なくありません。この「内と外のギャップ」は、リノベーション賃貸の大きな特徴の一つです。
しかし、見方を変えれば、これは既存の建物の制約の中で、いかに魅力的な空間を創り出すかという知恵と工夫の結晶でもあります。古い梁や柱をあえて見せるデザインにしたり、レトロな雰囲気を活かした内装にしたりと、新築にはない味わいや温かみを感じられるのもリノベーション賃貸ならではの魅力と言えるでしょう。
つまり、ゼロから作品として作り上げられたのがデザイナーズ物件、既存の素材を活かしながら新たな魅力を引き出したのがリノベーション賃貸、と理解すると分かりやすいかもしれません。
リノベーション賃貸が人気の理由
リノベーション賃貸がこれほどまでに支持を集める背景には、いくつかの社会的要因と、人々の価値観の変化があります。
- 新築信仰からの脱却と価値観の多様化
かつての日本では「新しいものが良い」という新築信仰が根強くありましたが、現代ではその価値観が大きく変化しています。欧米のように、古い建物を手入れしながら長く大切に使うという考え方が広まり、築年数の古さよりも、内装のデザイン性や自分らしい暮らしができるかを重視する人が増えました。画一的な間取りの新築物件よりも、個性的なリノベーション空間に魅力を感じる層が厚くなっているのです。 - コストパフォーマンスの高さ
多くの人にとって、住居費は家計の大きな割合を占めます。特に都心部では新築や築浅物件の家賃は高騰し続けています。「きれいでおしゃれな部屋に住みたいけれど、家賃はできるだけ抑えたい」というニーズに対し、リノベーション賃貸は最適な答えの一つとなります。中古物件をベースにしているため、同等の立地・広さの新築物件に比べて家賃が割安に設定されているケースが多く、高いコストパフォーマンスを実現しています。 - ストック型社会への移行と空き家問題
日本では少子高齢化に伴い、空き家の数が増加の一途をたどっています。総務省統計局の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家は約849万戸にものぼり、社会的な課題となっています。このような背景から、新築を建て続けるスクラップ&ビルド型社会から、既存の建物を有効活用するストック型社会への転換が急務とされています。リノベーションは、古い建物に新たな命を吹き込み、住宅ストックを循環させるための重要な手法であり、国や自治体も補助金制度などで後押ししています。この流れが、質の高いリノベーション賃貸物件の供給増加につながっています。 - 選択肢の豊富さ
新築物件は、開発しやすい郊外や特定のエリアに集中しがちです。しかし、リノベーション賃貸は既存の建物を活用するため、都心の一等地や駅近の便利な立地、昔ながらの風情ある街並みの中など、新築ではなかなか見つからないような場所でも物件が見つかる可能性があります。立地やエリアの選択肢が格段に広がることも、大きな魅力となっています。
これらの理由が複合的に絡み合い、リノベーション賃貸は単なる一過性のブームではなく、現代の住まい選びにおける確固たる選択肢として定着しているのです。
リノベーション賃貸に住む4つのメリット
リノベーション賃貸は、賢く選べば非常に満足度の高い住まいとなります。ここでは、多くの人を惹きつける具体的な4つのメリットについて、詳しく解説していきます。これらのメリットを理解することで、自分のライフスタイルや価値観にリノベーション賃貸が合っているかどうかを判断する材料になるでしょう。
① 新築同様にきれいで設備が新しい
リノベーション賃貸の最大の魅力の一つは、中古物件でありながら、内装や水回り設備が新築同然のきれいな状態であることです。築年数が古い物件と聞くと、汚れていたり、設備が古かったりするイメージを持つかもしれませんが、リノベーション賃貸はその常識を覆します。
- 内装の一新
壁紙や床材は全面的に張り替えられているのが基本です。白を基調とした清潔感のある空間はもちろん、無垢材のフローリングやデザイン性の高いアクセントクロス、おしゃれなタイルなどが使われていることも少なくありません。人が住んだ形跡を感じさせない、まっさらな空間で新生活をスタートできるのは、大きな精神的メリットと言えるでしょう。 - 最新の住宅設備
特にキッチン、浴室、トイレといった水回りは、生活の快適さを大きく左右するポイントです。リノベーション物件では、これらの設備が最新モデルに一新されていることが多くあります。- キッチン: システムキッチンが導入され、3口コンロや広いシンク、食洗機付きといった高機能なものも珍しくありません。対面式キッチンやアイランドキッチンに変更され、料理をしながら家族や友人とコミュニケーションが取れる開放的な空間になっていることもあります。
- 浴室: ユニットバスが丸ごと交換され、追い焚き機能や浴室乾燥機が付いているのが当たり前になりつつあります。デザイン性の高いタイルやガラス張りのドアが採用されるなど、リラックスできる空間づくりに力が入れられています。
- トイレ: 温水洗浄便座(ウォシュレット)の設置はもちろん、タンクレストイレですっきりとした空間を演出したり、手洗いカウンターが新設されたりするケースもあります。
このように、日々の暮らしに直結する設備が最新であることは、築古物件のデメリットを補って余りある快適さをもたらします。新築物件と遜色ない、あるいはそれ以上にグレードの高い設備を使える可能性があるのは、リノベーション賃貸ならではの大きな利点です。
② おしゃれでデザイン性の高い物件が多い
画一的な間取りが多い一般的な賃貸物件とは一線を画し、リノベーション賃貸はデザイナーのこだわりや遊び心が詰まった、おしゃれな空間が多いのが特徴です。まるでインテリア雑誌やカフェのような空間で暮らしたい、という願いを叶えてくれます。
- 多様なデザインテイスト
リノベーションでは、様々なデザインコンセプトが採用されます。- インダストリアル: コンクリート打ちっ放しの壁や天井、むき出しの配管、黒いアイアン素材などを組み合わせた、武骨でスタイリッシュなデザイン。
- ナチュラル/カフェ風: 無垢材のフローリングや漆喰の壁、ウッド調の建具など、自然素材をふんだんに使った温かみのある空間。
- モダン: 白やグレーを基調としたシンプルな内装に、ダウンライトや間接照明で洗練された雰囲気を演出したデザイン。
- レトロ: 既存の建物の持つ古い梁や柱、レトロなタイルなどをあえて活かし、ヴィンテージ感のある味わい深い空間に仕上げたデザイン。
- 個性的な間取りと仕様
リノベーションでは、大胆な間取り変更も可能です。例えば、細かく区切られた部屋の壁を取り払い、広大なワンルームにすることで、開放感あふれる空間を創出します。また、室内窓を設置して光と風が通り抜けるようにしたり、ウォークインクローゼットやシューズインクローゼットを新設して収納力を大幅にアップさせたりと、現代のライフスタイルに合わせた機能的かつ個性的な間取りが実現されています。
このようなデザイン性の高さは、単に「見た目が良い」というだけでなく、住む人の創造性を刺激し、日々の暮らしを豊かにしてくれます。自分の好きなインテリアや雑貨が映える空間であれば、家にいる時間そのものが楽しくなるでしょう。自分のこだわりを表現できるキャンバスとして、リノベーション賃貸は非常に魅力的な選択肢です.
③ 相場より家賃が割安な場合がある
「新築同様にきれいで、おしゃれなデザイン」と聞くと、家賃も高いのではないかと思うかもしれません。しかし、リノベーション賃貸は、同条件(立地、広さ、設備グレード)の新築や築浅物件と比較して、家賃が割安に設定されているケースが多くあります。
このコストパフォーマンスの高さが生まれる理由は、リノベーション賃貸が「中古物件」をベースにしている点にあります。日本の不動産市場では、建物の価値は築年数とともに下落していくのが一般的です。そのため、物件の仕入れコスト(またはオーナーが元々所有している物件の評価額)を低く抑えることができます。その分、リノベーションにかかった費用を上乗せしても、新築物件よりは手頃な家賃設定が可能になるのです。
具体的には、以下のようなケースで割安感を享受しやすくなります。
- 同じ駅、同じ広さで比較した場合: 例えば、駅から徒歩5分、広さ40㎡の物件を探す際、新築物件なら家賃15万円のところ、築30年のリノベーション物件なら13万円で見つかる、といった具合です。
- 同じ家賃で比較した場合: 予算が12万円だとしたら、新築物件では駅から遠くなったり、部屋が狭くなったりするかもしれませんが、リノベーション賃貸なら、駅近でより広い、デザイン性の高い部屋が見つかる可能性があります。
もちろん、すべてのリノベーション物件が割安なわけではありません(詳細はデメリットの章で後述します)。しかし、「内装のきれいさやデザイン性」と「手頃な家賃」という、通常は両立しにくい二つの要素を高いレベルで満たす可能性がある点は、リノベーション賃貸を選ぶ非常に大きな動機となります。特に、住居費を抑えつつも、生活の質や空間の快適性には妥協したくないと考える人にとって、これ以上ない選択肢と言えるでしょう。
④ 物件の選択肢が豊富
新築賃貸物件は、まとまった土地が確保できる場所に建てられるため、供給されるエリアが限定されがちです。一方、リノベーション賃貸は、既存のストック(中古物件)を活用するため、様々なエリアで物件を見つけることができます。
- 都心部や駅近など好立地物件の多さ
多くの人が住みたいと願う都心部や主要駅の周辺は、新たに新築マンションを建てる土地がほとんど残っていません。しかし、そうしたエリアには築年数の経った中古マンションやビルが数多く存在します。リノベーションは、これらの物件を再生させる手法であるため、新築ではまず見つからないような、交通の便が良い一等地や、魅力的な商業施設の近くで、おしゃれな部屋を見つけられる可能性が広がります。 - 多様なエリアでの供給
新築物件が集中するニュータウンのような場所だけでなく、昔ながらの商店街が残る風情ある街、閑静な住宅街など、街のキャラクターが豊かなエリアにもリノベーション物件は点在しています。これにより、「住みたい街」の選択肢が格段に増え、自分のライフスタイルや好みに合った場所で、理想の住まいを探すことが可能になります。 - 市場全体の物件数の増加
前述の通り、空き家対策やストック活用という社会的な要請もあり、リノベーション事業に参入する不動産会社やデベロッパーは年々増加しています。それに伴い、リノベーション賃貸物件の供給数も増え続けており、数年前と比べて物件を探しやすくなっているのが現状です。不動産ポータルサイトや専門サイトでも、リノベーション物件の特集が組まれることが多くなり、多様な選択肢の中から比較検討できるようになりました。
このように、立地やエリアの制約が少なく、物件数自体も豊富にあるため、自分の希望条件に合致する「掘り出し物」に出会える確率が高いのも、リノベーション賃貸の大きなメリットです。
知っておきたいリノベーション賃貸の5つのデメリット・注意点
魅力的なメリットが多いリノベーション賃貸ですが、良い面ばかりではありません。契約してから「こんなはずではなかった」と後悔しないために、特有のデメリットや注意点を事前にしっかりと理解しておくことが極めて重要です。ここでは、物件選びの際に必ず念頭に置くべき5つのポイントを解説します。
① 外観や共用部とのギャップがある
リノベーション賃貸で最もよく聞かれるデメリットが、室内の美しさと、外観や共用部の古さとの間に大きなギャップがあることです。リノベーションは基本的に専有部分(室内)のみに行われるため、建物全体が新しくなるわけではありません。
- 外観の古さ
内見のために物件を訪れた際、まず目にするのが建物の外観です。ひび割れた外壁、色褪せた塗装、レトロなデザインの佇まいに、「本当にこの建物であっているのだろうか?」と不安になるかもしれません。室内の写真を見て高い期待を抱いていると、その第一印象との差にがっかりしてしまうことがあります。 - 共用部の老朽化
エントランス、廊下、階段、エレベーター、メールボックス、ゴミ置き場といった共用部は、管理組合やオーナーの判断で大規模修繕が行われない限り、築年数相応の状態のままです。- 薄暗く狭い廊下や階段: 照明が暗かったり、幅が狭かったりすると、日々の通行にストレスを感じるかもしれません。
- 旧式のエレベーター: スピードが遅い、狭い、異音がするなど、最新の設備に慣れていると不便に感じることがあります。物件によってはエレベーター自体がない場合もあります。
- 管理状態の悪さ: ゴミ置き場が整理されていなかったり、廊下に私物が置かれていたりすると、建物の管理体制や住民のマナーに疑問符がつきます。
このギャップは、「室内での快適な生活」を最優先し、外観や共用部は気にしないと割り切れるかどうかが、リノベーション賃貸に満足できるかの分かれ道になります。友人を招いた際に少し恥ずかしいと感じる可能性や、日々の帰宅時に気分が少し沈む可能性も考慮しておく必要があるでしょう。内見の際は、部屋の中だけでなく、建物の外周や共用部を隅々まで自分の目で確認し、許容できる範囲かどうかを冷静に判断することが大切です。
② 間取りやデザインが個性的すぎることも
デザイン性の高さはリノベーション賃貸の魅力ですが、その個性が強すぎると、かえって住みにくさにつながるケースもあります。デザイナーの意匠が優先されるあまり、実用性や汎用性が犠牲になっていることがあるため注意が必要です。
- 家具の配置が難しい
壁が斜めになっていたり、部屋の中央に柱が残されていたり、窓の形が特殊だったりすると、手持ちの家具や一般的なサイズの家具がうまく収まらないことがあります。特に、大型のソファやベッド、収納棚などを置くスペースが限られてしまうと、思い通りのインテリアが実現できず、不便な生活を強いられるかもしれません。内見時には必ずメジャーを持参し、主要な壁面の長さやスペースを実測することが重要です。 - 生活動線が不便
見た目のおしゃれさを重視するあまり、生活動線が考慮されていない間取りもあります。例えば、「寝室を通らないとトイレに行けない」「キッチンとダイニングテーブルを置くスペースが離れすぎている」など、日々の暮らしの中で小さなストレスが積み重なる可能性があります。 - 奇抜すぎるデザイン
ガラス張りのバスルームや、仕切りのないトイレなどは、一人暮らしなら問題なくても、来客時や将来のライフスタイルの変化(同棲、結婚など)に対応できない場合があります。デザインの斬新さだけでなく、それが自分の生活スタイルに本当に合っているのか、長期的な視点で考えることが求められます。
おしゃれな空間に一目惚れしてしまいがちですが、一歩引いて「ここで毎日生活する」という現実的な視点を持つことが大切です。自分のライフスタイルや手持ちの家具と、その個性的なデザインが本当にマッチするのかを冷静にシミュレーションしてみましょう。
③ 見えない部分が古いままの可能性がある
リノベーションは、目に見える内装や設備を美しく刷新しますが、建物の構造に関わる「見えない部分」が古いまま残されている可能性があります。これが、後々のトラブルや住み心地の悪さにつながるケースがあるため、特に注意が必要です。
- 配管・配線
キッチンの給排水管やガス管、壁の中の電気配線などが古いままだと、漏水や詰まり、漏電、電力容量不足といったリスクを抱えることになります。特に古いマンションでは、現代のように多くの電化製品を同時に使うことを想定していないため、電子レンジとドライヤーを同時に使うとブレーカーが落ちる、といった事態も起こり得ます。どこまでの範囲がリノベーションで更新されたのか(表層リノベーションか、配管等も更新したフルリノベーションか)を不動産会社に確認することが重要です。 - 断熱材
壁の中の断熱材が未施工であったり、性能が低いままであったりすると、外気の影響を受けやすくなります。その結果、「夏は暑く、冬は寒い」部屋になり、冷暖房の効率が悪く、光熱費がかさんでしまうことがあります。 - 建物の躯体(くたい)
柱や梁、床のスラブといった建物の骨格部分は、当然ながらリノベーションでは変更できません。これらのコンクリートにひび割れ(クラック)がないかなど、建物の基本的な健全性も確認しておきたいポイントです。
これらの「見えない部分」の状態は、素人が内見で完全に把握するのは困難です。だからこそ、不動産会社の担当者に「給排水管は更新されていますか?」「断熱工事は行われていますか?」など、具体的な質問を投げかけることが非常に重要になります。誠実な会社であれば、工事の履歴や図面を見せてくれることもあります。質問をためらわず、不安な点を解消しておくことが、後悔しないための鍵となります。
④ 防音性や断熱性が低い場合がある
前述の「見えない部分」の問題とも関連しますが、築古物件をベースにしているため、建物の基本的な性能として防音性や断熱性が低い場合があることも、大きなデメリットです。
- 防音性の問題
特に、隣の部屋との間の壁(戸境壁)が薄かったり、床の構造が音の響きやすいものだったりすると、隣人の生活音(話し声、テレビの音、足音など)が聞こえやすくなります。逆に、こちらの生活音が隣に漏れてしまい、騒音トラブルに発展するリスクもあります。- 建物の構造: 一般的に、木造 < 鉄骨造(S造) < 鉄筋コンクリート造(RC造) < 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の順に防音性が高くなります。リノベーションで内装はきれいになっても、この基本的な構造は変えられません。
- デザイン重視の弊害: 例えば、床をコンクリート打ちっ放しにしたり、フローリングを直貼りしたりするデザインは、おしゃれですが音を吸収する素材がないため、階下へ足音や物音が響きやすくなる傾向があります。
内見時には、壁を軽く叩いてみて音の響き方を確認したり、可能であれば隣の部屋が空室か居住中かを聞いたり、窓を開閉して外の音の聞こえ方を確認したりするといったチェックが有効です。
- 断熱性の問題
古い建物では、断熱基準が現在ほど厳しくなかったため、断熱性能が低いことがよくあります。- 窓サッシ: アルミサッシに単層ガラスという組み合わせが一般的で、これらは熱を通しやすく、結露の原因にもなります。リノベーションで内装は新しくなっても、窓が古いままというケースは少なくありません。窓が複層ガラス(ペアガラス)や樹脂サッシに交換されているかは、断熱性を判断する上で非常に重要なチェックポイントです。
- 壁や天井: 前述の通り、壁や天井に断熱材が入っていない、または不十分な場合、外気温の影響を直接受けてしまいます。
断熱性が低いと、快適な室温を保つのが難しくなり、光熱費の増大に直結します。冬場の内見であれば、部屋に入った瞬間の「ヒヤッと感」で、ある程度の断熱性能を体感できることもあります。
⑤ 周辺相場より家賃が高いケースもある
メリットとして「家賃が割安な場合がある」と述べましたが、その逆のパターン、つまり同エリア・同規模の他の築古物件と比較して、家賃が割高になっているケースも少なくありません。
リノベーションには多額のコストがかかります。デザイン性の高い素材を使ったり、大規模な間取り変更を行ったり、最新のハイグレードな設備を導入したりすれば、その費用は数百万円にのぼることもあります。オーナーとしては、その投下した費用を家賃に上乗せして回収する必要があるため、家賃設定が高くなるのは当然のことです。
したがって、リノベーション賃貸の家賃を比較する際の正しい目線は、「新築物件と比べて割安か」という視点と、「周辺の未リノベーションの築古物件と比べて、上乗せされた家賃分の価値(デザイン性、設備の快適さ)があるか」という二つの視点を持つことです。
例えば、あるエリアの築30年・40㎡の物件の家賃相場が10万円だとします。同じ条件のリノベーション物件が12万円で出ていた場合、そのプラス2万円の差額を払ってでも、そのデザインと新しい設備に住む価値があると感じるかどうか、という判断になります。
「リノベーションだから安い」と安易に思い込まず、必ず周辺の家賃相場を調べた上で、その物件の価値と価格のバランスが自分にとって妥当かどうかを冷静に見極めることが重要です。
リノベーション賃貸はこんな人におすすめ
これまで見てきたメリットとデメリットを踏まえると、リノベーション賃貸はすべての人にとって最適な選択肢というわけではありません。特定の価値観やライフスタイルを持つ人にとって、その魅力は最大限に発揮されます。ここでは、どのような人がリノベーション賃貸に向いているのか、具体的な人物像を3つのタイプに分けてご紹介します。
デザインや内装にこだわりたい人
画一的な間取りやありきたりな内装では満足できない、自分だけの個性的な空間で暮らしたいという強いこだわりを持つ人にとって、リノベーション賃貸はまさに理想的な住まいです。
- 自分の「好き」を表現したい人
「カフェ風のキッチンで毎日料理を楽しみたい」「インダストリアルな空間にヴィンテージ家具を置きたい」「ホテルのようなモダンな部屋でくつろぎたい」といった、具体的な理想のイメージを持っている人。リノベーション賃貸には、そうした多様なニーズに応える様々なデザインテイストの物件が存在します。自分の好きな世界観に囲まれて生活することは、日々の暮らしに大きな充実感と幸福感をもたらしてくれるでしょう。 - インテリアやDIYが好きな人
空間そのものにデザイン性があるため、置く家具や雑貨一つひとつがより一層映えます。こだわりの空間を、さらに自分の手で飾り付け、育てていく楽しみがあります。物件によっては、DIYが可能な場合もあり、壁を好きな色に塗ったり、棚を取り付けたりして、さらに自分好みの空間へとカスタマイズすることもできます。 - クリエイティブな発想を求める人
住空間は、住む人の感性や創造性に影響を与えると言われます。ありふれた空間ではなく、デザイナーの意図や遊び心が感じられるユニークな空間に身を置くことで、新しいアイデアが生まれたり、日々の生活に良い刺激を受けたりすることを期待する人にも向いています。
このように、住まいを単なる「寝食の場」としてではなく、「自己表現の場」「暮らしを楽しむためのキャンバス」として捉える人にとって、リノベーション賃貸の持つデザイン性の高さは、何物にも代えがたい価値となるでしょう。
きれいな部屋に住みたいけど家賃は抑えたい人
新築のような清潔感や最新の設備は譲れないけれど、予算には限りがあるという、コストパフォーマンスを重視する現実的な人にも、リノベーション賃貸は非常に賢い選択です。
- 新築・築浅にこだわらない合理的な思考の人
物件の価値を「築年数」という記号で判断するのではなく、「実際の居住空間の快適さ」で判断できる人。建物の外観や共用部の古さには目をつぶり、その分、専有部分のクオリティと家賃の安さという実利を取ることに合理性を見出せる人です。 - 生活の質を重視する人
家賃を抑えるために、古くて汚い部屋や設備の悪い部屋で我慢するのは嫌だと考える人。リノベーション賃貸であれば、手頃な家賃でありながら、清潔な内装、追い焚き機能や浴室乾燥機付きの風呂、使いやすいシステムキッチンといった、現代の生活に求められる快適な設備を手に入れることができます。浮いた家賃を趣味や自己投資に回すなど、生活全体の豊かさを追求することが可能になります。 - 初めての一人暮らしや同棲を始める人
初期費用や生活費をなるべく抑えたいけれど、せっかくの新生活、きれいでおしゃれな部屋でスタートしたいと考える若い世代にとっても、リノベーション賃貸は魅力的です。新築物件を借りるよりもハードルが低く、それでいて満足度の高い住環境を実現できます。
「きれいさ」と「安さ」という二律背反しがちな条件を、高い次元で両立させられる可能性があるのがリノベーション賃貸の強みです。賢く物件を選べば、理想的なコストパフォーマンスで快適な暮らしをスタートできるでしょう。
新築や築年数にこだわらない人
そもそも、建物の「築年数」という数字に価値を置いていない、あるいは古いものにこそ魅力を感じるという価値観を持つ人は、リノベーション賃貸との相性が抜群です。
- 建物の歴史や風合いを楽しめる人
新築のピカピカな状態よりも、年月を経てきた建物が持つ独特の味わいや温かみに魅力を感じる人。リノベーションによって美しく生まれ変わった空間の中に、あえて残された古い梁や柱、少し歪んだ窓枠などを見つけると、その建物が重ねてきた歴史に思いを馳せ、愛着を感じることができます。新旧が融合した独特の雰囲気を楽しめる感性を持っている人には、たまらない空間となるでしょう。 - 立地や周辺環境を最優先する人
住まい選びにおいて、築年数よりも「どの街に住むか」「駅からの距離」といった立地条件を最優先する人。前述の通り、リノベーション賃貸は都心や駅近など、新築では物件が出にくい好立地にも数多く存在します。「この街に住めるなら、建物の古さは気にしない」と割り切れる人にとっては、希望のエリアで理想の住まいを見つけるための強力な選択肢となります。 - サステナブルな暮らしに関心がある人
新しいものを次々に消費するのではなく、今あるものを大切に使い、再生させていくという考え方に共感する人。リノベーションは、まさに既存の建物を有効活用するサステナブルな取り組みです。リノベーション賃貸に住むこと自体が、環境に配慮した社会貢献につながるという側面に価値を見出す人にも適しています。
「新築でなければならない」という固定観念から自由になり、多様な価値基準で住まいを選べる人にとって、リノベーション賃貸は、新築や中古といったカテゴリーを超えた、新しい住まいの可能性を無限に広げてくれる存在と言えるでしょう。
リノベーション賃貸物件の上手な探し方
リノベーション賃貸は人気が高まっているため、効率的に情報を集め、自分に合った物件を見つけ出すための探し方のコツを知っておくことが重要です。探し方には大きく分けて3つのアプローチがあります。それぞれの特徴を理解し、組み合わせて活用することで、理想の物件に出会える確率が高まります。
不動産ポータルサイトで探す
SUUMOやHOME’S、at homeといった、誰もが知る大手の不動産ポータルサイトは、掲載物件数が圧倒的に多いため、まずチェックすべき情報源です。多くの不動産会社が物件情報を掲載しているため、エリアを問わず幅広く探すことができます。
「リノベーション」などのキーワードで検索する
最もシンプルで効果的な方法が、フリーワード検索欄に直接キーワードを入力して探す方法です。
- 基本のキーワード: 「リノベーション」が最も的確なキーワードです。まずはこの単語で検索してみましょう。
- 関連キーワード: 物件情報によっては「リノベーション」という言葉が使われず、「リフォーム」と記載されている場合もあります。特に、内装を全面的に新しくした「フルリフォーム」物件は、実質的にリノベーションと変わらないクオリティのものも多いため、「フルリフォーム」「リフォーム済」といったキーワードでも検索してみるのがおすすめです。また、デザイン性の高さを打ち出すために「デザイナーズ」という言葉が使われていることもあるため、これも合わせて検索すると、思わぬ掘り出し物が見つかることがあります。
- 組み合わせ検索: 「リノベーション 無垢材」「リノベーション コンクリート打ちっ放し」のように、希望するデザインのテイストや素材名と組み合わせて検索すると、より好みに近い物件を効率的に絞り込めます。
こだわり条件で絞り込む
多くのポータルサイトには、「こだわり条件」や「特徴」を指定して物件を絞り込む機能があります。
- 「リノベーション」「リフォーム」のチェックボックス: 近年、リノベーション物件の需要増を受けて、「リノベーション」や「リフォーム・改装」といった専用のチェックボックスが用意されているサイトが増えています。これを活用するのが最も手軽で確実な方法です。
- その他の条件と組み合わせる: このチェックボックスを選択した上で、さらに「バス・トイレ別」「独立洗面台」「浴室乾燥機」「システムキッチン」といった、リノベーションによって実現されることが多い設備条件を加えて絞り込むと、より質の高い物件を見つけやすくなります。
大手ポータルサイトは情報量が膨大ですが、これらの検索機能を使いこなすことで、効率的に自分の希望に合ったリノベーション賃貸の候補をリストアップできます。
リノベーション物件専門のサイトで探す
よりデザインにこだわった、質の高いリノベーション賃貸を探したいのであれば、専門サイトの活用が非常に有効です。これらのサイトは、独自の視点でセレクトしたおしゃれな物件のみを掲載しており、物件一つひとつの魅力を伝える写真や紹介文が充実しているのが特徴です。
goodroom
goodroomは、リノベーション・デザイナーズ物件に特化した不動産サイトです。特に、同社が手がけるオリジナルリノベーションブランド「TOMOS(トモス)」が有名です。TOMOSは、無垢材のフローリングをベースに、シンプルでナチュラルな空間づくりをコンセプトとしており、どんなインテリアにも合わせやすい普遍的なデザインが人気を集めています。サイトでは、スタッフが実際に取材したリアルな感想や、豊富な写真で物件の魅力を深掘りしており、暮らしのイメージを膨らませやすいのが特徴です。
(参照:goodroom 公式サイト)
R-STORE
R-STOREは、「掘り出し物件」との出会いをコンセプトに、個性的で魅力あふれる物件を紹介するセレクトショップのような不動産サイトです。単なる物件スペックだけでなく、「窓からの眺めが良い」「レトロな雰囲気が素敵」といった、その物件ならではのストーリーや価値に焦点を当てた紹介文が特徴的です。リノベーション物件も数多く扱っており、「R不動産」という呼び名で親しまれています。一般的な検索サイトでは見過ごされてしまうような、隠れた名物件に出会える可能性があります。
(参照:R-STORE 公式サイト)
東京リノベ
東京リノベは、その名の通り、東京23区を中心としたリノベーション・デザイナーズ物件を専門に扱うサイトです。都心のハイクオリティな物件に特化しており、洗練されたモダンなデザインや、建築家が手がけた意匠性の高い物件が多く掲載されています。エリアを東京に絞って、デザインレベルの高い物件を探している人にとっては、非常に効率的なプラットフォームです。サイトのデザインも見やすく、こだわりの空間を直感的に探せるよう工夫されています。
(参照:東京リノベ 公式サイト)
これらの専門サイトは、大手ポータルサイトとは異なる視点で物件がセレクトされているため、両方を併用することで、より広く、深く物件を探すことができます。専門サイトで理想のイメージを膨らませ、ポータルサイトで対象エリアの物件を網羅的にチェックするという使い分けもおすすめです。
地域の不動産会社に直接相談する
インターネットで探すだけでなく、希望するエリアの不動産会社に直接足を運んで相談するのも、非常に有効な手段です。
- 非公開物件・先行情報に出会える可能性
オーナーの意向や、広告掲載の準備中といった理由で、インターネットには掲載されていない「非公開物件」や「先行情報」を不動産会社が持っていることがあります。特に、地域に根ざした不動産会社は、地元のオーナーとのつながりが強く、掘り出し物の情報を持っている可能性が高いです。 - プロの視点からの提案
自分の希望条件(予算、エリア、間取り、デザインの好みなど)を詳しく伝えることで、自分では見つけられなかったような、プロの視点からの物件提案を受けられます。「この物件はリノベーション済みではありませんが、近々リノベーション予定ですよ」といった、貴重な情報を得られることもあります。 - 相談する際のポイント
不動産会社を訪れる際は、ただ漠然と「おしゃれな部屋がいい」と伝えるのではなく、「goodroomのTOMOSのような、無垢材を使ったナチュラルな雰囲気が好きです」「コンクリート打ちっ放しの部屋を探しています」といったように、具体的なイメージや参考にしているサイト名を伝えると、担当者との意思疎通がスムーズになり、より的確な提案を受けやすくなります。
オンラインでの検索と、オフラインでの相談を組み合わせることで、情報収集の網羅性が高まり、後悔のない物件選びにつながります。
後悔しないための物件選び7つのチェックポイント
気になるリノベーション賃貸を見つけたら、いよいよ内見です。写真や情報だけではわからない部分を自分の目で確かめ、後悔のない契約につなげるための重要なステップです。ここでは、内見時に必ず確認すべき7つのチェックポイントを具体的に解説します。
① リノベーションされた範囲を確認する
まず最も重要なのが、「どこからどこまでがリノベーションされたのか」その範囲を正確に把握することです。リノベーションと一口に言っても、その規模は様々です。
- 表層リノベーションか、フルリノベーションか
- 表層リノベーション: 壁紙や床材の張り替え、一部設備の交換など、目に見える表面的な部分だけを新しくしたものです。コストを抑えた改修に多く見られます。
- フルリノベーション(スケルトンリノベーション): 建物の構造躯体(骨格)だけを残し、間取り、内装、配管、配線、断熱材といった内部をすべて一から作り直したものです。見えない部分の安心感は格段に高まります。
この違いは、住み始めてからの快適さやトラブル発生のリスクに直結します。不動産会社の担当者に「この物件のリノベーションはどの範囲まで行われていますか?」「給排水管やガス管は更新されていますか?」と、単刀直入に質問しましょう。工事内容の仕様書や図面があれば見せてもらうのが理想です。
② 水回り(キッチン・風呂・トイレ)の設備をチェック
水回りは毎日使う場所であり、生活の質を大きく左右します。デザインの美しさだけでなく、機能性をしっかりと確認しましょう。
- キッチン: シンクの広さや蛇口の高さを確認し、調理スペースが十分にあるかシミュレーションします。コンロの口数やグリルの有無、収納の容量もチェックポイントです。
- 風呂: 実際に浴槽に入ってみて広さを体感しましょう。シャワーの水圧は必ず出させてもらって確認します。追い焚き機能や浴室乾燥機などの設備の動作確認も忘れずに行いましょう。
- トイレ: 温水洗浄便座の機能を確認します。意外と見落としがちなのが、トイレットペーパーホルダーやタオルハンガーの位置です。使いやすい場所にあるか確認しましょう。
- 洗濯機置き場: 防水パンのサイズと、蛇口の位置をメジャーで測り、手持ちの洗濯機が設置可能か確認します。ドラム式洗濯機の場合は、搬入経路も合わせてチェックが必要です。
③ 共用部分(廊下・階段・ゴミ置き場)の状態
専有部だけでなく、共用部の状態は建物の管理品質や住民の民度を映す鏡です。
- 清掃状況: 廊下や階段、エントランスがきれいに清掃されているかを確認します。ゴミ置き場が整理整頓されているかは特に重要なポイントです。荒れている場合は、管理が行き届いていない、あるいは住民のマナーに問題がある可能性があります。
- 掲示板: エントランスなどに設置された掲示板を確認しましょう。管理会社からのお知らせや、住民への注意喚起(騒音、ゴミ出しルールなど)の貼り紙から、マンション内でどのような問題が起きているかを推測できます。
- 私物の放置: 廊下や階段に自転車やベビーカー、私物などが放置されていないかチェックします。消防法上の問題があるだけでなく、住民のモラルが低いことの表れでもあります。
共用部の状態が悪いと、いくら室内が快適でも、日々の生活でストレスを感じる原因になります。
④ 窓や壁の断熱性・遮音性を確認する
デメリットでも触れた通り、断熱性と遮音性は快適な生活に不可欠です。内見時にできる限りのチェックを行いましょう。
- 窓: サッシの素材(アルミか、より断熱性の高い樹脂か)と、ガラスの種類(単層ガラスか、複層ガラスか)を確認します。サッシの周辺に結露の跡(カビなど)がないかもチェックしましょう。窓の開閉がスムーズか、鍵がしっかりかかるかも重要です。
- 壁: 隣の部屋と接している壁を軽くコンコンと叩いてみます。軽い乾いた音がする場合は壁が薄い可能性があり、詰まった鈍い音がする場合はコンクリートなどで遮音性が高いと期待できます。
- 音の確認: 窓を開けた時と閉めた時で、外の騒音(車の音、電車の音など)がどれくらい遮断されるかを確認します。また、可能であれば平日の昼間と、夜間や休日の両方の時間帯で周辺の音環境を確認できるとベストです。
⑤ コンセントの位置と数
現代の生活では、スマートフォン、PC、各種家電など、多くの電源を必要とします。リノベーションで内装はきれいになっても、コンセントの数や位置が古いままというケースは意外と多いです。
- 数と位置の確認: 各部屋にいくつコンセントがあるか、どの壁にあるかをすべて確認します。特に、ベッドを置きたい場所、テレビやPCデスクを置きたい場所にコンセントがあるかは重要です。
- 生活のシミュレーション: 自分の持っている家具の配置をイメージしながら、「ここに掃除機をかける時にコンセントが届くか」「キッチンのこの場所でミキサーを使いたい」といったように、具体的な生活シーンを想定して過不足がないかを確認します。
- テレビ・ネット回線: テレビアンテナ端子や、光回線の端子の位置も確認しておきましょう。
コンセントが不足していると、延長コードだらけの見苦しい部屋になってしまい、せっかくのデザイン性が台無しになってしまいます。
⑥ 築年数と建物の構造
リノベーションされていても、建物の基本情報は重要です。
- 築年数と新耐震基準: 1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた建物は「新耐震基準」を満たしており、震度6強〜7程度の大規模地震でも倒壊・崩壊しないことが基準とされています。それ以前の「旧耐震基準」の建物と比べて、耐震性に大きな違いがあります。築年数が古い物件の場合は、この新耐震基準を満たしているかどうかを必ず確認しましょう。
- 建物の構造: 前述の通り、建物の構造(木造、RC造など)によって防音性や耐火性が異なります。RC(鉄筋コンクリート)造やSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造であれば、一般的に防音性は高いと期待できます。
これらの情報は、万が一の災害時の安全性や、日々の静かな生活に直結する重要な要素です。
⑦ 周辺環境
最後のチェックポイントは、物件そのものだけでなく、その周辺環境です。これは一般的な物件探しと同じですが、改めて確認しましょう。
- 日当たりと眺望: 時間帯による日当たりの変化を確認します。南向きでも、前に高い建物があれば日当たりは期待できません。窓からの眺望も、毎日目にするものなので重要です。
- 駅からの道のり: 最寄り駅から物件までの道のりを実際に歩いてみましょう。夜間の明るさや人通り、坂道の有無、街灯の数などを確認し、夜でも安心して帰宅できるかチェックします。
- 生活利便施設: スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストア、病院、銀行といった生活に必要な施設が、徒歩圏内にどの程度あるかを確認しておくと、入居後の生活がイメージしやすくなります。
これらの7つのポイントを、チェックリストとして持参し、一つひとつ冷静に確認していくことで、「おしゃれな雰囲気に舞い上がって契約してしまったけど、住んでみたら不便だった」という失敗を未然に防ぐことができます。
リノベーション賃貸に関するよくある質問
最後に、リノベーション賃貸を検討する際によく寄せられる疑問についてお答えします。入居後や退去時のトラブルを避けるためにも、事前に正しい知識を持っておきましょう。
DIYでさらに改装することはできる?
「せっかくのおしゃれな空間だから、さらに自分の手でカスタマイズしたい」と考える方も多いでしょう。しかし、賃貸物件である以上、DIYで改装できるかどうかは、すべて賃貸借契約の内容と大家さんの許可次第となります。
- 原則として無断での改装は禁止
一般的な賃貸借契約では、借主は退去時に部屋を元の状態に戻す「原状回復義務」を負っています。そのため、壁に穴を開ける、壁紙を張り替える、塗装するといった、建物の価値を変動させる可能性のある行為は、大家さんの許可なく行うことはできません。無断で改装した場合、退去時に高額な修繕費用を請求される可能性があります。 - 「DIY可能物件」の存在
近年、入居者のニーズに応える形で、「DIY可能」や「カスタマイズ可能」といった条件を掲げた賃貸物件も増えてきています。こうした物件であれば、契約で定められた範囲内で、壁の塗装や棚の設置などを自由に行うことができます。リノベーション物件の中にも、DIYを歓迎する物件は存在します。
ただし、「DIY可能」といっても、何でも自由にできるわけではありません。- 改装可能な範囲: 「この壁一面だけは塗装OK」「ビス打ち可能な下地壁がここにある」など、改装できる範囲が細かく指定されているのが一般的です。
- 原状回復義務の有無: DIYした部分について、退去時に元に戻す必要があるのか、そのままで良いのか、契約内容を必ず確認する必要があります。「原状回復義務なし」となっていれば、自分の好きなように改装した状態で退去できます。
- 必ず契約前に確認を
もしDIYを希望する場合は、物件探しの段階で不動産会社に「DIY可能な物件を探している」と伝えましょう。そして、気になる物件が見つかったら、賃貸借契約書や重要事項説明書でDIYに関する特約を隅々まで確認し、不明な点は必ず質問して書面で回答をもらうなど、慎重に進めることがトラブル回避の鍵です。
退去時の原状回復費用は高くなる?
「デザイン性の高い特殊な素材が使われているから、退去時の原状回復費用が高くつくのではないか」という不安もよく聞かれます。この点については、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の考え方を理解しておくことが重要です。
- 原状回復の基本原則
ガイドラインでは、原状回復について以下のように定義されています。- 大家さん(貸主)の負担となるもの:
- 経年変化・通常損耗: 時間の経過によって自然に発生する劣化や、普通に生活していて生じる損耗。例えば、家具の設置による床のへこみ、日光による壁紙の色褪せ、画鋲の穴(下地ボードの張り替えが不要な程度のもの)など。これらは家賃に含まれていると解釈され、借主が費用を負担する必要はありません。
- 入居者(借主)の負担となるもの:
- 故意・過失、善管注意義務違反: 借主の不注意や通常とは言えない使い方によって生じさせた損傷。例えば、タバコのヤニ汚れ、飲み物をこぼしたシミの放置、壁に大きな穴を開けた、ペットによる傷や臭いなど。
- 大家さん(貸主)の負担となるもの:
- リノベーション賃貸特有の注意点
この原則は、リノベーション賃貸であっても変わりません。普通に暮らしていて生じた傷や汚れで、高額な費用を請求される心配は基本的にはありません。
しかし、注意すべき点もあります。それは、借主の過失によって高価な素材や特殊な設備を傷つけてしまった場合です。- 具体例: 例えば、無垢材のフローリングに重いものを落として大きな傷をつけてしまったり、デザイン性の高い輸入物のタイルを割ってしまったりした場合、その補修費用は一般的な建材よりも高額になる可能性があります。その場合、借主の負担額も大きくなるリスクがあります。
結論として、リノベーション賃貸だからという理由だけで原状回復費用が不当に高くなるわけではありません。しかし、特殊な建材が使われている分、うっかり傷つけてしまった場合の修繕費が高くつく可能性はゼロではありません。日頃から丁寧な暮らしを心がけるとともに、万が一の事態に備えて、入居時に部屋の写真を撮っておく、火災保険に含まれる「借家人賠償責任保険」の内容を確認しておくといった対策も有効です。
(参照:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)
リノベーション賃貸は、正しく理解し、賢く選ぶことで、あなたの暮らしをより豊かで快適なものにしてくれる素晴らしい選択肢です。この記事で得た知識を元に、ぜひあなただけの理想の空間を見つけてください。